社員が独立したいと言い始めたときに社長として気をつけるべきこと

投稿者:
島田 直行(弁護士)
2017.02.19 労働事件

 労働事件は,退職時に引き起ることも珍しくありません。これまで社長に対して抱いた感情が退職を契機に表面化するといっても過言ではないでしょう。退職時にトラブルになりがちなのは,社員が独立して同じ仕事をしたいと言い始めたときです。社長としては,「そんな勝手なことは許せない」という気持ちにもなるでしょうが禁止することは簡単にできることではありません。社長としての対処法について整理しておきましょう。

独立を禁止することは原則としてできない

 中小企業の売上は,基本的にサービスや商品ではなく人についてます。人が独立すれば,それにともなって顧客も引っ張られることもあります。あるいはある社員が独立して同じようなビジネスを始めるとせっかく積みあげてきたビジネスのノウハウが利用されてしまうことになります。そのため社長としては,社員が独立して同じ仕事をすることをできるだけ禁止したいという気持ちになるでしょう。むしろ社長としては,何らかの法的根拠をもって禁止できてあたりまえと考えているかもしれません。実際多くの就業規則では,退職後も同じ仕事をしてはならないと記載していることがよくあります。

 ですが個人には,職業選択の自由というものがあります。誰がどのような仕事をするにしても基本的には自由であるべきです。そのため会社の都合で一方的に「同じ仕事をすることは禁止する」ということはできません。ですから通常のケースでは,独立を禁止することは容易ではないと考えておいた方が無難です。

 社長のなかには,社員が独立して顧客を奪ったら損害賠償をすると主張する人がいます。
 このような場合でもなにをもって違法な行為とするかは難しいところです。たんに顧客が「担当者が独立したから取引先を変える」というのであれば独立した者による違法な行為とはいえないでしょう。そもそも顧客にはどこと取引するかの自由があるはずです。担当者が好きだから取引先を変更するというのであれば,それは自由競争の範囲内のことでどうしようもないです。
 また損害といっても単に独立後に売上が下がったというだけでは,損害とはいえません。売上が変動するのは経営においてはあたりまえのことであり社員の独立とは無関係の事情で売上がさがることも想定されます。あらゆることを社員の独立に原因を求めることはできません。

競業を禁止するために気をつけるべきこと

 仮に同じ仕事をすることを禁止するのであれば,それなりの制限と代償を会社としても用意しておく必要があります。将来にわたり同じ仕事をしてはいけないというのであれば,あまりにも制限しすぎておりルールとしても無効になるでしょう。

 就業規則などで制約するにしても場所と期間をまず制限しないといけません。例えば「こちらの本店所在地と同じ場所で1年間」といった制約です。どこまで制限するべきかは,担当していた業務の内容や勤務している会社の事業の規模によっても異なってきます。そのため事前に会社側の案件を扱う弁護士に相談するべきでしょう。

 また禁止をするのであれば,それにともなう経済的な補償も必要になってきます。これは退職金とは別に支払うべきものです。「これまで雇用してきたのだからなぜ支払わないといけないのか」というのは理由にはなりません。

 このように独立を禁止するのは,相当の負担を会社としてもともなうことになります。就業規則や退職時の書面だけで容易に禁止できるものではありません。

 退職時に「同じ仕事には就かない」という合意書への署名を求めることもあります。これも社員に署名を強制させることはできません。独立を考える人であれば,そのような書面に署名はしないでしょう。仮に退職のためにやむを得ず署名しても「社長が署名しなければ退職できないと説明してきた」とされて効力が否定されるときもあります。

 現実的には競業を禁止することはできないとイメージしておいた方がいいです。

むしろ独立を応援するのもひとつです

 こういった社員の独立においては,社員ともめてわかれるのがもっとも残念パターンです。双方にとってなにもメリットがありません。そこで発想を変えてむしろ独立を応援するというのもひとつの解決方法です。

 起業当時は社員としても売上がなくなにかと不安なものです。そこであえて業務の一部を独立した社員に発注するというわけです。これによって自社の業務の一部を外注化することができるので会社にとってもメリットがあります。

 しかも外注のさいの契約内容を工夫することでビジネスモデルが他のライバル会社に伝わることを防止することもできるでしょう。

 社員にとっても起業時の資金繰りに目途が立つために安心できます。なにより社長が応援してくれるということを恩に感じるようになります。そうすると会社に迷惑をかけるような行為は通常しないものです。

 このようにあえて応援することは,双方にとってメリットがあります。応援しながらうまく自社の事業に貢献してもらえる方法がないか検討してみてください。

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