新人さんにとってはフィードバックの時間がとっても大事

投稿者:
島田 直行(弁護士)
2021.08.13 (更新日:2021.08.19) その他

事務所でスタッフの増員を検討しているのですが考え始めたら人材育成まで考えが及んだのでしばらく書いてみることにしました。「この事務所で勤務してみようか」という現実的な人のみならず「働くってなんだろう」と考えている人にとっても参考にしてもらえるとありがたい。経営者層にしてみれば「あるよな,そういうところ」と共感を抱くかもしれませんね。

そもそも論ですが法律事務所って一般市民にとってはほど遠い存在な訳です。弁護士激増でCMやら広告やらをいやというほど目にするようになりましたが「いつも週一で弁護士事務所に通っているの」という人はまずいない。個人が弁護士に依頼するのもたいてい人生において一度でしょう。ですから比較検討もしにくいという問題もあるわけですが。そんなわけで法律事務所の勤務というものがなかなかイメージできないはずです。結果として応募数が少ないのかもしれないです。細かい話は避けますが事務仕事としてはハードな部類と思います。少なくとも僕の事務所では。事務仕事=ルーティン作業と考えていたらあまりにも臨機応変な対応を求められて驚くかもしれません。相続放棄をやりながら借金整理や離婚の準備ということも日常茶飯事です。

もっとも「法律の素養が必要なのか」と質問されたら「不要です。こちらで鍛えるから」と回答することになります。実際のところ法学部出身者ではなくてもバリバリ働いてもらっています。どの分野にしても同じでしょうが学問と実務にはどうしようもない壁があります。いくら学問を追究しても実務で同じだけのパフォーマンスになるとは限りません。実務能力を上げるとなれば,実務で経験値を上げるほかないです。むしろ現実的な企業の課題は,こういった「実務で経験値を上げる」というプロセスがまったく体系化されていないことです。OJTなどいわれるもののたんに先輩が後輩に「こうやるのだ」と伝えるだけで終わってしまいがちです。そこをうまくフォローできるかが数年後のパフォーマンスに影響するように感じています。

ここで壁についてちょっと触れておきます。僕の事務所で勤務し始めると「右も左も分からない」という状態からスタートします。そもそも「何を聞けばいい」「誰に聞けばいい」という感じでしょう。最初は僕から細かい指示をすることはありません。チューターを用意して基本的な素養を覚えてもらっています。このときしっかりメモをとってもらって自分のなかで見直す習慣をつけてもらいます。僕の事務所は,かなりIT化が進んでいると言われています。それでもメモ書きは手書きにこだわっています。①さっと書けること②検索しやすいことなどからです。メモ書きというのは奥が深いのでまた仕事術のなかで触れていきましょう。こういった新人さんが走りだすと2~3週間に一度は面談をするようにしています。「どんなものかな」みたいなもやっとしたフィードバックです。いきなり僕から「○○をこうして」など具体的な指示をすると自信を失ってしまうからです。初期のフィードバックの目的は,なによりも弁護士との距離感を縮めること。「何を話しても大丈夫。怒られない」というスタンスをきっちり作り上げるべきでしょう。

たいてい半年経過後くらいにスランプというか壁にぶつかります。このくらいの時期になるとある程度のボリュームで仕事を任せるので「段取り」という能力が求められるようになるからです。次から次にやってくるオーダーにどうやって優先順位をつけて処理をしていくか。これは実に難しい。どれもこれも重要で急ぐように見えてしまうのでアップアップになるわけです。目の前の業務に忙殺されてせっかく覚えた基本的なスキルも見落としをしたりします。これはある意味では仕方のないことです。同時にこういうところをきちんとフォローしてあげることがボスというか事務所の責任です。個人の成長は,経験に比例するようなものではありません。むしろ階段状に伸びていくものです。どこかでなかなか伸び悩む時期にぶつかる。そういうときには過去の自分ができるようなった部分をフィードバックを通じて評価してあげることが効果的です。小さな成功体験を見返すことで学ぶこともたくさんあります。

とかく個人の成長というのを本人の努力にばかり求めてしまいがちです。もちろん努力は必要ですが努力だけで効率的に成長していくようなものではありません。組織なりマネージャーの役割は,そういった個人の努力を評価しかつ引き延ばす環境を作ることです。誰かに期待する前に自分として部下の育成をいかに実施していくかを時間をかけて考えることが必要です。