問題社員への対応:「優しい社長」ほど労働問題で苦労しがち

投稿者:
島田 直行(弁護士)
2019.11.30 (更新日:2019.12.02) 労働問題

「優しくなければならない」というのは誰しも子どもの頃から言われてきたことであろう。それはそうだとしかいえない。売上と自分の懐事情にしか興味ない経営者のもとで働きたいという人はいない。社員のことをいたわるからこそ社員も「この社長のもとでがんばるか」という気持ちになってくる。

社長との信頼関係が重要

いろんな労働事件を担当してきたが賃金や福利厚生が直接の理由となってトラブルになった事案というのはあまり目にしたことはない。もちろん誰にとっても賃金や福利厚生は生活をしていくために重要な要素だ。「賃金が業務量に比較して安すぎる」ということで社員から意見をされた経営者もいる。さりとて賃金といった目に見えるものだけが原因かといえば必ずしもそうではない。根底には社長への信頼というものがある。ある意味では社長への信頼低下に対する不満が賃金などへの不満という形式で表現されるときも少なくない。

決して社長への信頼があれば賃金を安くしてもいいというわけではない。ただ問題の本質は必ずしも表面的な要求だけとは限らないということだ。

問題社員の相談としてよくあるのが協調性の欠如。「自分はこう。他人は知らない」という人がいるとなんとも職場の雰囲気が暗くなる。誰しも自分は批判のターゲットにならないように気を遣い微妙な緊張感がうまれてくる。腫れ物に触らないにつきる。

問題社員が出現する原因の多くは社長にある

こういう会社になってしまった原因の多くは,社員よりもむしろ社長にある。

誰しも他人の問題点を指摘するのはいい気がしない。指摘して感情を逆なでするのではないかという不安もある。こういったあいまいなスタンスが問題社員をさらに自由にさせてしまうことがままある。本来であれば問題行為があれば指摘するのが社長の役割である。これが社員から反発されるのを恐れるあまりになにもしないということがある。とくに「優しい」と周囲から評価される社長ほどトラブルを回避するために「まぁまぁ」という姿勢をとってしまう。こういう社長の姿勢こそ問題社員を助長しかつ他の社員からの信用を失わせることになる。社長に絶望するというわけだ。

優しさというのは,決して問題に目をつぶるということではない。それはたんになる現実逃避でしかない。問題社員で頭を抱える社長は,まず自分のスタンスに間違いがなかったかをよく見直すべきだ。問題の確信はそこにあったりすう。相談においても「あとは先生でうまくやってくれませんか」と言われることがあるが間違っている。自分の会社なんだから最後まで自分が陣頭指揮をとるべきだ。弁護士はあくまでサポートをする立場でしかない。少なくとも僕はそういうスタンスで労働事件に取り組んでいる。

本当に優しい人は,たいてい厳しい意見も逃げずにいう。相手からの反発も予想しつつも逃げない。それが社長の役割だから。厳しさのともなわない優しさに永続性はない。間違ったことに対して厳しい姿勢をとるからこそ信頼にもなる。

誰かに厳しい意見を言うためには,自分自身が厳しい意見を受けいえる心がけが必要だろう。僕の事務所では,「批判は受け入れないが意見は受け入れる」とスタッフに伝えている。批判と意見の何が違うのかと言われると難しい。言いたいのはマイナスの要素を指摘するだけではなくいかにしてプラスに変えていくかの意見を求めるということだ。スタッフから僕の問題点を指摘されるとなかなかつらいものもある。でもそこで「なんでそんなことを言うのだ」と口にしてしまえばおそらくスタッフから二度と意見はでてこないだろう。意見を聞き入れる姿勢を示すからこそ僕からも意見をすることができる。僕は,スタッフに恵まれているといつも感じる。

僕は,労働法を扱うけれども法律だけで「いい職場」ができるとはとうてい考えていない。むしり法律の及ばないところでトップがどのような配慮をしていくかが大事だ。

職場づくりに簡単なノウハウなんてない。じっくり腰を据えてあたりまえのことをあたりまえのようにやっていくことが近道だと僕は考えている。