社員のメンタル不調が疑われる場合に絶対に抑えるべきポイント

投稿者:
島田 直行(弁護士)
2017.03.24 メンタルヘルス

 社員のメンタルヘルスに関する相談を受けることが増えています。社員の健康を維持することは会社の責任のひとつです。「うつ病などは個人のプライバシーに関わるものだから」といって具体的な検討を先延ばしにしている社長も少なくありません。こういったスタンスが社員にとっても方針が定まらず困ります。社員のメンタル不調が疑われるときに会社として抑えるべきポイントを整理しておきましょう。

事前のルール作りこそ必要です

 あたりまえのことですが社員のメンタルヘルスについても事前のルール作りこそ必要です。具体的には就業規則において「休職したらどうなるのか」などを明確にしておかなければなりません。

 ですが古い就業規則では,社員のメンタルヘルスに関する定めがまったくなされていないものも少なくありません。これでは社員として安心して治療を受けることもできないでしょう。

ルールは,事前にきちんと定められているからこそ意味があります。社員がうつ病などに罹患したのちに作成しても意味がありません。ですからこれまで社員のメンタルヘルスに考えたことがない方はすぐに就業規則を見直してみることをお勧めします。このときは弁護士や社労士といった専門家にチェックしてもらうべきです。

 メンタルヘルスに関してとくにトラブルになりやすいのは,次のような場面です。

  • 体調が悪そうなときに「受診してきなさい」と言えるか
  • 休職期間中に治癒しなかったときにどうなるのか
  • なんども休職を同じ病状で休職するときにはどうなるのか
  • 本人が復職可能という診断書を持参したら復職を認めざるをえないのか

 こういった問題に就業規則を見せながら回答できないとなると就業規則に不備があるあるいは内容を社長が把握していないということになります。そのためすぐに専門家の意見を仰ぐべきです。

会社が復職を検討することをはっきりさせる

 社員のメンタルヘルスに関してもっともトラブルになるのは,復職の時期についてです。

 社員としては,ある段階で治癒をしたとして復職を求めてくることになります。本当に治癒をして就労可能という状況であれば,復職を認めてともにがんばっていけばいいということになります。もちろん過剰な負担を与えて病状が再発しないように配慮する必要はあります。

 ですがケースによってはまだ治癒しておらず職場復帰困難といえるときもあるでしょう。こういうときでも医師からは,「軽微な労働であれば可能」という診断書がでてくることがあるため対応に苦慮することになります。

 これは「復職について誰が決めるのか」を明確にしていないことから発生する問題といえます。そこで就業規則においても復職の判断は会社が実施することを明確にしておくべきです。その前提として必要であれば,会社の指定する医師の診断を要すると記載するときもあります。

 こういった規定があるために絶対に会社の判断が正しいというわけではありません。会社の判断は不当であるとして争われることも当然あります。ですがこのような規定すらなければ,基本的に社員が復職を求めてくれば対応せざるをえないことになります。

 社長としては,「安易に復職を認めたらいっそう症状が重くなるのではないか」「軽微な仕事と言われても具体的に用意できる仕事などない」と反論されることもありますが説得的な反論にはならないでしょう。

休職期間にはいるときの説明こそ求められます

 こういったトラブルの多くは,労使双方の誤解からうまれることになります。社員としても「あとから説明されても困る」ということは容易に想像できるでしょう。だからこそ治療を開始して休職するというときにきちんと事後的なことについて説明しておくことが必要です。

 まずもって必要なことは,①休職できる期間②休職期間中の賃金及び③休職期間中に治癒しなかったときの対応についてです。「これから治療というときに言いだしにくい」という声もあります。ですがこういった説明を曖昧にしているからこそトラブルになるということも否定できません。言いにくいところだからこそ明確に伝えるのもやさしさのひとつです。

 こういった説明は,きちんと書面を交付してなされるべきです。事後的に「そんな説明を聞いていない」と指摘されることを防止するためです。説明をしたという記録を作成しておくことが双方の誤解を防止するうえでも必要です。

 とくに休職期間中の賃金については,個人負担の社会保険料について説明をしておくべきです。休職期間中は賃金の支給がないことが多いため社員としても個人負担の社会保険料の負担もないと誤解することがあります。「会社が立て替えているだけ」と説明しても納得してもらえないこともあります。ですからいくら休職しても社会保険料の負担が発生して事後的に清算する必要があることはあらかじめ説明しておくべきです。

 次に必要なことは,復職の条件についてです。どのような場合に復職となり誰が復職を決めるのかについても事前に就業規則を提示しながら説明しましょう。少なくない社員は,「医師が復職を認めれば復職できる」ものと想定しています。ですが医師の判断はあくまで医学的な見地からなされるものであれば,当然に労働契約に影響するものではありません。あくまで参考とするべき意見ということになります。