『コンテナ物語 世界を変えたのは「箱」の発明だった 増補改訂版』僕らは,ロジスティックスの網の中に暮らしている

投稿者:
島田 直行(弁護士)
2020.01.02 その他

自分の年齢から逆算すれば自ずと読める本の数にも限界がある。そこで今年からはたくさんの本を読むのではなく「これは」というものをじっくり味わいながら読んでいきたい。そんな意識で最初に読んだものは,「コンテナ物語 世界を変えたのは「箱」の発明だった 増補改訂版」だ。コンテナというありふれたものを通して世界のロジスティックスの歴史を紐解いた名作だ。まぁ名作だからゆえに増補改訂版となっているわけだが。

イノベーションは,発明ではなく活用によりうまれてくる

事務所の前の関門海峡は,日々コンテナを山積みにした大型船が行きかっている。コンテナは,ロジスティックスつまり物流の世界を一変させた。船,電車そしてトラックをシームレスにつなげることによりまさに「物流」をうみだしたことになる。しかもこれはひとりのトラック運送業者の挑戦によって。

ただしコンテナという箱時代は,それ以前からすでに発明をされていた。そこにはあったわけだ。でもあくまで少量でまさか物流を変える力が箱にあるとはだれも考えていなかった。箱をシステムの一部としてとらえることではじめてコンテナ物流という大きなイノベーションがうまれることになった。

僕らは,とかくイノベーション=発明ととらえがちだが必ずしもあっているわけではない。むしろビジネスを変革するようなイノベーションは,発明されたものをいかに現実のビジネスに活用にしていくかによってうまれてくる。必要なことは,今ある技術の使い方あるいは見方を変えていくことだなんだろう。

新しい技術を活用していくのは決して容易なことではない。いくら面白い活用方法を描いても規制,インフラあるいは既得権益との調整を図っていく必要がある。本書のメインは,そういったシステムの定着と広がりの歴史が中心となっている。

コンテナの歴史にはビジネスのすべてが含まれている

僕らは,毎日のようにコンテナを目にしている。とくに下関では港もあるのでトラックがコンテナをけん引している姿を見るのは珍しくない。これほど目にしているのに「コンテナとはなんだろう」と考えることはおそらくない。何事もありふれたものほど注意が向かずに「いつものもの」で終わってしまうものだ。

本書がビジネス業界で広く支持を受けたのは,コンテナの歴史にはビジネスのすべてが含まれているからだ。発明,投資,競争,規制,労働,繁栄,衰退,そしてこれからと。あらゆる業種に共通するビジネスのロールモデルともいえるかもしれない。

コンテナによるロジスティックスの肝は,巨大化にある。規模の論理で世界基準で展開することでより効率化をあげることができる。システムの拡大により船も港も巨大化していく。システムの効率化は輸送運賃の低減というカタチになってくる。

例えばアメリカでデザインされベトナムで縫製された洋服を東京の店舗で買う。あたりまえのことかもしれないが冷静に考えればすごいことだ。コンテナによる輸送コストが低額になったからこそ可能になったもの。グローバリゼーションの根底には,輸送システムの巨大化による運送コストの低減があるのだろう。

もっとも巨大化は,船舶のみならず港の巨大化も求めてくる。船舶をつけることができない小さいな港はしだいに利用されなくなり一部の港に集中することが懸念される。こういった傾向は加速的に展開するだろうから「時代にのる港」と「時代に乗り遅れた港」を生みだしていきかねない。「では港を巨大化しよう」とすれば多額の資本を要することになり誰が負担するべきかという問題にもなる。それほど話は簡単ではない。

ビジネスでは,外部要因との調整をいかに図るかがポイントになる。とくに既存のシステムがそれなりにうまく機能しているときに新しい発明を浸透させていくときにはなおさら利害関係者との調整能力が求められる。「いい物があれば広がる」というのは幻想だ。

しかも調整にはときに運も求められる。ただ運にしても日々の情熱がなければ兆候を見いだすことができない。何かを切り開いていきたいあなたにお勧めする一冊だ。