読書感想:賢い人がなぜ決断を誤るのか?

投稿者:
島田 直行(弁護士)
2021.08.21 (更新日:2021.08.27) 読書感想

「これからの経営者が抑える素養は」と質問されたら行動経済学と即答します。行動経済学とは,ものすごく雑ぱくに表現すれば「人間は非合理な行動を無意識にとってしまう」ということを前提にした経済学です。旧来の経済学は,経済的に合理性を追求したひとを想定して議論がされてきました。ですから大根を買うという判断を考えるときも「どうしたら1円でも安く買えるか」をひとは考えて行動するとされます。でも実際の経済においてはそんなひとはなかなかいません。むしろ「少々高くても知り合いの八百屋さんで買ってあげよう」とか考えて行動することもあるでしょう。こういった感情や心情というのは,基本的に「経済的に合理的な判断」を阻害する要因になってしまいます。義理も人情もないような世界は「むだがない」かもしれないですが間違いなくデストピアです。たまに床屋に行ってマスターとたわいない話をする。そういうことに幸せを感じるのもまた人間なわけです。行動経済学では,こういった「あまりにも人間的な側面」をありのまま認めることからはじまります。

こういった人間の行動は,たいてい無意識下で実行されます。つまり自分としてはどのような判断をしたのかわかっていないのです。いわばわからないまま判断をしてしまうということがあります。これがいわゆるバイアスというものです。ロマンスグレーの白衣の初老の方を目にしたら「医師」とイメージするでしょう。でも物理学者かもしれません。つまり無意識の判断は,ときに間違った判断を引き起こしてしまうわけです。しかもばつの悪いことに自分がバイアスに引っ張られていると言うことを自覚するのは相当難しい。そもそも不可能。だからこそ優秀な人でも判断を間違ってしまうことを指摘したのが「賢い人がなぜ決断を誤るのか?」というもの。内容はまさにタイトル通りです。本書の特徴は,経営コンサルタントが経営の視点で典型的に陥るバイアスと対策を提示しているところです。これって経営者なら一読はしておくべきですよ。これまで行動経済学についてまったく読んだことがない方であったらある意味で心折れるかもしれません。「俺って,自分で判断しているようでなんとなく判断しているだけじゃないか」という自信喪失に至ること間違いない。なにかを知るというのは,ときに残酷な結果を目にするものです。でも学んだショックは必ず力になるものです。毒にも薬にもならないものをいくら集めても意味がないです。

僕らは,経営判断について重要なものであり自分のなかで論理的に実行していると認識しているはずです。ですが実際には様々なバイアスのなかで不合理な判断をしています。例えば「自分だけは違う」「これまでと同様に」などといったことは典型的なものです。本書では経営者層が陥りやすいバイアスが整理されています。これを読むだけでもいかに自分が非合理的な判断を繰り返しているかわかるはずです。「わかる」というのはすべてのはじまりですね。

本書でとくに強調されているのは,こういったバイアスを除去するのはとても難しいということです。仮に「こういったバイアスがある」と本書で理解しても実際の判断のなかではやはりバイアスに引っ張られてしまいます。それは「無意識で実行される」ためバイアスの存在に気がつくのが難しいからです。ある意味で地獄ですね。。ただ同時にバイアスから一歩引いて冷静になるための手法も書いてあります。そのひとつが「他の人の意見も聞く」という極めてシンプルなものです。ポジションが違う人がみれば別の判断を提供するかも知れません。この「判断が異なる」というのがある意味では自分のバイアスに気が付くきっかけになるのでしょう。