ネットにおける根拠なき誹謗中傷。「誰が書いたか」どうやって調べるか

投稿者:
島田 直行(弁護士)
2021.06.10 経営者の方々へ

インターネットのない暮らしはもはや想像することすらできません。すべてがスマホの画面のなかで完結するようにすらなりました。社会インフラとしてのネットの拡大により個人が根拠なき誹謗中傷を受ける場合も増えてきました。名誉やプライバシーなどの権利が侵害されたときには損害賠償を発信者に請求することも考えられます。もっとも「誰が書いたのか」が不明だと請求することができません。これは被害者はずっと被害者のままということになりかねません。そこでプロバイダー責任制限法は,発信者の情報開示について定めています。今回はこういった情報開示の概要について整理しておきましょう。

そもそも被害者はどういったアクションをとることができるか

ネットにおける書き込みで侵害される権利としては,名誉,人格,プライバシーあるいは著作権といったものが一般的です。こういった場合に被害者として検討するアクションは,①削除請求②損害賠償請求③刑事告訴といったものになります。①②については民事上の責任を追及するものであり,③については刑事上の責任を追及するものです。①削除請求については,管理会社のガイドラインに基づき削除要求をすれば裁判所の力を借りずとも任意に削除に応じてくれるケースが多いようです。ネットの自浄作用は大事ですね。そこでこちらでは②を中心に整理しておきます。

何らかの権利が侵害されたとして損害賠償を請求するためには,①問題となる書き込みを確保すること②発信者を特定することのふたつが必要になります。問題となる書き込みについては,少なくともURL及び該当ページのスクリーンショットを確保しておきます。そのうえで発信者を特定することになります。ネットでは「匿名性」が特徴のひとつになります。ですから書き込みをした者を特定することは容易ではありません。「ネットは匿名性だから無責任だ」という意見を耳にすることがよくあります。匿名だからこそ好き勝手なことを言えて責任も負担しないことはおかしいということです。意見としてはよくわかります。とくに被害者としては匿名性だからこそ加害行為が助長されていると考えたくなるはずです。ですが難しいのは「匿名だからこそ言えること」というものも現実にあるということです。しがらみがないからこそ発言して公益に叶うものもあるわけです。ですからネットにおける匿名性を払拭するというのは実際には困難です。「匿名が原則,例外的に開示」ということになります。そのバランスを実現したのがプロバイダー責任制限法といえます。ここでの基本構造は,侵害されたと主張された者が自ら積極的に動かないと開示してくれないということです。プロバイダー業者には,電気通信事業法4条2項で守秘義務が課せられています。だからこそ情報開示には厳格な要件が求められています。

開示請求をするには2段階を要します

それでは具体的な開示請求について。ざっくりいうと2つのステップを要します。「サイト運営者に対するIPアドレス開示」と「経由プロバイダーに対する発信者情報の開示」です。現状ではこういった2つのステップを利用しないとたどりつけないわけです。この部分についてはプロバイダー責任制限法が改正されて1回の裁判手続でできるようになりますが現状では2つのステップを要します。いずれのステップも業者が任意に開示してくれたらいいのですが実際には開示してくれるとは限りません。そこでここでは裁判手続を活用した手続についてコメントしておきます。その前にIPアドレスなどについてものすごく簡単に書いておきます。

IPアドレスというのは,データの識別のために利用される番号のことです。ネットワークに接続しているPCやスマホに付与されています。いわばネットにおける住所。このIPアドレスがあるからこそ発信された機材を特定することができます。最初のステップでは,サイトの運営者に対して「この情報を発信した人のIPアドレスなどを教えて」とコンタクトとることになります。一般的には裁判をして開示を求めることになります。このとき開示を求めるのはIPアドレス,ポート番号及びタイムスタンプです。ポート番号とは,IPアドレスのように識別のために利用される番号です。IPアドレスが住所ならポート番号は建物内部の部屋番号とかいわれます。IPアドレスとポート番号で識別をするというイメージです。ここで注意を要するのはタイムスタンプです。タイムスタンプとは,電子データがある時刻に確実に存在していたことを証明する電子的な時刻証明書のことです。つまり「どの瞬間に発信された情報であるのか」を明らかにするものです。本来であればIPアドレスとポート番号で発信された機材が特定できるはずです。そのうえになぜ時間まで必要なのか。これは一般的にIPアドレスが通信毎に別の番号が付与されてしまうからです。簡単にいえば時間によってIPアドレスが変わる。だからタイムスタンプまで必要になってきます。

IPアドレスなどがわかればプロバイダーも特定することができます。これはネット上のサービスで検索することができます。プロバイダーを特定したところで発信者の情報を求めることになります。プロバイダーサイドとしては,守秘義務もあるために通常は任意に開示してくれません。そこで裁判をして開示を求めることになります。裁判をすれば情報発信者の氏名及び住所などを知ることができます。ここで注意を要するのはプロバイダーが悪意なく発信者情報を削除してしまうリスクがあるということです。せっかく裁判までしてもすでに情報が廃棄処分されていたということになれば裁判が無駄になります。そこで裁判をするにしても事前にプロバイダーに対して「情報は保管しておいてください」とお願いをしておくことになります。

こうやって発信者が特定できた段階で損害賠償などを請求していくことになります。読んでいただければわかるように「結構大変」ということです。