社員を役員に登用。そのとき経営者が抑えておくべきこと

投稿者:
島田 直行(弁護士)
2021.09.09 労働問題

長年にわたり自社に貢献してきた社員をオーナー企業の役員に登用することがある。経営者としては,取締役に選任することで本人に対する感謝を示すと同時に定年に拘束されない長期的貢献を期待する。あるいは最近では能力主義のいっかんから若手社員でも関連会社の役員に選任するということもある。あたまえであるが取締役と一般社員では会社との関係性がまったく異なる。会社と取締役の関係は委任契約,会社と社員の関係は労働契約。このように両者は明確に異なっているというのがタテマエだ。だか現実は両者に明確な相違がないケースがオーナー企業では多い。なんとなく上司としてのあがりが役員ということになっている。当の本人にしても「なんか会社から評価された」というだけで抜本的に立場が異なるようになったという認識は希薄であろう。「法律的には別。事実的には同一」といった曖昧な関係性がトラブルを引き起こす。

社員が取締役になる場合には,本来であれば労働契約を解消して改めて役員として選任されるのが筋だ。だが実務においては労働契約の解消について曖昧なままなんとなく役員に選任されることが圧倒的に多い。給与についても役員手当名目で数万円が加算されるだけということも珍しいものではない。こういった場合には法的には実務的に役員兼従業員等と呼ばれることがある。社員としての立場と役員としての立場が併存するというなんとも中途半端な関係になる。これが問題になるのは対象者が役員の地位を離れるときだ。取締役としての能力に問題があれば取締役としての地位は株主総会の決議によって失われることになる。任期満了であれば継続して選任されない。任期途中でも解任されうる。このように取締役としての地位は,労働基準法の適用外ということもあってずいぶんと不安定なものだ。社員の場合には,労働基準法などによって地位が強く保護されている。

役員兼従業員の場合でも取締役としての地位は株主総会によって失われることになる。問題は,社員としての立場はどうなるかだ。会社としては,「取締役としての地位を失ったのだから当然社員としての地位も失う」と考えてしまいがち。これは違う。従業員としての立場は,取締役としての地位を失っても維持される。つまり将来において社員として会社において勤務し続けることが可能ということだ。これは会社の意図したところと違うかも知れないが法律的な帰結になる。

そこで会社としては取締役に選任された場合には従業員としての地位を失うということを客観的に明らかにしておく必要がある。具体的には①就業規則で取締役に就任した場合には従業員たる地位を失うことを記載すること②取締役就任時に退職届,退職金の支払いといった清算手続きを実施すること③取締役就任前後に担う業務の内容を変更させることなどが必要である。このようにすることで役員兼従業員ではなく純粋な役員として認定される可能性が高くなる。少なくともこのくらいは対応しておくべきであろう。