今,飲食店の経営者からはこんな相談がよせられています

投稿者:
島田 直行(弁護士)
2020.04.14 経営者の方々へ

今回のコロナウィルスショックの影響をとくに強く受けているのがやはり飲食店業界でしょう。自粛モードで営業自体ができないというケースもあります。そうでなくてもやはり外食する人が激減して対応に苦慮されています。支援をするときには現場の課題を共有することが必要でしょう。課題に合致しない支援をいくらしても効果にはつながりません。「今,飲食店の人がどういうことで悩んでいるのか」を整理して共有することには意味があるはずです。そこで僕のもとに寄せられたいくつかの相談についてお伝えしましょう。飲食店の方にとってなにがしかの参考になれば幸いです。

飲食店経営の難しさは,キャッシュフローに時間的余裕がないこと

現場の経営者はさまざまな悩みを抱かれています。「これが悩みです」とひところで表現できるものではないです。ですがやはり共通する悩みというものものあります。

飲食店の場合には,小規模な事業体が多いです。1店舗や多くて3店舗くらい。経営者とアルバイトだけで1店舗を回しているというところも多いでしょう。こういった小規模であるため規模論理による経営をすることができずに経営環境の影響をダイレクトに受けやすくなります。とくに影響を受けるのが資金繰りです。

企業としては,銀行からの借り入れで設備投資や運転資金を用意することが多いでしょう。飲食店でもある程度の規模になれば銀行をはじめとした間接金融により運転資金をまかなうことができます。でも小さな店舗だと「運転資金を銀行から」というわけにはいきません。どうしても飲食店の場合には,「その日の売上」によって運転資金をカバーしないといけません。自分で事業をしていない人にはピンとこないのかもしれませんが運転資金を日々の売上で確保するというのは簡単なことではありません。だって「明日どれだけ売上があるか」なんて誰にもわからないからです。

飲食店の場合には,日々の仕入れの支払も日々の売上でまかなうことになります。つまりビジネスモデルとして日々キャッシュが入ることが前提にして成り立っているわけです。ですから何かの拍子に入金がなくなるといきなりキャッシュフローが悪化して事業を維持するのがきつくなります。いわば「時間的な猶予がない」というのが経営の難しさです。

コロナウィルスショックを理由に家賃の減額交渉ができるか

あらゆる事業は,利益=売上-費用ということになります。危機的な状況では,「とりあえず明日の売上」ということに目を向けてしまいがちですがなかなかすぐに売上につなげていくことは難しいところがあります。どうしても売上は「お客」あってのことになるため自分の努力だけではいかんともしがたいところがあります。ですから売上よりもさきに考えるべきなのは経費の削減ということになります。

「さらに経費を下げるところはない」という意見もあるでしょう。ですがもういちど翌自分の事業を眺めてみてください。まだまだ削減できるところも見つかるかもしれません。とくに固定費は売上にかかわらず発生するため経営にとって相当の負担になります。固定費のなかで削減できるものがないかをよく見極めてみてください。

とくに交渉しやすいのが賃料です。「賃料の減額交渉はできるのか」という相談も実際にいくつかありました。そもそも賃料は,貸す人と借りる人の合意のうえで決定されるものです。ですから当事者双方が合意すれば賃料の減額をすることができます。事業を存続させるためにまずは大家さんに賃料の一時的減額や免除を打診してみるといいでしょう。状況が状況だけに「仕方ないですね」と応じてもらえる可能性も十分にあります。大事なのはこちらから提案しないと何も始まらないということです。大家さんのサイドから「今回はいいよ。大変な時期だから」ということにはなかなかなりません。

ちなみに賃料減額の合意ができない場合には,ケースによって裁判で減額してもらえることもあります。これは大家さんの意向に関係なく減額されることになります。(逆に大家さんサイドからの申立で賃料が増額される裁判もあります)

いずれにしても危機に強い経営とは固定費が少ない経営です。自分のところの固定費をまず確認しましょう。

社員は休業がいいのか解雇がいいのか

経営者であれば誰しも「なんとか社員の雇用を守りたい」という気持ちでしょう。ですが人件費は中小企業にとっての最大の固定費のようなものです。売上の立たない状況では人件費をいかに確保するかが大事になってきます。そこで問題になるのがいわゆる整理解雇です。

