【読書感想】進化思考

投稿者:
島田 直行(弁護士)
2021.06.07 経営者の方々へ

進化思考――生き残るコンセプトをつくる「変異と適応」は,ひとこと「すごい」につきます。「すごい」というのはあまりにも単純な表現で申し訳ないですが,そのほかに言葉がみつからないわけです。内容も「さすが3年もかかった」とうなるものですし,装丁もすばらしいです。CD世代としてはかつて「ジャケ買い」というのものがありましたが,それを彷彿とさせるくらいです。ビジネス界隈で話題になっていたので購入しましたが仮に本屋さんで目にしても間違いなく買ったでしょう。

本書の内容はデザイン,哲学,経営あるいは思考方法と縦横無尽すぎてひとことで表現することが難しいです。ですが結論としていえるのは,自分の思考のレベルをあげたいという方にとっては必読です。これはどういう立場の人においても。なんというか普遍的な価値をもっている一冊です。この数年に読んだビジネス書のなかでも3本の指に個人的には入ります。僕は,ビジネス書を読むときに付箋を利用することはありません。それはたいてい一度読んだ本を再度読むことがないから。でも本書は間違いなく再読します。そもそも一読して本書を理解するのは個人的に無理です。それだけは確実に言えることです。同時に「これは深く理解しないといけない」とも感じます。それほど充実した内容でした。それなりに分厚い本で読み始めたころは「けっこうつらいな」と感じていたのですが「これはもっと知りたい」と終わるのを残念に感じるほど。本書は,ビジネスのノウハウを書いたようなものではないです。最近その手の本って多過ぎ。安直なノウハウ本は読んだときには楽しいのですがたいてい自分でやってみてもうまくいきません。読むことだけで満足しがちなわけです。よく言われるようにすぐに役立つものほどすぐにだめになります。本書はまさに読んでじっくり考えて自分のなかで時間をかけて成熟させるべきものです。

本書のテーマをひとことで表現すれば,「創造性開発の仕方」ということになるのでしょう。脱線しますが僕は,イノベーションという言葉にどうも違和感を覚えるタイプの人間です。なんかこうもやもやしたいろんなものをすべて覆い隠すようにイノベーションという言葉が濫用されている気がするのです。イノベーションと口にしている人ですら意味をわかっていないことも珍しくありません。イノベーションの仕方となればなおさらです。そもそも普段の経営においてイノベーションが本当に必要なのでしょうか。そんなミステリアスなものを求めることは青い鳥を求めるのに近いような気がします。求めすぎて足下の経営がおろそかになったら支離滅裂です。経営って99%において地道なものでしょう。イノベーションを求めるのは自由ですが,本来の業務を見失うことがあってはなりません。まして普段の業務を「ありふれた陳腐なもの」と考えるようであればイノベーションなんて無理じゃないですかね。話を戻しましょう。

本書は,創造性の開発を進化というプロセスから導きだすというものです。コアになる概念が変異と適応。ダーウィンの進化論には適者生存が基本的なアイデアです。これが創造性の開発においても打倒するということです。変異というのは,数え切れない挑戦(大半は失敗)から生まれてくるものです。そういった「たまたま」生みだされたものが環境に適応して大きな変革を導くアイデアとして成立していくことになります。創造性とは,まさに数え切れない失敗がうみだしていくダイナミックな活動ということです。

議論は,この「変異」と「適応」というふたつのベクトルをさらに緻密に整理したうえで最終的には統合していくカタチで進んでいきます。個人的にとくに参考になったのは,適応という観点から導きだされる4つの視点です。それは「解剖(内部)」「系統(過去)」「生態(外部)」「予測(未来)」というものです。こういったあらゆる場面で利用できる視点というのは,未知の経営判断をするうえでも力強いはずです。