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ことのは

インタビューcase3

GUEST

社会保険労務士法人下関労務管理事務所 所長
兒林 周造

昭和28年生まれ。愛知大学経済学部卒業。
大学卒業後、8年間のサラリーマン経験を経た後に社会保険労務士登録。
山口県社会保険労務士会下関支部副支部長、労働保険事務組合下関商エセンター専務理事、会長等を歴任し、平成8年に下関労務管理事務所3代目所長に就任。
趣味は音楽。下関市民オーケストラ初代パーカッション奏者。地元小・中学校で太鼓奏法指導も行っている。

社会保険労務士が考える「労働問題」とは?

島田
現在、島田法律事務所のウェブサイトで専門家のインタビューを掲載しています。今回は、社会保険労務士としての話をお伺いしたいと思い、兒林先生にお願いした次第です。どうぞよろしくお願いします。
兒林氏
こちらこそ、よろしくお願いします。
島田
早速なのですが、先生はなぜ、社会保険労務士になろうと思われたのですか?
兒林氏
実は、高邁(こうまい)な志を持ってこの世界に入ったわけではありません。社会保険労務士になる前に、サラリーマンの経験が8年あります。当時「このままこの職場にいていいものか」と疑問を感じていました。わがままな私は窮屈に感じ、転職を意識し始めていました。「サラリーマンではなく生涯現役を貫きたい」そんな気持ちがありました。しかし、転職するにも妻と子2人、家のローンがあり悶々とした日々を過ごしていました。そんな時、趣味が縁でこの世界に入りました。きっかけは、琴古流尺八教室です。当事務所の先代の所長が免許皆伝を受けた奏者として生徒の一人でした。その所長から職員募集しているとの話があり、それがご縁で採用していただきました。
島田
何と、尺八が結んだご縁なのですね。それから社労士の資格を取得されて、現在に至っているということですね。当時の先代の所長に「付いて行こう」と思われたのには、どんな理由があったのですか?
兒林氏
この所長が無欲な人で、次の世代の担い手を育てることを大事にしていました。公私混同をしない、事務所を私物化しない、身内には継がせないといった考えを生涯貫いた人でした。そのことに感動したという理由もあります。その代わり厳しかったですよ(笑)。今もその理念は引き継いでいます。
島田
先生の事務所のウェブサイトに「いつでも誰かが働き、いつでも誰かが遊んでいる社会の実現に貢献します」と掲載されていますが、これは先生のお考えでもあるのでしょうか?

「神様も働いていたという国」は他に見当たりません

兒林氏
当事務所では、しっかり有給休暇を取ってもらいたいと考えています。ですが、いつでも誰かが働いて、いつでも他の誰かがカバーをしてくれないと休みが取れませんよね。ドイツに行った時、このお互いが休みの日にカバーし合う機能が定着していることに感心しました。
島田
士業は、一匹狼ではなかなか難しいところがあります。
兒林氏
そうですよね。ですが「休み過ぎる」という弊害もあります(笑)。
しかし、ドイツは年間150日休んでも、労働生産性は日本の1.5倍ということに驚きます。
島田
兒林先生にとって「働く」とはどういうことですか?
兒林氏
日本の伝統的な労働観は働くことに親しみを持ち、人間としての完成を目指す「行」として捉えています。また、仕事を通じてお客様、委託先から実は勉強させてもらっていると常々感じています。
島田
英語では労働のことを「labor」と言いますが、これには「罰」という意味もあるのですね。「苦しみ」という意味も。日本人にとって「働く」とは一体何なのでしょうか?
兒林氏
宮崎県高千穂町の天岩戸神社に行った時に気付いたことがあります。天照大御神は天岩戸で機織りをしていたんですね。何と、神様は働いていたのです。「神様が働いていた」という神話がないか探してみたのですが、他の国には見当たらないように思われます。日本人の労働に対する親近感を示していると言えるのではないでしょうか。
島田
そのアプローチはとても面白いですね。確かに聞いたことがありません。その考え方は日本人独特かと思います。
兒林氏
その通りですね。日本の労働観は世界の中で極めて特異なものであるようです。ですから、日本人は欧米と比べて労働し過ぎではないかと思うことがあります。
島田
非常に興味深いお話です。ところで、先生が社労士になられたのはおいくつのときですか?
兒林氏
30歳のときに当事務所に入ったのですが、資格はありませんでした。当時の先輩の売上に追い付くため2年間は多くの事業所に飛び込み営業をして、資格試験を受けたのはその後です。おかげさまでかなりお仕事をいただけるようになりました。
島田
当時、営業に行くのは辛くはなかったですか?
兒林氏
実は、前職でも営業をしていましたので、名刺を破られたり、門前払いされたり、嫌な思いをたくさんしたことが今思えば勉強になりました。
島田
さまざまな労働事件をご覧になってきて、時代とともに変わってきたこととは何でしょうか?

