読書感想:NETFLIXの最強人事戦略

投稿者:
島田 直行(弁護士)
2021.08.29 (更新日:2021.08.30) 読書感想

このところ人事について改めて研究しているので「NETFLIXの最強人事戦略」を参考になるかと思って読んでみた。どうせ学ぶなら世界の革新的なところも把握するべきでしょうということで。 Netflix と言えば今をときめく大企業だ。コロナにより自宅時間も増えたので僕も Netflix を見ることがずいぶん増えてきた。逆にテレビをほとんど見ないようになってしまった。もともと見ないけどさらに。Netflix のいいところは何と言ってもコンテンツ。 CM ないまま一気に見ることができるので多忙な僕としては重宝している。読書の時間を減らして Netflix でドキュメンタリーを見ることも随分増えてきた。

本書は Netflix のスタートアップの時代から現在に至るまでのコアとなる人材戦略について担当者だった人がまとめた一冊。発売直後から話題になっているので既に読んでいる人も少なくないだろう。今更感があるかもしれないけれども,話題となるにはなるだけの理由がある。結論として言えることは「すごい戦略だ」ということ。企業が爆発的に成長するというのはこれぐらいのエネルギーがないとできないのだろう。同時に日本企業でこのまま実装できるかといえばなかなか難しい。実現は容易でないものの戦略の視座を得るうえでは参考になるものだ。

本書で指摘される戦略はシンプルだ。とてつもなく優秀な人を適切な報酬で確保して少ない人数で最大のパフォーマンスをたたきだす。逆に企業の成長についていけなくなったメンバーについてはバスから降りてもらう。人材の新陳代謝を猛烈なスピードで展開することで爆発的な成長を引き起こしている。 日本のオーナー企業では,能力ではない人的つながりが濃厚であるため「ついてこれないから辞めて欲しい」というのは経営方針としてないだろう。むしろ「あまりにも合理性を追求しすぎている」という批判の対象にすらなるかもしれない。しかも日本の労働法制において能力不足のみを原因とした解雇は一般的に認められていない。解雇規制を緩めて雇用の流動性を高めていこうということは議論されているが実現には至っていない。一旦採用すれば解雇できないというのが現状。企業としてはいかに人材を育成するかと言うことにフォーカスせざるを得ない。あるいは相当のお金を支払って退職してもらうことになる。

本書では人材の数よりも人材の質の重要性が書き連ねられている。平凡な3名を採用するよりも優秀なひとりを採用するべきだ。簡単に言えば3名分の人件費をひとりに投入するということになる。これほど割り切った発想こそパワーの源泉なんだろう。ただ技術が発達していくなか頭数だけで勝負をするというビジネスモデルはしだいになくなっていくだろう。だからこそ選択と集中で優秀な人材を確保するということは企業の規模に関係なく求められるかもしれない。むしろスタートアップこそ「この人にかける」という採用方針が求められるようになるかもしれない。これは自分の事務所の経営方針を考える上でも示唆に富んでいる。とかく僕らは,給与を同業他社との比較の中で決めてしまいがちだ。でも圧倒的な人手不足の現況においてたんに同業だけで争っても意味がない。人材を求めるライバルはいくらでもいる。優秀な人材となればなおさらだ。例えばSEとか典型的だろう。「いくらでもいいからきてほしい」という声も現実にある。

このように「誰と仕事をするか」は致命的な意味を持つ。同時に本書ではもうひとつ強調していることがある。それは矛盾するが報酬が高いだけでは優秀な人の能力は開かないということ。そこからが経営者の腕の見せ所。同社は,とにかく規程やルールというものをなくしている。そもそもルールがないと統制がとれないような人は採用しないというものだ。優秀な人が能力を活用するのに必要なのはルールではなく自由。その人を信頼して任せることによってはじめて能力は活用される。会社としてするべきことは,仮に自分の能力に気がついていない人がいれば見つけることができるように間接的にアプローチするというものだ。これって言われれば「それはそうだ」と思うが現実には簡単なことではない。あらゆる企業は組織が拡大するにつれてルールや官僚制度が構築されてしまう。結果として人事部など非生産部門が圧倒的な権力を掌握してしまって個人の能力の活用も何もない。政治的な立ち回りが勝ってしまう。

本書では著者自身が同社の文化に基づいて会社から離れている。ある意味で文化に基づいて行動したことになる。なかなかここまでの企業を日本で展開するのは難しいだろう。でも基本となる発想にはこれからの時代を生き抜くうえで参考になる部分がある。