【読書感想】職場が生きる 人が育つ 「経験学習」入門

投稿者:
島田 直行(弁護士)
2021.06.27 (更新日:2021.08.26) 読書感想

このところ本棚からかつて読んだ本を読み直すことが増えてきました。正直なところ新しいものをひたすら追い求めることに疲れたという感じなんでしょう。これは読書に限ったことではない自分の中での傾向です。自分の人生の時間なんて限られているわけですから「なにかにじっくり対峙する」ということが大事なことのように感じるようになりました。これもまた自分の成長のひとつの証左かもしれません。そんなわけでこのところ読み返したのが「職場が生きる 人が育つ 「経験学習」入門」というものです。

企業経営のコンサルティングをするなかで「いかにして人材を育てていくか」というのは大きな課題のひとつです。もっといえば自分の事務所にしてもいかにしてスタッフの能力を育てていくかについていつも考えています。いかなる企業にとっても人が育たない限り長期的な成長にはつながりません。この点については経営者であれば誰しも同意するはずです。問題は,いかにして育てていくかというノウハウが蓄積されておらず「なんとなく」ということになります。とくに中小企業の場合には,OJTといえば聞こえがいいものの実際には「見よう見まね」というケースが少なくないです。つまり「いかに成長するか」という体系が組み込まれていないということです。

僕の事務所は,小さいがゆえにひとりひとりに求められるレベルというものが高くなってしまいます。「これは自分ではない他の人がやってくれる」ということがなく,自分がしないといけない。だからこそ事務所のトップとしてはいかにスタッフ個人の能力を伸ばすことができるかが経営の中核になってきます。基本コンセプトは,「その人の強みを伸ばす」というもの。大人になって学校の成績のように「弱点を克服する」というのは現実的ではないし生産性の向上にもつながりにくいです。僕は,育成の基礎として経験学習理論というものを採用しています。いろんな育成本を手に取ってきましたが個人的にもっとも現場に落とし込みやすいものでした。経験学習理論をベースにしながら心理学的アプローチで脇を固めて育成していくという発想です。本書は,経験学習理論の基礎をわかりやすく伝えるものです。

経験学習理論では,適切なモチベーションとつながりを前提に「挑戦し、振り返り、楽しみながら」仕事をするとき経験から多くのことを学ぶことができるとされます。詳細については,本書を読んでいただきたいのですがとくに個人的に参考になった部分に触れておきます。

仕事をするうえで他者とのつながりというのは必須です。単独でできるような仕事はないです。つながりというととかく職場だけの関係性を想定してしまいがちです。ですが個人の成長を促すためには,固定的な人間関係だけでは不十分です。できるだけ「異なる」領域の人と接することで仕事に対する多面的な捉え方を実現することができます。これは個人的な経験からも納得できるところです。同じ人とだけ付き合っていると「固定化された枠」のなかでしか物事を見ることができなくなります。つまり自分で成長の枠組みを想定してしまうわけです。職場外との人とのつながりといっても別に大上段に構える必要はないでしょう。小さなことからはじめればいいだけです。例えば納入業者との交渉に同席してもらうだけでも十分でしょう。そうやっていろんな人の考え方や価値観に触れることで「自分とは」ということを考えることになります。

もうひとつは振り返り。ある経験についてフィードバックすることで経験が知見になるというのは誰しも共感するところでしょう。現実には日頃の業務の多忙さから「振り返りは必要。だけど時間がない」ということになりがちです。僕もまったく同じ状況でしたが,多忙を理由にしていたらいつまでも組織のレベルアップになりません。事前に時間を確保して社員との対話の時間を確保するようにするべきです。内省は,ある行動の終了後のみならず行動の途中にも実施することが効果的です。行動の途中にフィードバックを提供することで臨場感をもって目の前の課題に触れることができるからです。日本では,こういったフィードバックにおいて問題点の改善ばかりが触れられてしまいがちです。たしかに人は失敗から学ぶことができますが失敗ばかり指摘されると辛いものがあります。人は,失敗のみならず成功からも学ぶことができます。「なぜ成功したのか」について事後的に考えることは自己達成感を満たすのみならず成功の復元性を高めることになります。ですから失敗のみならず成功についても触れるべきと本書では指摘します。

部下の育成について悩まれている方にとっては参考になるはずです。