弁護士の理想と現実

投稿者:
島田 直行(弁護士)
2020.05.16 その他

自粛生活のなかで過去の記録を整理していた。しみじみと「いろんなことやってきたな」と感じる。「弁護士になろう」と決めたときから今日までのことを振り返ると失敗したことばかりが思いだされる。それでもなんとかやってこれたのは,クライアントの方,サポートしてくださる士業の方,スタッフなどいろんな人の支援があってのこと。本当にありがたいにつきる。悩みつつ歩んできて改めて「弁護士とは」と考えてみると一般の方がイメージしているものとは違う部分も多々ある。というわけでリアルな法廷についてちょいとまとめてみよう。

「犯人は,あなただ」ということはまずない

サスペンスでの王道は,弁護士が無実の人を信じ,自ら犯人を探したうえで「犯人は,あなただ」という真実を暴くものだろう。緻密な調査と推理の積み重ねで真実を導きだす姿には高揚感すらあるかもしれない。

でも刑事弁護において弁護士が自分で犯人を探すようなことは通常ない。むしろいきなり法廷で「あなたが犯人だ」と言ったら名誉毀損として非難されるリスクが高い。そもそも法廷で「○○が犯人だ」というような機会がない。

ドラマで「この事件の真実を知るために○○の実家のある山口県に行ってみます」と弁護士が上司と話す場面を目にするが「その交通費は誰がだすの」と思わず突っ込みたくなる。あたりまえのことではあるが動けば費用がかかる。弁護士がポケットマネーで無尽蔵に動けるわけではない。そんなことしていたら事務所の経営が破綻する。

刑事弁護の目的は,その人を弁護することであって犯人捜しではない。

「これ以上,罪を重ねないで」という発言を目にしたことはない

サスペンスといえば,「これ以上,罪を重ねないで」というのもお約束の名台詞だ。いろんな事情があって犯罪を重ねた男性にすべてを知った女性が泣きながら止めに入る。番組的には最高潮の場面だろう。

だがリアルに見たことは一度もない。すくなくとも僕は見たことはない。むしろ「もう関わりたくないです。連絡しないでください」と言われたことの方が多い気がする。そういうときには本人にいかに説明するべきか対応に困ることがある。人間というのは複雑な存在だ。こちらは「相手は自分のことを信じている」と思っていても,相手が今でもそうとは限らない。第三者として事実を告げるとなぜかこちらが批判されることすらある。「僕は関係ないでしょ」と言うほかない。人生劇場はいろいろあるものだ。

それでもなんとか説得して協力してもらえると「よかった」としみじみ感じる。

「異議あり」という声高の法廷はめったにない

裁判というと弁護士同士が「異議あり」と声高に法廷でやりあう姿を想像するかもしれない。でもこういう場面は滅多にない。

民事裁判の中心は,書面のやりとりである。事前に双方が書面を裁判所にだしておく。そのうえで当日は書面や証拠の確認などをして次回までにまた書面の用意をしておく。そういったステップで展開していく。だから1回の裁判は10分くらいで終わってしまうことが多い。苛烈な議論の応酬を想像していた人にとっては肩すかしのようだ。

弁護士のなかには,あえてきつい言葉や感情的な言葉を書くような人もたまにいる。依頼者からすれば,そういった書面を書いてくれる弁護士こそ頼りがいがあるように移るかもしれない。でも感情的な表現とかいうものは,はっきりいって裁判の結果にはまったく影響しない。必要なことは結論に至るロジックであって感情ではない。熱量だけで裁判が進んでいたら法律なんて不要でしょ。

弁護士に必要なのは受け流すチカラ

これから弁護士を目指す人から「どういうスキルが必要ですか」と質問されることがある。論理力とか交渉力とかいろいろあるのだろうが個人的には体力と受け流す能力と思う。

まず体力。まったく体力のない僕が言うのも変な話だが弁護士は体力勝負のところがある。とくに地方で一般的な法律事務所をこなすとなれば体力がなにより大事だ。体調を崩してしまったら事務所を維持することができない。この仕事は急を要する対応も余儀なくされる。だからこそ淡々と仕事をこなすような体力が必要な気がする。少なくとも僕は欲しい。

あともうひとつ。これは何を言われても受け流すチカラ。これは本当に大事。いわゆる町の弁護士をしていたらいろんな人を相手にしないといけない。なかには言われ無き罵声を電話越しに言ってくる人もいる。開業したころある女性から「坊やね」と言われたこともある。「どう責任とあるのか」と詰め寄られたこともある。若い頃は根拠なき批判とわかっていてもいろいろ落ち込んでいた。「なんか自分の想像していた世界と違うんですけど」みたいな。でも人間慣れというものはこわいもんだ。今となっては「そうですなぁ」「すみませんなぁ」と何を言われても流せるようになった。そうしないと本当にメンタルやられて倒れるから。

そんなこんなで弁護士やっているわけですよ。