労使関係が時代とともに変わってきた理由とは

兒林氏
昔は労働問題が起きても、「1カ月分の解雇予告手当を払うか払わないか」で話は片付いていたのですが、今は「争い」が増えてきた感じがします。ユニオンに駆け込むケースが増えてきました。また、先日も学生アルバイトの深夜手当の割増し要求の例があり、学生もよく勉強しています。
島田
経営者と従業員との関係が変わったと思うことはありませんか?
兒林氏
随分変わりましたね。
島田
それはなぜだと思われますか?
兒林氏
終身雇用・年功序列・企業別組合が大きく揺さぶられ、法律では労働契約法をはじめ、法の整備が大きく関わっていると思います。社会保険労務士の立場から見ると、賃金と労働時間の問題は永遠のテーマのような気がします。また、31年前に「男時女時の文明論」(木村尚三郎著)で女老外(じょろうがい)という言葉で表現された①女性の活用 ②老人(高齢者)の雇用 ③外国人雇用が、これからいよいよ大きなテーマになりそうです。
島田
今こんなに大きな事務所を経営なさっていますが、事務所の価値観として一番大切にされているものは何でしょうか?
兒林氏
やはり、事務所を「潰してはならん」ということ。潰れたらお客さんに迷惑が掛かります。また、従業員を路頭に迷わせることになります。そんなことは当たり前と思われるかもしれませんが、人を一人でも雇用したら、もう職場は自分のものではないのです。そう思うことで贅沢しなくなります。そして税金も経費と思い爪に火を灯す経営をし、内部留保を厚くして筋肉質な経営をしなければ、今の時代は何が起きるか分からない時代ですから。原理原則を大事にしたいと思っています。
島田
尺八などの伝統芸能と同じですね。型が決まらないと成長はないと思います。原理原則がしっかりできていなければ実りがありません。
兒林氏
それを座標軸に据えることで、迷いは少なくなりました。
島田
本当に大事なことですよね。今後の展望をお聞かせいただけますか?
兒林氏
後進が育ってきているので、5年後にはバトンタッチしたいですね。次のリーダーの育成、営業体制の確立、ITに強い人間の育成といったことを考えています。
島田
先生は、この事務所で事業承継を受けたわけですが、そのときに辛かったことはありますか?

経営者なら、相撲は土俵の真ん中でとるべきです

兒林氏
諸先輩方がいたため、その方たちに「どう対応したらいいのか」という悩みがありました。
島田
私の顧問先でも同じような悩みを抱えている方がいます。そういった方々へのアドバイスをお願いします。
兒林氏
言葉は悪いのですが、古参の従業員に対して「仁義を切り、頭を下げること」です。「私は後から入社し経験も少なく年端もいかないけれども、どうか協力していただけないだろうか」と。もう一つ重要なのが、能力と熱意はあるのですが、考え方を間違わないように。努力はしているのですが、間違った方向に努力して結果がずれてマイナスにならないよう注意が必要です。
島田
それを乗り越えなければならないわけですね。弁護士でも労働事件が増えてきています。弁護士に期待されることは何でしょうか?
兒林氏
私たちでは手に負えない問題が多いですね。そのときはすぐに相談したいと思っています。私たちが経営者に「就業規則を作りなさい」と言ってもなかなか作らないのですが、島田先生がセミナーで同じことを言うと、皆さん作るんですよね(笑)。そういうのを何度も見ました。
島田
士業にはそれぞれ領域があると思うのです。役割分担ということではないでしょうか。兒林先生を尊敬していますし、いつかそうなりたいという気持ちもあります。今日、ここに私の若い従業員を連れて来たのは、大事なことを先生から感じ取ってもらいたいと思ったからです。最後に、若い経営者にこれだけは言っておきたいということはありませんか?
兒林氏
判断基準をしっかり持つべきということと、相撲は土俵の真ん中でとるべきということです。切羽詰まってから動くのではなく、何事も早め早めに準備できれば一番です。問題が起きたときに「ここに頼もう」「これはできる」「これはできない」といった具合にですね。
島田
先生、本日はお忙しい中ありがとうございました。
兒林氏
こちらこそ、ありがとうございました。