リスクを回避・減少させるための考え方は”リスクゼロ”を目指さないこと

投稿者:
島田 直行(弁護士)
2019.08.09 経営者の方々へ

リスク対策を考えるうえでもっとも大事なことは,リスクはゼロにしないことだ。私たちは,適切な対策をすればリスクをゼロにすることができると安易に信じている。リスクとは将来に対する可能性。将来のことなど誰にとってもわかるはずがない。十分後に自分が生きていることも期待であって確実なことではない。いかに努力してもリスクがゼロになるということはまずはない。「自分たちの努力でリスクがゼロにできる」と考えると「あれも危険」「これも危険」ということになってなにもできなくなってしまう。リスクへの過剰な反応は自由な活動を制限することになる。しかも「リスクをゼロにする」ことが絶対的な課題になると隠蔽や不正が発生する。


 社長としてリスクをゼロにしようと考えれば新たな挑戦をなにもしないことになる。会社を取り巻く環境は日々変化している。周囲が変化しているなかで自社のみ変化しないとなればいつか環境との整合性がつかなくなり衰退していく。この時代においては変化しないことこそリスク。仮に挑戦しつつリスクがゼロという状況があれば,そこにはなんらかの不正があるだろう。リスクをともなわない成長などあまりにも不可解である。だからこそあるべき社長の考え方は,リスクを否定するのではなく「リスクを適切な範囲で引き受ける」というものである。この考え方を前提にしてリスクとの向き合い方について説明していこう。ポイントになるのは,①発生の抑制②被害の制限③損害の回復である。


 リスク対策の基本は,発生可能性をできるだけ抑制することからはじまる。これはリスク対策という言葉からしてもイメージしやすい。一般的なリスクコンサルティングにおいても発生の抑制という観点からアプローチするものが多い。発生の抑制を検討するうえ必要なことは,具体的な仕組みを導入しなければ意味がないということだ。リスク対策といえば,たんに個人の意識向上を求めるだけの場合が少なくない。例えば労災事故にポスターを設置したり講習会に参加したりといったものだ。個人の意識は,うつろう。日々の業務が多忙になれば,目の前の業務に意識が向いてしまう。あるいはメンバーが変更されると自ずとリスクについて情報を得ている人と得ていない人がうまれてくる。そこでリスク対策は,特定の個人から離れたものでなければならない。つまり制度あるいはシステムといった個人から離れた仕組みのなかでリスク対策が実施される必要がある。


 次のポイントは,被害の制限。リスクは,いかに事前に対策を練っていたとしても発生する。社長として「なぜこんなことに」と呆然としている時間はない。ある食品を扱う社長は,異物混入の可能性を指摘された。被害額は相当になる可能性があったが瞬時に製造停止と一斉検査を指示した。そこには一瞬の迷いもなく社長としての矜持を感じた。すばやい判断によって被害を最小限に抑えることができた。弁護士としては,こういったトラブルに関わることが多いが優秀な社長であるほど被害の制限が優れている。怪我をすれば痛みがあっても止血をしなければならない。仮にリスクが発生したとしたらどの時点で損切りをするかも事前に考えておくことが必要である。なにもかも守ろうとするほどに被害は拡大する。


 最後のポイントは被害の回復。被害を制限しても会社が無傷ということは通常ありえない。なんらかの被害が生じてしまうため通常の状況に戻すべく被害の回復について対策をとっておく必要がある。会社に生じる損は,経済的損害,信用毀損及び社員モチベーションの低下などがある。経済的な損害については,日頃の積み立てや保険の活用を検討する。会社の信用毀損については,広報活動が中心になる。さらに社員のモチベーションについては,社長の明確な指針の提示が求められる。こういった損害の回復は,損害が発生したあとに検討してもうまくいかない。リスクのないときに対策をとっておくことでこそ被害の回復もスピードをもって実現することができる。「今日できることを実際にやる」ことこそリスク対策である。