マイカー通勤を社員に認める場合、絶対に任意保険証まで提出させるべき。
- 2019.06.16 (更新日:2020.06.11) 労働問題
地方では公共交通機関が不十分であるためマイカー通勤のニーズが高いです。もっともマイカー通勤中に社員が交通事故を引き起こしたときには,会社が第三者に対して賠償責任を負担せざるを得ないときもあります。そこでマイカー通勤を認めるときのポイントについて整理しておきます。
マイカー通勤の事故で会社が巻き込まれるケース
そもそも交通事故の賠償席には,事故を引き起こした者が負担します。ですから通勤途中で社員が誰かをケガさせれば社員が賠償をすることになります。具体的には社員が加入していた保険会社を通じて被害者と示談交渉が実施されます。通常はこれで社員の保険にて対応されるため会社が巻き込まれることはありません。
ですがすべての社員が任意保険に加入しているとは限りません。約3割が任意保険に加入していないともいわれています。仮に自賠責に加入していたとしても保険金額には上限がありますしなにより修理費などは対象になりません。被害者としては,保険でカバーできない部分について加害者たる社員に請求することになりますが支払は期待できないでしょう。そもそも資力がないから任意保険に加入していないことが一般的です。加害者が任意保険に加入していなかった場合は、被害者としては,社員のみならず会社を被告に加えて訴訟をすることになってしまいます。
マイカー通勤中の事故に対する会社の責任
実際にいかなる場合に会社の責任が認められるかについては裁判例がわかれています。基本的には会社がマイカー通勤を認めているような場合には責任も肯定される傾向になります。
まずマイカーを通勤のみならず業務でも利用しているような場合には,会社の責任は肯定される方向にあります。
マイカーを通勤のみ利用して業務で利用していないような場合には,会社としてマイカー通勤を認めていたか否かによって判断が分かれてきます。会社としてマイカー通勤を認めていた場合には責任が肯定されると考えておいた方がいいでしょう。例えば会社が駐車場を用意したりあるいはマイカー通勤を前提にした交通費などを支給していた場合には会社の責任が認められやすいです。
上記に関する法律では「使用者責任(民法715条)」が関わってきます。
「使用者責任(民法715条)」
①ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りではない。
②使用者に代わって事業を監督する者も、前項の責任を負う。
③前2項の規定は、使用者又は監督者から被用者に対する求償権の行使を妨げない。
この法律から業務上で車を使用した場合には、会社が相当な注意をしていた場合を除けば、会社が事故の責任を負う可能性が高いです。
これからの関係をざっくり整理すると次のようになります。実際の責任の有無はケースによって異なりますので一概には言えませんがイメージとして持ってください。
通勤と業務 | 通勤のみ | |
会社認容 | 肯定 | 肯定 |
会社禁止 | 肯定 | 否定 |
マイカー通勤における通勤の概念
みなさんは,「通勤といえば通勤」と考えるかもしれませんが実務では「そもそもそれは通勤途中の事故なのか」が問題になることもあります。
例えば帰宅途中に買い物するためにいつもと違うルートを利用していたときに事故を起こしたとしましょう。いつもと違うルートだった場合にも当然と通勤といえるのでしょうか。言われてみると「たしかに」と感じるでしょう。実務ではこういった「言われてみれば」という部分が争いになるものです。
この問題は通勤災害認定においてよくとりあげられます。通勤中の事故であれば通勤災害認定され労災と基本的に同様の保険が給付されます。社員にとっては通勤に該当するかによってまったく結論が違ってきます。
これについては「運行共用者責任(自動車損害賠償保険法3条)」が関わってきます。
「運行共用者責任(自動車損害賠償保険法3条)」
自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によって他人の生命又は身体を害したときは、これによって生じた損害を賠償する責に任ずる。ただし、自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかったこと、被害者又は運転者以外の第三者に故意又は過失があったこと並びに自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかったことを証明したときは、この限りでない。
