【読書感想】モチベーション3.0 持続する「やる気!」をいかに引き出すか

投稿者:
島田 直行(弁護士)
2021.06.20 (更新日:2021.08.26) 読書感想

何をするにしてもモチベーションというのは大事なものです。たった5行の文章を書くにしてもモチベーションが低下していると1時間もかかってしまうことがいまだにあります。なんとか維持したいとは思いつつも理由もなくいきなり低下してやる気がなくなることも珍しくありません。弁護士を10年以上やっていても「なんだかやる気がしない」と感じるときもよくあります。モチベーションの難しいのは,「なぜ下がるのか」「どうしたら回復するのか」というのがよくわからないことです。毎度のように「なんとなく」という対応でごまかしてしまいます。こういう状態のときに無理に何かをしても大抵うまくいかないものです。そこで気分を変えてモチベーションについて本を読み返すことにしてみました。今回手にとってのは,「モチベーション3.0 持続する「やる気!」をいかに引き出すか」という本です。僕は,著者であるダニエル・ピンクの作品が好きで自分のビジネスライフにも多分に影響を受けています。その彼が心理学など多面的な見地からモチベーションについて考察した1冊です。社員の育成を考えるうえでも参考になる内容となっています。

本書の趣旨はいたってシンプルです。「クリエイティブな仕事にとって外部的報酬はパフォーマンスをむしろ下げる。この時代に求められるのは別の視点からのモチベーション」というものです。経営者であれば,優秀な人材を確保したいと考えてとかく賃金の部分ばかりにフォーカスしてしまいます。社員の仕事に対して高い報酬を提供すれば,それは満足に至るという発想が根底にあります。ですが著者によれば,誤解のみならず害悪にすらなるということです。まず前提として然るべき報酬が提供されることは当然必要です。暮らしあっての仕事ですから。ただし報酬だけでインセンティブを高めるようにするとかえって仕事のパフォーマンスが低下するということも指摘されています。人間は,報酬がないことについて興味をもって取り組むことができる動物です。遊びやボランティア活動なんて典型的な事例でしょう。誰も報酬が欲しいために参加しているわけではありません。むしろ活動自体に意義をみいだして内面的な充足感を手に入れています。これが報酬と結びつけられると遊びが仕事になってしまいます。内面的な充足感が外部的報酬に組み替えられてしまってパフォーマンスも低下してしまいます。つまり活動自体からえられる充実感が喪失しつまらない活動になってしまうというわけです。こういった指摘は誰しも共感するところがあるでしょう。それにもかかわらずビジネスではいまだに報酬によるインセンティブばかりが注目されているということです。日本では生産性の向上が至上命題のように語られています。こういった生産性の活動のためには,クリエイティブな姿勢が絶対的に求められてきます。たんに同じ仕事をルーティンのように繰り返すだけではぜったいに生産性の向上にはつながらずむしろ低賃金・長時間労働の罠にはまってしまいます。

興趣に富む仕事やクリエイティブな仕事、志の高い仕事と報酬とを結びつけること、つまりモチベーションに関する特殊な科学を理解せずに、報酬を提示することは非常に危険だ

僕らは,モチベーションの定義を見直すべきでしょう。少なくとも経営者層は,社員が「仕事の楽しさ」を共感できるような環境作りに取り組む必要があります。新型コロナで「これまで」の維持ができなくなった昨今こそモデルを変えるにはベストな時期と言えるかもしれません。

著者が新しいモチベーションのなかで重視するのは,①自律性 ②マスタリー(熟達)③目的という3つの視点です。自立性というのは,「自分で仕事を組み立て実行できる」という意識に近いものといえます。「こうしなさい」というのはルーティンワークをベースにしたモデルでは意味がありますが,個人の創造的活動を促すときには必ずしも有効とはいえないのでしょう。マスタリーというのは,時間をかけて「より高いレベル」を求めていく姿勢ということです。スピードこそが求められる現代において時間をかけてじっくりレベルを上げていくというのは夢物語のように伝わるかもしれません。ですが本当により良いものを求めていこうとすれば,選択と集中のうえで個人のスキルを伸ばすような働き方が必要となるのでしょう。少なくともどういう仕事が自分に合っているのか,それをどうやって伸ばしていくのか。それをリーダー層は提示して行く必要があります。最後の目的。これが実は一番難しい気がします。「なぜその仕事が求められるのか」という根源的な理由を経営者が説明できるようにしなければなりません。自分の日頃の担っている業務がたんに「仕事」にならないように社会における意義とつなげるだけのストーリーが必要ということです。

個人的に襟を正さないといけないと感じたのは,最後の目的の部分です。正直なところ社員にこの部分をうまく提示することができていませんでした。「これやっておいて」というのがあまりにも多くて悪いことしたなとしみじみ感じます。こうやって自分の反省の機会を知るのも読書の効用ですね。自分のモチベーションを保つためにもおすすめの1冊です。