クリニックにおける問題社員は,相手を敵と味方にわけて整理する

投稿者:
島田 直行(弁護士)
2021.05.19 (更新日:2021.05.31) 医療機関の方へ

「院長、クレーマー&問題職員で悩んでいませんか?」のなかでは,クリニックにおける労働事件の特徴について整理しています。現状把握こそがすべての解決の始まりだからです。ですが実際には多くの院長が問題があることを認識しながらあえて目をつぶっています。ひとの問題に深入りして面倒なことになるのを避けたいのでしょう。ですが目を閉じている限りは問題の解決にはなりません。本書のなかで解決の指針について検討したいくつかのポイントについて整理しておきます。

「前の職場ではこうだったから」と口にしていつのまにか自分中心の職場をつくりだしている

医療介護の分野は,圧倒的な人手不足の状況です。これについては労働者自身もよくわかっており職場に不満があればとりあえず退職するということになります。つまり雇用の流動性が特に高い分野であると言えるでしょう。そのため「やっと社員を採用できた」と喜んでいたらなにかと問題のある社員だったと相談は枚挙に暇がないです。当初は「しばらく様子をみよう」となるのですがしだいに問題行為が目に余るようになり他の社員からも不満がでてきます。そして1年も経たないうちに「どうしたらいいのだろう」と頭を抱えることになります。

日本の雇用形態は,基本的にメンバーシップ型といわれています。最近ではジョブ型など言われることが増えてきましたがクリニックではたいていメンバーシップ型が基本になるでしょう。限られた人員で経営しているクリニックにおいて「あなたの職務はここまで。他はしなくていい」など明確な輪郭をつくることはできません。むしろ費用に応じて相互に協力して欲しいというのが院長の基本的な考え方のはずです。そうなると個人の能力よりも求められるのは,協調性といった類いのものです。「労働契約においては他の社員と仲良くすることは契約内容ではない」という反論をされることもありますが,それほど単純な話ではないです。なんでも法律だけで解決できるほど世の中は簡単ではないということです。

受付などで採用した人によくあるのですが「前の職場はこうだった」といって既存のやり方を否定することです。なかには「自分はこういうやり方でやるから」と他の人の意見に関係なく自分のやり方を固執し他の社員をサポートするようなこともありません。こういうことを露骨に言われると周囲のスタッフとしては「怖い」という印象を受けることになります。結果として腫れ物に触るようになってしまい何も言えない雰囲気になるものです。「前の職場」というのは,現在の職場では関係のないことです。あくまで院長の業務指示に従うべきものです。こういう人に「もう少し協調性をもって」と指導すると「他の人とはうまくやっています」と想定しない回答がなされるものです。

「あの人はいい人」「あの人はいじめる人」と区別していく

クリニックは,いわば閉鎖的な空間です。問題社員は,自分のポジションを強化するために自分の意見に従う人と従わない人を区別していきます。「それはおかしいのではないか」と明確に意見を述べるひとは,意見の内容に関係なく「自分をいじめる人」というレッテルを貼って排斥しようとします。なかには露骨に無視をするという子供じみた対応をする人もいます。ひどいケースだと「あの人は院長と男女の関係にある」など根拠のないことを口にすることすらあります。

誰しも自分がこういった問題社員のターゲットにはなりたくないものです。ですから「あなたの意見は間違っている」と思ってもなかなか口にだすことができません。適当に距離を置いておこうと「そうだね」など曖昧な言葉で対応していきます。すると問題社員からは,「この人は明確に反発できない人。自分になびく」と認識されていつのまにか「味方」ということに位置付けられてしまいます。こうやって限られたクリニックのなかにいつのまにか問題社員を基軸とした派閥のようなものができてしまうことがよくあります。

院長からすれば「なぜ小さなクリニックなのにみんなでうまくやれないのか」と不思議でないでしょう。ですが3名いれば派閥というものはできてしまうものです。派閥ができないようにするためには組織の長が然るべき対応を継続的に実施しなければなりません。なんとなく人事を事務長に任せているだけではいつのまにか派閥ができて一斉退職という悲惨の事態になることがあります。

なぜか社員が院長夫人と対立してしまう

少なくないクリニックでは,院長夫人が事務長を担当しているものです。事務長としては,夫とともに「より良い職場へ」ということでいろいろ思案して社員も気を遣われることが多いです。そういった配慮を社員が理解してうまくコミュニケーションを取ることができればベストです。ですが実際にはそうはいかないケースも少なくありません。

クリニックにおける労働問題においては,院長ではなく院長の妻への反発が原因になっていることが少なくありません。あるケースでは,「院長の妻というだけで偉いのか。なにひとつ資格もないのに」と口にしていた社員もいました。それがつらくても現実です。これは事務長にとって「あんなに尽くしたのに」ということで言いようのない徒労感を与える結果になりかねません。

こちらとして尽くしたとしても相手が同じように理解することはないという前提に立つことが必要です。相手にしてみれば,「当然のこと」という認識のことも珍しいことではありません。この認識の相違を確認して解決しなければ,いつまでたってもギクシャクした職場のままということになります。本書のなかでは,そういった人間心理にも踏み込んだ解決の指針を提示しております。