読書感想:Humankind 希望の歴史

投稿者:
島田 直行(弁護士)
2021.08.16 (更新日:2021.08.26) 読書感想

人生においては,たまたま手にとって思わぬ衝撃を受ける1冊というものがあります。Humankind 希望の歴史は,まさにそういう1冊です。仕事に飽きてAmazon見ながら「ちょっと読んでみようか」と購入しました。結果として他の作業を差し置いて連休中に一気に上下巻を読み終えることに。読了後にこれほど穏やかで前向きになるような本も少ないでしょう。

では「本書はどのような本なのか」と質問されるとなかなか回答に困るところです。ひたすら「人間の本質はなにか」について考え尽くされています。基本的なロジックは,既存のふたつの人間観についてです。ひとつはホッブズに代表されるような性悪説。もうひとつはルソーに代表される性善説。私たちは,とかく「人間の内面にはどこか狂気や偽善が潜んでいる。他人を安易に信頼することは危険だ」ととらえるように仕向けられています。例えば人はちょっとしたことで凶悪な行動にでてしまう危険があるという認識などです。こういった性悪説的な認識が広く共有されているのは,性善説に比較してインパクトがあるからです。ニュースにしてもほのぼのとした日常ではニュースになりません。事件や事故だからこそニュースとして広く報道されることからして納得できるでしょう。

こういった「人間の本質は悪だ」というテーゼに対して「実際は違う。人間の本質は穏やかで友愛的だ」と唱えるのが本書です。だからタイトルが希望の歴史なんですね。本書は,歴史を振り返りながらいかに人間の本質が善であるかについて説明を重ねていきます。それは旧来の歴史観とは大きく異なるところがあります。歴史から真理を抽出しようとする著者の能力は圧巻です。例えば悪意は距離のある者同士であるほど拡大するというものがあります。つまり対立する両チームであっても実際に小さな交流を実行していけば現場サイドではわかりあえ友愛の感情を抱くことができます。ですが組織の上部など現場から離れている人間には,そういった交流の機会がないために現場サイドでの良好な関係が受け入れられずより対立を深めるようになってしまうなど。とにかく読むと「しんどいけど人間っていいものだな」と感じること間違いない。

僕らは,いつも人間関係になにがしかの悩みや課題を抱いているものです。それを解決したいと願いつつも「どうすれば解決できるのか。いったん壊れた人間関係を修復するのは可能なのか」ということで苦しむことが多々あります。そういった感情に襲われるほどに冷静に事実を見ることができずよりいっそう他者との距離感が生まれてしまうものです。本書を手にすれば明日からの周囲との関わり方が少しだけ変わるかも知れません。明日に絶望するのではなく希望を描く。青臭い言葉かも知れませんが苦しい時間を乗り越えるのは,わずかであっても希望の光のみです。そして希望は与えられるのではなく自分で探しだすほかありません。