ラーメン店の倒産急増の記事を目にして。人は麺ではなく情報をすすっている

投稿者:
島田 直行(弁護士)
2020.10.08 経営者の方々へ

ラーメン店の倒産が急増しているとのことだ。ラーメン大好き人間としてはなんともつらい。

ラーメン店の倒産が急増、20年は過去最多の見込み 競争激化で厳しさ鮮明に

ラーメンこそまさに国民食と言えるだろう。年齢を重ねて「もう焼き肉はホルモンだけでいい」「もうすぐ健康診断で」と話をしていてもなぜか「ラーメンでもいくか」ということになる。ある意味でラーメンには依存性がある。コロナ禍でも人気店には一定の客が認められた。やはりラーメンの求心力はすごいなと感じていたときの記事で正直なところ驚いた。

ラーメン店は,居抜きで物件を購入できる場合もあり参入障壁が相対的に低い。「ラーメンが好きで」という軽い気持ちではじめるとたいてい痛い目にあう。僕も「ラーメン店を脱サラでやりたい」という相談も受けるが「よほどの覚悟と才覚がないと難しい。まして家族があるなら慎重であるべき」と伝えるようにしている。冷たいようだが事実だ。ラーメンをしたいという人のなかには,好きだからうまくいくという誤解を持っている人が少なくない。逆だ。好きだからこそ失敗しやすい。自分がおいしいもの=商品になるものと想定しているからだ。商売としてはじめるならおいしくてかつ売れるものでなければ意味がない。とことん味を追求して原価計算もままならないままはじめて赤字というのはよくあるパターンだ。

ラーメン経営についてもう少し書いてみよう。ラーメンの場合には,購入者はものすごく多いものの客単価を高めることが難しい。いきなり新規ではじめて一杯1000円というのは設定しにくいだろう。とくにランチの場合には,個人が支払う金額にも自ずと限界がある。「日頃からお金を貯めてきた。ここでラーメンだ」と勢いで食べるものではない。「ラーメンとかどう」という気楽な気分で食べるものだ。そうすれば客単価もどうしても他の店との競合のなかで設定し似たようなものになってしまう。そうなると気がつけば薄利多売という状況になってしまう。それは仕方のないこと。そこからが難しい。

ラーメン店は開業した直後はたいていどんな店でも客が来る。「これはひどい」という店でも来る。問題はリピート率をいかに確保するかだ。簡単に言えばいかにして飽きさせないかに尽きる。記事にもあるようにいろんな種類の味がすでにでている。そのなかで特徴をだすというのは容易なことではない。あまりにも特徴的な味であるとすぐに飽きられてしまう。コアなファンだけで成り立つような業態でもない。逆に万人受けを狙った味だと他の店との差別化ができずに客数が減る。ラーメンの味を設定するというのは家庭でおいしい味を作るのとは意味が違う。

そもそも最近の消費者は,味よりも情報を食べている。「これは○○でだしをとっている」「○○の風味が特徴」など食べる前に情報を仕入れて確認のために食べるようなものだ。事前の情報があるからこそ「たしかに○○の風味がする」という話ができる。前提なく食べたらまったく気がつかないという場合もあるはずだ。売る側としては,そういった消費者の特性も把握した上でマーケティングを組まないといけない。

もうひとつ課題になるのが材料費もさることながら人件費の高騰だ。飲食店を経営に関与したことがない人にはイメージしにくいだろうが飲食店はただおいしいものを提供すればいいというものでない。盛りつけが下手だったり提供までに時間を要すれば苦情になる。ある料理を提供するには,事前に用意できる部分と直前に対応しないといけない部分がある。ラーメンにも「麺をゆでる」あるいは「盛りつける」という提供直前のプロセスがある。これはバイトの人がすぐにできるようなものではないだろう。そうなると長期的に人員を確保して育成する必要があるだろうが人手不足のなかでなかなか確保できない。確保したバイトも時給が高くなっていく。人件費の増加を価格に反映できればいいだろうが日頃の食時としてのイメージがあるラーメンの価格をいきなり高めることには相当の勇気がいる。

何の商売をするにしても難しいものだ。ただ同時にいかなる環境下でも利益を出し続けている店もある。研究しかない。