こういったケースでは個別に判断することになりますが外食などであきらかに他のルートを利用している場合には「通勤」に該当しないと判断されることもあるでしょう。
マイカー通勤を会社が認める際の注意事項
マイカー通勤を会社が認める場合には事前に注意しなければならないポイントが3つあります。それぞれについて詳しく解説していきます。
【トラブル防止のポイント①】社員には任意保険証の写しを提出してもらう
マイカー通勤でのトラブルを回避するためには,社員に自動車保険への加入を義務付けるほかありません。しかもいくら指示をしても実際には加入していると言いつつも加入していない人もいます。事故があってはじめて加入していないことが発覚するのが一般的です。
ですから会社としては定期的に自動車保険証の写しを提出してもらうようにしてください。実際に提出されたものを確認しなければ本当に加入しているのか誰にもわかりません。自動車保険は定期的に更新をようするものです。いちど確認しただけでは不十分で毎年定期的に確認する必要があります。
【トラブル防止のポイント②】任意保険の内容を確認する
また業務でマイカーの利用を認めている場合には,加入している自動車保険が業務中の事故であってもカバーしているのかについても確認しておく必要があります。通勤中の事故はカバーしていても業務中の事故はカバーしていないとなれば不十分です。
自動車事故では賠償額が数千万円になることもあります。これを会社が自己資金で負担するとなればかなりの影響になります。しかも社員に求償しようとしても資力として不可能な場合が多いでしょう。このようなことにならないためにも自動車保険の確認は徹底しましょう。
【トラブル防止のポイント③】経費の処理範囲を明確にする
会社がマイカー通勤を許可する際に注意すべき点は、自動車保険の確認だけではありません。ガソリン代や高速代、駐車場代など、どこまでを会社が経費として処理するのかを事前に明確にすることも重要なポイントになってきます。
その際に理解しておきたいのが、マイカー通勤をしている人の非課税となる1ヶ月あたりの限度額です。これについては国税庁のページに詳細が記載されており、片道の通勤距離に応じて以下のように定められています。
片道の通勤距離 | 1か月当たりの限度額 |
2キロメートル未満 | (全額課税) |
2キロメートル以上10キロメートル未満 | 4,200円 |
10キロメートル以上15キロメートル未満 | 7,100円 |
15キロメートル以上25キロメートル未満 | 12,900円 |
25キロメートル以上35キロメートル未満 | 18,700円 |
35キロメートル以上45キロメートル未満 | 24,400円 |
45キロメートル以上55キロメートル未満 | 28,000円 |
55キロメートル以上 | 31,600円 |
参照:国税庁「マイカー・自動車通勤者の通勤手当」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2585.htm
この金額を超えて通勤手当を支給する場合には、超える部分の金額が給料として課税されますので、内容を必ず理解しておきましょう。
【トラブル防止のポイント④】車両管理システムの導入を検討する
トラブルを未然に防止するためのポイント4つ目は車両管理システムの導入です。車両管理システムを導入し、安全運転機能を用いれば、無自覚に危険運転を行っている従業員に対して、急加速や急減速の多さや、スピードの出し過ぎなどを指摘することが可能。また、移動時間や移動距離、ガソリン代などの情報を会社が把握できることで、経費の適正化を図ることもできます。
特に普段あまり運転しない人がマイカー通勤する場合には車両管理システムを導入するメリットは大きくなります。安全な通勤を実現させるためにもシステムの導入を検討するといいかもしれません。
マイカー通勤導入はリスクヘッジが重要
この記事ではマイカー通勤を導入する際に考えられるリスクや未然にトラブルを防ぐ手段について解説しました。
マイカー通勤を会社が認めれば、事故が起こった際に会社の責任が肯定されるケースがあるため、任意保険証の提出など従業員への教育を徹底させるようにしましょう。
この記事がマイカー通勤の導入を検討している方の参考になれば幸いです。
企業が抱えるリアルな労働問題については,こちらの本でも整理しておりますのでご覧ください。
またこちらにも過去の事例もあげていますのでご覧ください。