読書感想:DXの思考法 日本経済復活への最強戦略

投稿者:
島田 直行(弁護士)
2021.09.07 (更新日:2021.09.08) 読書感想

新型コロナのもとでいっきに広まった言葉のひとつにDX(デジタルトランスフォーメーション)がある。「日本はデジタル化に遅れている。どうにかしないといけない」という危機感は,コロナ以前からあったものの危機感をベースに改革にのりだすことまではなかなかなかった。よく言われることだが人間は基本的に変化を嫌う存在だ。デジタル化の必要性を理解しつつも既存のシステムで「それなり」にうまくまわすことができると「デジタル化は他の会社の動向をみて」ということになる。それでもっていつまでも変わることができず新型コロナという外部環境の急激な変化によってあわてて導入を検討することになった。急ごしらえで対応してしまうからこそどことなくパッチワーク的で「これでいいのか」という疑問がいつまでも喉に引っかかった魚の骨のようにつきまとう。「なんとなくよさそう」と感じたシステムを手当たりしだいに導入してできあがったものはなんともいびつなものになったというのは珍しいものではない。「デジタル化を進めないといけない」と感じる経営者ほどこういった泥沼にはまってしまう。体系的に会社のシステムを統括できる人材がいないことがこういった泥沼に陥る最大の要因だろう。

企業のDXがなかなかうまくいかない理由は,DX≒クラウドサービスの導入とイメージしてしまうからであろう。クラウドサービスは,DXを実行するうえで必要不可欠なサービスだろうがあくまで個別の技術論ともいえる。僕らが最初にするべきことは,こういった個別のサービスの探求ではないだろう。そもそも論としての「DXとはなんだろう」という定義の理解から始めるのが先決だ。そこが決まらないからなんとなく最新のサービスばかりを求めてしまって,そして飽きる。企業のDXについての在り方を考えるうえで「DXの思考法 日本経済復活への最強戦略」は,示唆に富んでいる。個別のサービスについて触れているわけではなく「デジタル化とはなにか」ということがわかりやすく整理されている。細かい技術論ではなく哲学のようなものだ。自社のDXを長期的スパンで実現していきたいという経営者にはぜひ手に取っていただきたい。

本書のなかにも触れてあるがDXというのは,既存のシステムの一部をデジタル化するというせこい発想ではない。これではいつまでも基軸がアナログ発想のままだ。アナログのシステムをデジタルのシステムに移行するというのではなく,アナログのシステムを切断してゼロベースでデジタル化するというのが個人的には現実的発想ではないかと考えている。とくに企業のコアとなる事業構造部分をデジタル化するようにしないといくらバックオフィスなどをデジタル化してもDXにはつながらないであろう。自戒も込めて言えるのは,大抵の企業はコア部分のデジタル化に対して意識が向いていない。

本書の中で「なるほど」と感じたのは本棚にない本のメタファーだ。本屋に行って本棚を見る。そこには本(ここでいうとすでに提供されているクラウドサービス)が並んでいるが本当に欲しい1冊は見つからない。企業としては自社のDXを考える場合には,本棚にある本とない本をまず整理することから始めるべきということだ。そして本としてあるものは執筆するのではなく購入する。そのうえで見つからない部分についてのみ自社で執筆するということになる。簡単に言えば使えるものは使い倒せということだろう。これって中小企業においては本当に大事。安易に自社オリジナルのシステムを依頼して高額な費用を支払ってうまくいかないというケースはいくらでもある。知性とは「できることとできないことをわけること」とはよくいったものだ。