11cf7667c0badef743abf4f0c49c9218_s エッセイ連載

【経営者のスクリーン】第5回:「男はつらいよ 寅次郎夕焼け小焼け」 1976年 

鴻池 和彦 ( 株式会社cinepos 代表 )

(監督/山田洋次 出演/渥美清 太地喜和子 宇野重吉 倍賞千恵子)

国民的日本映画「男はつらいよ」。名優・渥美清が演じる“フーテンの寅さん”の恋愛模様と悲喜交々を描いた人情喜劇映画として全49作品が制作されました。今回取り上げるのは、シリーズ中でも屈指の名作と云われる第17本目です。その作品を解説いたしますと――

例によって、些細な事で故郷の柴又「とらや」を帰省早々飛び出してしまった寅次郎が、上野の焼き鳥屋で遭遇した無銭飲食未遂の老人を憐み「とらや」に連れて帰ることに。翌日、行商に出た寅次郎がいない折、老人は横柄な素振りで、「とらや」の面々を煙に巻きます。事情を聴いた寅次郎は老人をたしなめると、老人は「とらや」を旅館と勘違いしていた事を告白、そしてこれまでの非礼を詫びる為、その場で自身が書いた墨絵を神田の古本屋に持って行って欲しいと寅次郎に請うのです。

老人の描いた絵は7万円(※現在の貨幣価値では30万程度か)の高値で買われ、寅次郎は仰天します。老人の素性は日本絵画の巨匠・池ノ内清観でした。清観が自宅に戻ったと聞くと、また揉め出す始末。そして「とらや」を飛び出し、寅次郎は兵庫県龍野市へと旅に出ます。そこで偶然、寅次郎は清観と再会。清観は龍野市から招待され、市の観光課の接待を受けていました。清観と親しげな寅次郎の様子から寅次郎も厚遇され、そこで龍野芸者のぼたんと知り合います。

ぼたんと意気投合した寅次郎。「とらや」に戻ってもなお、その思い出に浸っていた矢先、ぼたんが「とらや」に現れます。ぼたんの上京には理由があり、過去にぼたんが200万円という大金を預けた先が倒産し、相手は詐欺まがいといい、ぼたんはその金銭を取り戻すために東京に来たのでした。

ぼたんはその相手と会いますが、相手からは自身の会社が既に無い事、自身には資産は無く、身の回りにあるものは全て妻と一族が所有するものであり、裁判でもすればいいと冷たく突き放します。

法律や世間の常識の前に打ちひしがれたぼたんを前に寅次郎は義侠心に掻き立てられ、「とらや」を飛び出します。寅次郎が向かった先は清観の自宅でした。ぼたんの事を切々と話し、清観に絵を描いてほしいと懇願する寅次郎。しかし清観は絵は金の為に描くものではないと寅次郎を諭し申し出を拒絶します。清観の不人情を責める寅次郎。

ぼたんが去り、寅次郎も「とらや」を去ります。そして寅次郎は龍野を訪れ、ぼたんに再会するやいなや、ぼたんは寅次郎に自宅の居間に掛けられた清観から贈られた牡丹が描かれた立派な絵画を見せるのでした。龍野市は200万円で買い取る意向を示しますが、ぼたんは誰にも売らないと言い放ちます。瞬間、寅次郎はぼたんの手を取り、外に出て東京の方角に立ち、清観にお詫びと感謝の言葉を告げるのです。

本作品は人情喜劇として秀逸ですが、テーマとしての金銭、その価値とは何かを考える意味が大きいと考えます。まず、清観はなぜ絵を描く気になったのか、解説では割愛しましたが、先に非礼の代償として差出したはずの7万円という対価は、葛飾柴又の人情として受け取る事は相応しいものではないとする清廉な心根から、清観宅に寅次郎の妹のさくらが返却に訪れるのです。それが意味するものは、困った人はみんなで助け合おうとする一種の道徳観が下町情緒には根強いと推察されます。何かをしてあげたから、それなりのものを寄こせというギブアンドテイクの発想とは異なります。

もし「とらや」の面々が7万円を受けとっていたら、どうでしょうか。清観は絵を描く云われはなかったと言えます。清観はまさに寅次郎の為に彼の心根に報いるために絵を描いたと言えます。“情けは人の為ならず”寅次郎の行動にはそこが確かに窺えます。

そして絵を売らないと言い放つぼたんは、寅次郎との出会いによって人の為に尽くしてやまないその人間性に惹かれ、お金に換えられない価値を知り、人の思いからなる絵の凄さを体感できたのです。

ここで経営者という観点で何を洞察できるかが鍵となりますが、単なる儲けるために生産していく構造は合理性に基づくものでしかない事に気づく必要があると考えます。合理性は確かに計算しやすい側面がある一方、付加価値については計算で生み出されるものではありません。付加価値はイコール感動という言葉に置き換えられると考えられます。予想を超えたものにこそ感動は成立するのであり、心を打つ意外性とも言い換えられます。経営者はその点を考慮して、世に我社の製品を問うべきだと思います。

やはりキーワードは心です。心を深く探求していく姿勢こそ道理を見極められる事に繋がっていくのではないでしょうか。本作はそうしたポイントに帰結できる素晴らしさを知る意味でもぜひ観ていただきたい作品と言えます。

寄稿者の写真 鴻池 和彦 氏のプロフィール

1971年下関市生まれ。1993年円谷プロダクション入社。
その後、東北新社、ギャガ・コミュニケーションズ等で企画・制作・プロデュースに従事。
2005年下関帰郷後、下関大和町郵便局長を務める傍ら、
これまで培った映画製作方法論を活かし映画制作cinepos(シネポス)を設立。
映画・CM・PVと映像制作は多岐にわたる。2016年6月に株式会社cineposを下関にて起業。
主なプロデュース・脚本・監督作品
「MAIL」(出演 須賀貴匡、栗山千明 ※プロデュースのみ)
「雨の町」(出演 和田聰宏 真木よう子 成海璃子 ※プロデュースのみ)
「センシティブ」(出演 小山田サユリ 春永由香 仲慎太郎)
「ソロウ・オア・スマイル」(出演 角島美緒 ロバートニシムラ MARIA)
「ここに、いる」(出演 伴大介 高樹澪)

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