4月から始まる同一労働同一賃金。経営者が絶対に抑えるべきポイントはこちら

投稿者:
島田 直行(弁護士)
2021.01.28 労働問題

令和3年4月から中小企業にもいわゆる同一労働同一賃金がはじまります。「同じ仕事していたら同じ賃金を支払うのでしょ。そんなことは中小企業には無理」という無茶な意見を耳にすることもありますが経営者であれば避けては通れないことです。そもそも同一労働同一賃金の意味を取り違えている人も少なくないです。そこで「せめて経営者ならこのくらいは抑えておこう」というポイントについて整理しておきます。

非正規社員が労働人口の約4割を占めている現実

僕が子どもの頃は「パート」というのは,主婦の方が家事の合間に仕事をするというイメージが中心でした。つまり正社員が中心で補助的な業務をパートの方がフォローするというものです。ですが失われた30年のなかで日本は,人件費の抑制及び雇用の調整弁のためパート・有期雇用といういわゆる非正規社員を積極的に活用するようになりました。大半の中小企業ではパートの方がいるでしょう。気がつけば労働人口の約4割を非正規社員が占めるに至っています。しかも非正規社員といえども実体は正社員と変わらないことが一般的です。受付業務なんて外部から見たら正社員なのか非正規社員なのかわからないでしょう。

非正規社員は,雇用の調整弁として企業にとって有利であるものの当事者にとっては地位が不安定です。とくにコロナ禍では非正規社員から解雇あるいは雇止めがなされており社会問題になっています。非正規社員の方は,正社員になることを希望しつつもなれずにつらい状況にあります。行政サイドもこういった状況の改善に向けて動いています。具体的な方向性としては,①有期雇用の無期雇用への転換及び②同一労働同一賃金の実現ということになります。

同一労働同一賃金の目的は,「正社員と非正規社員において差別的取扱い及び不合理な待遇の禁止」です。賃金・賞与・手当のいずれにもおいても適用されます。簡単に言えば「正社員だから」という形式的な理由だけで住宅手当を正社員だけに付与することなどはできないということです。同一労働同一賃金を定めるのは,パートタイム・有期雇用労働法8条及び同9条です。

ここで誤解してはいけないのですが同一労働同一賃金は,「同じ仕事をしていたら同じ賃金を支払え」という単純な話ではないということです。仮に同じ仕事をしていても負担する責任の範囲などに明確な差異があれば,正社員と非正規社員で異なる扱いをしても問題にはなりません。ここを誤解するといきなり企業の人件費負担が激増しかねることになります。

同一労働同一賃金のエッセンスは,①職務内容などに違いがあれば違いに応じた対応をすること(均衡)及び②職務内容などが同じであれば同じ対応をすること(均等)です。つまり正社員と非正規社員の間で相違があっても「そういった相違がでるのは納得できる」という説明がつけばいいということです。例えば正社員の場合には,転勤の可能性があるかも知れません。そのため正社員のみ住宅手当をだすというのはひとつの合理的な判断といえるでしょう。このように正社員と非正規社員で扱いを別にするときには,企業として「なぜ扱いを別にするのか」について業務内容,責任の範囲などにからめて説明できるようにしておいてください。

同一労働同一賃金は賃金規程見直しの機会に

同一労働同一賃金への現実的な対応は,自社の賃金規程の見直しと同時に考えるべきです。人は,重要性があっても緊急性がないものを後手に回しがちです。典型例が賃金規程の見直し。見直したいと考えつつも社員の反発を懸念してなかなか進まず現状に至っている人は少なくないです。それではいつまでも自社の改革にはならずコロナ禍を突破することができないかもしれません。同一労働同一賃金の適用をきっかけに賃金規程の見直しに取り組んでいただきたいわけです。

同一労働同一賃金への対策としてとらえた場合には,基本給・賞与を増やして手当を減らすというのが個人的にお勧めの方向性です。そもそも手当の多すぎる企業って問題があります。「これはいったいなんのための手当なの」というのがあります。しまいには経営者すら説明ができない場合さえあります。こういった複数の手当が併存するのは,基本給の抜本的な見直しをせずに手当で賃金の整合性をとろうとすることが理由のひとつにあげられます。「基本給は修正しにくいけど手当なら修正しやすい」という思惑がどこかにあるのでしょう。

ですが手当は,一定の条件を具備すれば支払うべきものでしょう。これは同一労働同一賃金のもとでは「非正規社員も条件を具備するのだから支払うべき」という判断に流されやすいと言われています。住宅手当にしても,家族手当にも。仮に正社員だけに支払うのであれば,その具体的な理由が説明できなければなりません。裁判所を納得させるだけの理由がないのであれば同一労働同一賃金に反することになります。

これに対して基本給・賞与については,会社の評価をともなう概念です。ですから裁判所にしても「これこれの理由でこういう金額にした」と説明をしやすくなります。つまり同一労働同一賃金に反するとはなかなか判断されないのではないかと考えられます。このようなリスクヘッジの視点からすれば手当を減らして基本給に組み入れましょうというのが現実的な対策になるのではないでしょうか。もちろん基本給に入れると残業代の基礎賃金が増える可能性もありますが社員の暮らしのためにはしかるべきものと考えます。

難しいのは定年退職後の社員の処遇

同一労働同一賃金のもとでもっとも難しいのは定年退職後の社員を嘱託社員として採用するときです。これも同一労働同一賃金の適用をもちろん受けることになりますから「定年退職したから3割カットで」という説明では成り立たないことになります。

でも中小企業の場合には,労働人口の減少もあって定年退職後の社員が普通にプレイヤーとして勤務しているものです。企業にとっても経験値が高いので重宝しています。最近では社員のモチベーション向上のために定年退職を廃止しているところすらありますから。定年退職後の社員について賃金を減らす場合には,正社員との違い(責任の範囲,業務内容など)を説明できるようにしておかなければなりません。例えばこれまでのように取引先に自ら行ってもらうのではなく後進の育成に従事してもらうなど業務内容を変更させる必要があります。「従前のママ」で賃金を減らすというのは同一労働同一賃金に反することになります。

現場の声としては年金が少ない現状においては,「働けるだけ働きたい」という声が少なくありません。そういった声をうまく企業のチカラに変えていくためには,経験者の知見をいかに後進に伝えることができるかがポイントになります。定年退職後の人には,後進の育成が役割と伝えるのも必要でしょう。

こういった定年退職後の社員の賃金については,いくら業務内容を変更したとしても3割カットをひとつ限界として捉えておくべきです。さらに減額するとなれば,出勤日数を半分にするなど具体的な手を打つ必要があると考えます。

経営者はガイドラインを読んでおこう

このように同一労働同一賃金は,中小企業にも影響を与えます。イメージをもっと膨らせるには,厚生労働省の発表しているガイドラインがわかりやすいです。

同一労働同一賃金ガイドライン

同一労働同一賃金には罰則がありません。ですから違反したから直ちに罰則を受けるわけではないですが民事上の責任を追及される根拠にはなります。例えば同一労働同一賃金に反するために違反した部分の金額を支払えなど。訴訟でなされることもあるでしょうが労働組合との団体交渉のなかで要求される可能性もあるでしょう。いずれにしても正社員と非正規社員との間で相違をもうける場合には,その理由について納得できるだけの説明を用意するように心がけてください。