経営者のなかには,「休業手当よりも解雇による失業保険のほうが有利ではないか」という発想の方もいるかもしれません。ですが日本では,いわゆる整理解雇ができる場面が限られています。「売上が悪くなったから解雇」という論理には鳴りません。しかも仮に有効に解雇したとしても会社としてなんらの経済的負担をともわないわけではありません。即時解雇となれば解雇予告手当を会社として支払う必要があります。失業保険のための解雇だとしても解雇予告手当の負担はまぬがれません。そもそも「失業保険のための解雇」であって復職が前提となれば「それは本当に解雇なのか」という問題もあります。

個人的には解雇は本当に最後の手段にした方がいいです。社員のモチベーションも一気に下がります。どうしても維持が難しいならやはり退職を促して辞めてもらうほかないです。それでもだめなら解雇。そういうベクトルで進むべきです。解雇するときには専門会の意見を聞いてください。

現実的な解決としてはやはり休業してもらって雇用調整助成金の申請をするべきでしょう。これはいったん経営者が休業手当を支払う必要があるためキャッシュが先行してでていくことになります。日々の売上で運転資金を回している飲食店にとってはここが特に負担になるわけです。

こういった助成金は手続きの簡略化が指示されています。それでもやったことがない人にとっては煩わしいものです。必要に応じて社会保険労務士さんに最初だけでも関与してもらった方がいいです。ただ社会保険労務士さんも今回の助成金でなかなか時間を確保できないという声も聞きますので早めに相談されることをすすめます。

テイクアウトを始めるときには許可の範囲を

売上を確保するために新規にテイクアウトに挑戦する人も増えてきました。売り方を変えるというのは売上を確保する効率的な方法です。おいしいものが自宅で安心して食べることができるというのは消費者にとっても魅力的です。

こういったテイクアウトをするときには営業許可の範囲を気をつける必要があります。基本的に店内の厨房でつくったものをテイクアウトするのは,食品営業許可のもとで対応できるので特段の許可を得る必要はないです。ですからいっきにテイクアウト始める人が増えたわけです。

さりとて無制限に認められるわけではありません。例えばハムやアイスクリームといった加工品を単体でテイクアウト販売するときなどは別の許可が必要になることもあります。こういった許可の範囲って実はものすごく複雑で僕も良く理解できていません。みなさんも「これやってみよう」と考えたときには事前に保健所など専門の部署に照会をして確認した方がいいです。自分の勝手な思い込みでやるのだけは避けるべきでしょう。

その他にもテイクアウトの場合には表示方法などについても確認を要します。

実際のケースとしてあるのがテイクアウトによる食中毒の場合です。店舗で提供しているときにはお客さんがいつ口にするのかを目にすることができます。ですがテイクアウトの場合には,「生ものですから早く召し上がってください」と説明しても本当のところいつ口にするのかわかりません。そもそも冷蔵庫に入れて明日以降ということになるかもしれません。そういったときに食中毒がでてしまうと飲食店も困ってしまいます。

「生ものだから早く食べるように伝えていました」といっても積極的な反論にはなかなかならないでしょう。「言った。言わない」の議論になってしまうかもしれません。飲食店としては,そういったリスクがあることを前提にテイクアウトのメニューなどを考える必要があるでしょう。また万が一のことを見越して自分の加入している保険でテイクアウト時における食中毒などもカバーできるのかも確認しておいてください。コロナウィルスショックのうえに食中毒となれば影響はかなりのものになります。

その他にもデリバリーを提供する場合には,社員が配達中に事故に遭ったときの保険も確認しておかなければなりません。「自転車による配達だから大丈夫」というのは危険な発想です。自転車でも多額の損害賠償にこともあります。

「おいしい」とは幸せなこと

人にとって「外食をする」というのは特別な経験です。家族でレストランに行く,職場の同僚と居酒屋に入る,上司にちょっと高い店に連れて行ってもらう。誰しも外食の思い出ってあるものです。それは提供する料理の価格ではないです。みなさんの提供なさる料理は,それぞれの思い出を彩るものになります。「おいしい」とは幸せなことです。飲食店は,そういった幸せを提供してくださる場所なんですよね。この大変な時期をなんとかがんばってください。みんな応援しています。