「デジタル化推進」がなかなか推進してくれない現実的な理由

投稿者:
島田 直行(弁護士)
2020.09.17 経営者の方々へ

新内閣のもとで運転免許証のデジタル化推進がいきなり話題になっています。

運転免許証のデジタル化を推進へ 国家公安委員長「首相の指示」

新型コロナによっていっきにDXという言葉も広がりました。このままデジタル化が進むのは生産性向上を掲げる日本にとってはおそらくいいことでしょう。だが少なくない人が「でも実際に変わるのはまだまだ時間かかりそう」とも感じているはずです。これまでも繰り返しデジタル化という言葉が浮いては消えてきたのが日本というシステムです。個人的には「むしろなぜここまでデジタル化が進まないのか」というのが謎にすら感じます。中小企業にとっても同じです。経営者としては,デジタル化の必要性を感じつつもなかなか進んでいないのが現状です。これって決して費用がかかるとか手間がかかるとかという問題ではないのです。デジタル化が進まない理由について考えてみました。

根本的に企業のデジタル化が進まないのは,外部要因ではなく内部要因です。もっといえば一部の社員が新しいシステムの導入に消極的でうまくいかないものです。中小企業の場合には,同じ人が特定の業務をずっとになっている場合が一般的です。例えば長年にわたり経理一本という人もいるでしょう。そういう人にとっては,経理の作業こそ自分の会社における価値になっています。そのため新しいシステムを導入して作業効率が上がってしまうことが怖いのです。それは自分の存在意義を失わせることになりかねないからです。ある意味で自分を守るためにデジタル化を拒むというわけです。「そんなことあるの」と思われるかもしれませんがあります。もちろん「自分の仕事がなくなるから困ります」なんて説明はされません。実際には「新しいシステムには手間がかかります」「費用対効果がわからない」など否定しようのない不満を述べて導入を阻止しようとしてます。そもそもある程度年齢を重ねて新しいことを学ばないといけないことがつらいのかもしれません。こういう状況だと社内全体のモチベーションがさがりますね。「とりあえず自分の退職まで現状のままであればいい」ということになりますから。

次の壁は,対外的な壁です。どれだけ自社がデジタル化を進めても取引相手が「アナログで」と言われると対応に苦慮することになります。そこで相手のレベルに合わせてしまうといつまでも自社内のデジタル化がすすまないのです。せっかくデータで作成したのにわざわざ紙に印刷して,判子をついて,さらに配送して。これではなんのためのデータなのかわかりません。でも現実はそれがあたりまえになって疑うことを忘れています。ある会社は,取引をひとつひとつ説得してやっとメールによる請求書の発行を承諾してもらいました。「まさかこんな受難の道になるとは思わなかった」としみじみ話されていました。誰にとっても便利なものであるにもかかわらず古い壁を壊すのには労力を要します。人間の矛盾ですね。

ではこういった壁を越えて行くにはどうするべきか。僕は,「とりあえずやるしかないのでは」という発想です。僕たちは,何かを提供するときには完璧な商品・サービスを提供しなければならないと考えています。高品質なものを提供するのは当然なことではありますがデジタルサービスの場合には必ずしも妥当しません。とりあえずサービスを提供して,利用者からの感想を聞きながら修正して完成度を高めていくモデルが多いでしょう。企業内のデジタル化も同じような気がします。とりあえずできそうなところから無理にでもはじめてみる。そこで齟齬がでたら修正をしていく。この繰り返しでシステムができあがってきます。

こういったスタイルではあるいみでは修正ベースなのでいびつなものになってしまいがちです。僕はそれでもいいのではと気軽に考えています。デジタルというとなんだか統制が取れて無駄がない世界を想像しがちです。それは理想ではあるけれども実現するのに相当の能力を要します。あえていびつでも「そこそこのパフォーマンスを達成できればよし」というのがスピード感をもった導入作業では必要でしょうね。