マーケッターのための広告講座 第1回:なぜ広告代理店は景表法の対象にならぬのか

投稿者:
島田 直行(弁護士)
2021.01.09 経営者の方々へ

僕の事務所は,なぜか広告代理店をはじめいわゆるマーケッターの方から広告についての相談を受けることが多い。商売していたら誰しも広告には関与するわけだが「広告規制」となるとよくわからないのが実情だろう。「広告くらい好きにさせてよ」とも言いたいところかもしれないが,なかなかそうもいかない。やっぱり「悪い人」というのが一定数いるわけで手放しで広告を認めてしまうと誰かを騙して儲ける輩を生みだしてしまう。そういうわけで日本ではいろんな規制が広告には用意されている。なかなかすべてを把握して広告をしている人はいないものだ。結果として事後的に「その広告はまずいよ」と言われて血の気が引いてしまう。そこでマーケティングに関与する人を対象に「このくらいは抑えておきましょう」というものを書き連ねてみたい。飽きたら自然消滅するから予め謝罪しておく。

まず一番大事なことからだ。「広告規制はとにかく難しい」ということだ。広告を専門に扱うような都市部の弁護士の先生方であれば「それは〇〇です」と自身をもって回答できるかもしれもない。でも中小企業を対象にしている僕にとっては,広告といえどもあまたある相談のひとつ。関連する情報を把握するだけでもかなり難しいのが個人的な印象だ。広告規制は多岐にわたるうえに曖昧な表現も少なくない。そのため一般の方が条文を読んでも「だからなに」ということになって混乱してしまう。そこでここでは細かい話はとりあえず外してコアな考え方だけ紹介していくことにする。気軽に付き合っておくれ。

広告規制のコアになるのは景表法という法律だ

広告規制の難しさのひとつは,いろんな規制があるということだ。例えばサプリメントを扱えば薬事法なども考える必要がある。どこに規制があるのかわからないまま広告をして事後的に行政から指摘を受けるということになる。広告規制の難しさは,このように投資をした後に指摘をされることが多いと言うことだ。「そんなこと言われてもすぐに広告して商品も販売し始めているわけだが」ということで頭を抱えることになってしまう。事後的に指摘され事後的に対応するとなればかなりの経済的コストもかかってしまう。だからこそ事前に「この広告って大丈夫なのか」と意識を持っておかないとまずい。死ぬほどマーケティング考えて「それはアウト」と言われたら立つ瀬がない。

広告規制のコアになるのは,不当景品類及び不当表示防止法というものだ。一般的には景表法と呼ばれるもの。広告業に関与していたら言葉くらいは聞いたことがあるだろう。イメージとしては広告全般に対する共通規制のようなものだ。これを前提に薬事法などの業界ごとに法律により広告が規制されている。さらには自主的ガイドラインを策定している業界もある。だからこ最初にマーケティングが抑えるべきなのは景表法からがわかりやすいだろう。いきなり業界のガイドラインに読んでもトンチンカンな解釈になってしまうリスクがある。

第一条 この法律は、商品及び役務の取引に関連する不当な景品類及び表示による顧客の誘引を防止するため、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれのある行為の制限及び禁止について定めることにより、一般消費者の利益を保護することを目的とする。


景表法の目的は,不当表示による顧客の誘引を防止することにある。簡単に言えば「消費者をやり過ぎの広告でだましてはいけない」ということだ。こういった規制に反すると行政上の責任を追求されることになりかねない。あるいは損害賠償という民事上の責任を追及する根拠にもなりかねない。

広告代理店はなぜ景表法の対象にならないのか

「景表法は広告についての規制。ならば広告で収益をあげている広告代理店はもろに対象になるはず」というのは拙速な判断だ。だが気持ちとしてはわかる。僕も最初はそう考えていたからだ。どうでもいいが弁護士は世の中のすべての法律を把握しているわけではない。というかむしろ知らない法律の方が多いのではないだろうか。実際の事件のなかで新たな法律を学んでキャリアを構築していくことになる。個人的には事件を離れて抽象的に何かを学んでもなかなか身につかない。「身につまされる思い」をしてこそである。

ここで景表法2条4項を読んでみて欲しい。

4 この法律で「表示」とは、顧客を誘引するための手段として、事業者が自己の供給する商品又は役務の内容又は取引条件その他これらの取引に関する事項について行う広告その他の表示であつて、内閣総理大臣が指定するものをいう。

景表法の提供を受ける表示についてである。ここでよく見て欲しいのは「自己の供給する」という言葉だ。広告代理店の場合には,あくまでクライアントから依頼を受けて広告を作成している過ぎない。自分の供給する商品などではないからダイレクトに景表法の規制を受けるものでない。景表法の規制を受けるのは,クライアントである。もちろん広告代理店が自分で商品などを供給していたら景表法の規制を受けることはなる。また広告代理店であっても「これは事実に反しているのではないか」と疑念を抱くような特別な事情があるのに調査などを怠れば民事上の責任を追及される可能性はある。「これ,まずいでしょ」と感じるときには調査しなさいということだ。

「なんだ。それなら安心してできる」というのもまた早合点。仮にクライアントが景表法違反で指摘されたとする。あたりまえだがクライアントは「代理店なにやってる。賠償しろ」ということになるはずだ。というわけで「景表法なんて知りませんでした」ではビジネスに血の雨が降るので広告代理店も景表を知っておくべきだろう。というか知らないとまずいだろ。

ちなみに景表法は,「供給する」ことを前提にしている。つまり商品やサービスを提供する場面だ。そのため古道具を集めるときや採用募集の広告では適用されない。

メーカーあるいは小売,誰が責任取るんだよ

実務では大人の責任のなすりつけあいという場面によく出くわす。人間誰しも自分がかわいいからある意味では仕方のない話だ。責任の所在が問題なることは広告でももちろんあり得る話だ。広告といってもある事業者が単体で作成するとは限らない。例えばメーカーと小売りが共同して広告を作成する場合もあるだろう。そういった広告が「これはまずいよ」と批判されたとき誰がまずいのかという問題だ。

結論的なことをいえば広告の表示内容の決定に関与した者が責任の主体になる。

例えばメーカーの作成したパンフレットを小売の店舗に置いていたとする。パンフレットの表示が景表法に反すれば,メーカーの責任が問われる。小売はとくにパンフレットの決定には関与していないので大丈夫ということ。これが制作にも関与していたら小売も責任の一端を担うことになる。

マーケティングのコンサルの場合には,たいていコンサル契約自体が「ふわっ」とした状態からはじまるときが少なくない。これがたいてい問題を引き起こすわけだが。。。広告にしても同じだ。広告の決定はあくまでクライアントであることをはっきりさせておくことが広告代理店が自社を守ることにもなる。そういう意味ではミーティングについてはメールなりできちんと議事録を作成して共有しておくことを推奨する。たんに手元のPCに打ち合わせ内容を控えるだけでは事後的に争いになったときに証拠として活用しにくい。「議事録を共有するためメールしている。それに対して反論などなかった」と言えるようにしておくべきだ。

なんだか疲れたので本日はここまで。