こういう会社は固定残業代を採用しても残業代請求を受けてしまいます

投稿者:
島田 直行(弁護士)
2017.02.25 労働事件

 いわゆる固定残業代制を導入する企業は少なくありません。残業代を事前に把握することができるために具体的な実情を考慮せずに安易に導入しているケースが散見されます。経営者のなかには,「固定残業代を導入しているから未払残業はない」と誤解している人もいます。固定残業制のリスクについて整理しておきましょう。

固定残業代制は残業代の抑制を目的にしたものではありません

 固定残業代制を「残業代の増大化を防止するための制度」として導入した会社は,そもそも導入の目的を間違っています。そのため未払残業代が発生しているケースが少なくありません。

 固定残業代制とは,基本給とは別に毎月定額の残業代を支払う制度です。例えば毎月20時間分の残業代を基本給とは別に支払うといったものです。導入にさいしては,①就業規則における明示及び②給与明細における明示といった条件が必要とされています。社長が「よし明日から固定残業代にしよう」といって導入できるものではありません。

 この制度は,想定された超過労働時間に至らなくても定められた残業代を支払うというものです。例えばさきの例示では残業時間が18時間でも20時間相当の残業代を支払うことになります。逆に残業時間が20時間を超えて22時間となれば,固定残業部分とは別に2時間相当の残業代を支払う必要があります。

 ですから固定残業代制を導入しても残業代が減少するということは理論的にありません。むしろ負担は増えることのほうが一般的です。固定残業代制は,あくまで残業代計算の手続を軽減することが目的でしかありません。ITによって残業代計算が簡単になった現在においてあえて手続の軽減のために固定残業代制を導入する意味はないと考えます。事務所は,固定残業代制の導入については消極的な姿勢です。

固定残業代制においても時間管理は必須です

 固定残業代制のもとでも労働時間に応じた賃金を支払うことは当然のことです。ですから労働時間の管理は会社としても実施しなければなりません。固定残業代制を採用したからタイムカードが不要ということになりません。

 固定残業代制のリスクは,こういうった時間管理がしだいに杜撰になってしまうことです。これもひとえに「固定残業代=会社に有利」という安易な発想を経営者がしてしまうからです。

 固定残業の有無にかかわりなく労働時間は会社にて適切に把握しなければなりません。

 経営者のなかには,「うちの会社は労働時間の管理に似合わない」など理由を述べていまだに労働時間の管理をしていない人も耳にします。長時間労働についてペナルティが課されるようになった現在においてこういった自己の考えに基づくような労働時間の管理はあまりにもリスクがあります。そもそも労働時間の管理もなされていないような会社では社員も定着しません。

 これまでの経験から言えることですが人件費削減ありきの制度はたいていあまりいい結果になりません。仮に一時的に経費削減になっても長期的には離職率が高くなるなど会社に悪影響を与えることが多い印象です。

固定残業代制の訴訟における争われ方

 固定残業代制が訴訟で争われる場合には,たんに超過部分が未払いということで争われるだけではありません。むしろ固定残業代制そのものが否定されることもあります。

 いくら導入をしても運用に失敗すれば,制度そのものが否定されることがあります。この場合には,今まで支払った固定残業部分がすべて残業代の基礎賃金に組み込まれてしまいます。そのうえ残業代も一切支払っていないということになりかねません。このような認定になると請求額がかなり高額になります。700万円以上の請求になることもあります。これが複数の社員から一斉になされると企業経営自体が立ち行かなくなるときもあります。

 ですから本当に固定残業代制を導入する場合には,まず専門家に依頼して具体的な運用の負担をイメージするべきです。そのうえで「本当に導入して運用できるのか」現場の意見も聞いてから実行してください。経験からしてたいていの場合にはうまくいきません。導入には慎重な姿勢であるべきです。

 とかく労働基準監督署から残業代の指摘を受けて付焼刃的に固定残業代制を導入したところはトラブルになりやすいです。

 こちらのページでは具体的な労働事件について掲載していますので参考になさってください。