「人生に遅すぎるものなどないのだ」と自分を納得させたい

投稿者:
島田 直行(弁護士)
2020.06.22 その他

自分のなかでもやもやしているものが一冊の本を手にすることで妙に整理され「そうだよな」としみじみ感じることがある。「RANGE(レンジ)知識の「幅」が最強の武器になる」は,個人的にまさにそういった一冊だ。これから事務所に入所する人に勧めたいと考えている。

本書はそれなりの分量があるが主張の根幹は極めてシンプルで明確だ。それは,「なにごとも人生に遅すぎることはない」というものに尽きるだろう。これを味わうだけで本書を一読する価値がある。

世界は膨大な情報量にあふれている。同時に専門分野の細分化があまりにも急激に進行している。専門分野がどんどん進化しているためになにかで結果をだそうとすればできるだけはやく対象となる分野を絞って走りだすのが有利かつ正しいことのように捉えられている。でも冷静に考えて欲しい高校時代に「どんな職業に就きたい」なんて正確にわかるはずもないだろう。実際のところ学生時代に希望していた職業に今も就いている人がいったいどれほどいるのだろう。学生時代なんて見えている世界も狭く経験値も少ない。それにもかかわらず「これからの進路を決めなさい」というのはあまりも残酷だ。若くして長期的な視点で将来を描いて動きだすのは,立派ではあるがせっかくのチャンスを自分から見失うリスクもあることを忘れてはいけない。脱線するが「子どものころから弁護士志望だったのですか」と質問されることがありますが,そんなことはないです。小学生が「大きくなったら弁護士になりたいです」といったらなかなか驚きます。そもそも弁護士がどういう仕事なのかというイメージができないでしょうし。仮に「弁護士になりたい」といってもたんにイメージに対するあこがれでしかないでしょう。(しかもイメージは現実の勤務によって打ち砕かれるわけだが)

本書の問題意識はあまりにも専門分野を特化して視界が狭くなることへの警鐘だ。これは自分で仕事をしていてもつくづく感じる。例えば弁護士としてのスキルを磨くうえでもちろん法律や判例に対する造詣を深めることは必要だ。同時に法律分野だけ勉強すればいいかといえば,絶対に違う。浅くていいので広い分野の知識を目にすることで斬新な考え方を自分のなかで手に入れることができる。簡単に言えばアナロジーの能力を高めることで法律分野の課題にも別の解決のアプローチを考えるきっかけになる。これはすべての仕事に共通するだろう。料理家が音楽に挑戦する,医師が絵を描く。それは一見すれば無駄のように見えるかもしれないが全体のパフォーマンスをあげる非常に有効な手立てだ。

僕は,もともと事務所の若い弁護士にあえて法律分野ではない分野の本を読むことを推奨している。これもさまざまな分野に触れることで「これ面白いかも」という出会いを大切にして欲しいからだ。「法律分野で頑張ろう」という意気込みが強いほどに「この分野だけに」ということになりがちだ。それではせっかくの若い能力を活用することができない。リーダーの役目は若い人の能力を伸ばすように環境を整えることの一言に尽きると考えている。

僕らは,いつの間にか「あれもやってみたかった」と過去の出来事のように自分の人生を振り返ることがある。それはできなかった自分の人生を納得させるためのひとつのリップサービスのようなものかもしれない。でも僕らは,いつでもなんでもはじめることができるはずだ。結果としてうまくいくかは別として「はじめる」ことに遅すぎることはなにもない。「やるかやらないか」だ。

本書は事務所で働いてみたいという方にはぜひ読んでいただきたい一冊だ。