【読書感想】予測不能の時代: データが明かす新たな生き方、企業、そして幸せ

投稿者:
島田 直行(弁護士)
2021.06.14 (更新日:2021.08.26) 読書感想

新型コロナが典型的でしょうが現在はあまりにも予測不能な時代のなかにあります。私たちは,AIやビッグデータといった技術を手にすれば予測不能な将来でもあっても「ある程度予測できる」とどこかで考えています。ですがそういった淡い期待にして冷静な思考を促すのが「予測不能の時代: データが明かす新たな生き方、企業、そして幸せ」です。著者は,膨大データをベースに予測不能な時代における生き方などについて提言をされています。その議論の根底にあるのは「将来は私たちが想像するように予測できるものではない」ということです。AIやビッグデータといったものは,いずれも過去の情報をベースにしています。つまり過去の延長線上における「将来」というものを導きだすわけです。ですが予測不能な時代においては,将来における事象は過去の延長線上にはあるとは限りません。むしろ過去とは断絶したなかで「予想だにしなかったもの」として現れてくるものです。予想だにしなかったからこそあわてることになるわけです。そのため過去を研究することによって予測不能なことを予想することは原理的に困難ということになります。

本書では集積されたデータをベースに生き方,企業及び幸せといったものに考察を加えていきます。コアになるのは「幸せ」というものです。ここで問題になるのは「幸せとはなにか」という哲学的な議論です。私たちは,「友達と話すこと」「家族と食事を囲むこと」「目標を達成すること」などをあげるかもしれません。ですがいずれも幸せを感じるための手段であって「幸せ」そのものではありません。著者は,幸せについて「生化学的な反応から誘起される感情のポジティブさの度合」と位置づけます。つまり絶対的なものではなく「度合」という言葉にあるように相対的なものということです。いわば定性的な定義ではなく定量的な定義を採用します。定量的な定義にするからこそ大量のデータをベースに科学的に判断をすることができるということでしょう。そのうえで著者は,社員が幸せを感じるような職場であるための条件として4つのポイントを列挙しています。①人と人のつながりが特定の人に偏らず均等である②5分から10分の短い会話が高頻度で実施されている③会話中に身体が同調してよく動く④発言権が平等である。いずれも個人的な経験とも合致するところです。会議やミーティングといったあらかじめ決まった時間ではない雑談が多い職場ほど労働事件も少ない印象を受けます。そもそも普段は静かで会議のときだけ熱心に意見がでるということはなかなかイメージできないでしょう。普段から雑談が気軽にできるからこそ会議でも積極的に意見を提示することができるというわけです。でも会議と言いつつもたんに一部の人の報告会になっている企業があまりにも多いのが実情です。

つまるところ予測不能な時代に必要な姿勢としては,「将来は予測できない。だからこそ予測していない事象が生じても前向きにとらえていくしかない」ということでしょう。人はとかく変化をいやがるものです。変化は大事とわかっていても自分事になると「できればこのまま」ということになります。とくに現状に「そこそこ満足」していればいるほど現状維持の強い力が内部からでてきます。それがひるがえって変化に対する柔軟性を失わせてしまうことになります。もっともAIやビッグデータが意味がないというわけではありません。AIなどを駆使すれば,目の前にある事象が過去の延長線上にない「予測できなかったもの」であることがわかります。私たちは,予測できなかったものということに気がつかないまま取り組んでしまうことが珍しくありません。「これも過去の延長線上で解決できる」と安易に考えてしまい失敗するということです。だからこそAIなどで「これはいつもと違う。用心しないといけない」と伝えられることには意義があります。そこから僕らは「それならいつも通りにはいかない。さてどうする」と考えることになるわけです。

世界は変化に満ちています。そのなかでも経営はしていかないといけません。社員の幸福も実現していかないといけません。変化におののくのではなく対峙するためのマインドセットのために一読を勧めます。