5倍の教育費からしても最低賃金の上昇は社会のために必要なことだろう

投稿者:
島田 直行(弁護士)
2020.09.20 経営者の方々へ

新総理が中小企業の支援として中小企業基本法の見直しなどに触れたということだ。

菅首相はアトキンソン信者、中小企業に再編圧力

日頃から中小企業の支援をしている者からすれば,中小企業への支援が拡充することはありがたいことだ。日本にある企業の99%は,いわゆる中小企業だ。中小企業の経営を支援することは雇用を守ることもである。さりとて中小企業を取り巻く経営環境は決して穏やかなものではない。人手不足に,後継者不足。そのうえ新型コロナ。「いったいどうすれば」と頭を抱える経営者も少なくない。

中小企業は,人材も資金力も大企業に比較して十分ではない。そのためグローバル化やIT化と世の中でもいわれてもついていけないところもある。そうなると大企業と中小企業の相違はさらに大きなものになってくる。こういった乖離はこれからさらに猛スピードで進行するような気がしてならない。中小企業にとっては受難の時代と言えるかもしれない。だがどういう状況であっても起死回生の一手というものがあるはずだ。経営者の方には,大変な時代ではあるが「日本の雇用を維持する」という自負のもとで頑張っていただきたい。

話を戻そう。記事の中でもあるように日本には中小企業基本法という法律がある。法律はあるが経営者のなかで法律を実際に読んだことがある人がいったいどのくらいいるだろう。おそらく大半の経営者にとっては,法律の存在すら知らなかったであろう。弁護士という視点からしても訴訟のなかで中小企業基本法に触れることは通常ないであろう。同法の目的は第1条に明示されている。

第一条 この法律は、中小企業に関する施策について、その基本理念、基本方針その他の基本となる事項を定めるとともに、国及び地方公共団体の責務等を明らかにすることにより、中小企業に関する施策を総合的に推進し、もつて国民経済の健全な発展及び国民生活の向上を図ることを目的とする。

ここであるように中小企業基本法は,個別の企業の経営確保を目的とするのではなく「国民経済の健全な発展及び国民生活の向上を図ること」にあるとされている。つまり国民すべてに関わるものといえるだろう。この法律をどのように見直すかは現時点ではわからない。個人的にはたんなる努力義務だけではなく具体的な制度なりが設計されることを希望する。しかも可能な限りシンプルな制度だ。とかく行政サービスの制度では,確実性を重視するあまりに利用方法が煩瑣な場合がある。だがそれではスピードが重視される現在のビジネスの業界にそぐわない。ビジネスの特徴を考慮した制度を求めるばかりだ。

もうひとつさきの記事の中では最低賃金の引き上げについても触れられていた。僕は,最低賃金の引き上げは社会として必要なことだと考えている。企業の論理として価格競争力を持つには,最大の経費である人件費の圧縮が必要ということもわかる。わかるけれども,それでは長期的な企業の繁栄にはならないであろう。あたりまえのことだが社員が安定した暮らしをしていくためには賃金が必要である。いくら理念として立派な企業があって,人間関係も良好だとしても生活に必要な賃金をもらうことができなければ転職せざるを得ない。この人手不足のなかで戦力の離脱は企業にとっても痛い。

1970年と比較すると世帯の教育費の負担は約5倍と言われることがある。これはあくまで平均値であるからただちに5倍というわけではないだろうが教育費の負担が重たくなったことは実感としてあるだろう。このように生活に要する費用は向上しているのにもかかわらず従前の賃金体系のままという企業も少なくない。こういった不整合性を調整していくにはまず最低賃金の引き上げから開始せざるを得ないだろう。

企業の利益向上と労働者の最低賃金の引き上げのいずれが先行されるべきかはいつも議論の的になる。企業としては,「まず利益をあげないと賃金を上げるわけにはいかない。利益あってこその雇用」ということになるだろう。さりとて利益確保を先行するといつまでも賃金の引き上げにならないという可能性もある。企業は,どうしても「1円でも多くの利益を確保したい」と考えるからだ。現実的には賃金の引き上げを先行することになるのだろう。

最低賃金を引き上げるとビジネスを維持できないという意見もあるかもしれない。ただ冷静に考えて最低賃金すら支払えないようなビジネスモデルがいつまでも続くとは考えきれない。それは誰かの犠牲のもとで成り立っているようなものだ。早急にビジネスモデル自体を変えるべきではないだろうか。なんでもかんでも衰退の要因を最低賃金にするのはよくない。

経営者は,「最低賃金は今後も引き上がり続ける」という覚悟を持っておくべきだ。そのうえで最低賃金が引き上がっても利益を確保できるような仕組みを考えておかなければならない。値付けひとつにしてもそうだ。なんとなく原価上乗せで安易に算定していないだろうか。最低賃金を自社のモデルを見直すためのひとつのきっかけにしていただきたい。

ちなみに記事の中ででているアトキンソン氏の本では「日本企業の勝算: 人材確保×生産性×企業成長」が企業についての考えが整理されていて読みやすいだろう。