書評:人生は苦である、でも死んではいけない

投稿者:
島田 直行(弁護士)
2020.02.24 その他

僕らは,SNSなどで誰かの充実した生活を垣間見ることがあります。それを「素敵だな」と感じるべきなんでしょうが「うらやましいな。自分とは違うな」と感じることの方がむしろ自然でしょう。僕だってそうです。はっきりいって自分の日常の99%は,毎日同じことの繰り返しのような単調なものです。SNSで称賛されるようなイベントはたいていなにもないです。

かつては「なにかブログに書けるようなことを経験しないといけない」とどこかで感じていました。日々の暮らしにときめきがおどろきがなければいけないと。でもわかってしまったんです。そんなことは無理な話だって。なにより「あるべき自分」というものを演じることは相当に疲れるものです。だから僕はみんなに言うのです「ぼちぼちでいいじゃない」って。

世の中で「もっともっと上へ」という声が大きすぎるわけです。しかもありふれた単調なものを否定するような風潮すらある。でも実際の社会は,各自が単調な暮らしを維持しているからこそ成り立っています。みんなが自分の役割を放棄して「誰かやっておいて。僕は上に向かうから」では成り立たないわけです。民藝ではないけど「普通の暮らし」の大切さをもっと見直しましょう。自分の視点を見上げることから足元に変えてみよう。たぶん世の中の見え方がちょっと違う。少なくとも僕は,そういうスタンスで事務所を経営しています。

前置きが長くなったけど岸見先生の「人生は苦である、でも死んではいけない」を連休の間に読む。このところ岸見先生の本を立て続けに読んでいるけど「そうだよね」と感じることばかりです。なんというか自分が普段感じていることが言葉になって表現されると妙な安心感を味わいます。「こういう考え方でいいんだよね」というものです。

岸見先生の本の根底にはあるのは,なにより現在の肯定。過去も未来もなく今しかない。その今の自分をまず認めようと。なかなか説明難しいけど現在を肯定するのは意外と難しいのです。僕らは,いつも「自分」を過去から未来に向けた時間軸の中でイメージします。「現在の自分の不遇は過去のある出来事によって生じた」「自分の将来は別のものにしていきたい」など。独立して今の自分を表現することがないわけです。どこかに紐づけた自分でしかない。過去や未来は自分では変えることができません。ですから過去や未来と紐づけられた自分を変えることができないわけです。でも実際にいるのは「今この瞬間の自分」です。過去でもなく未来でもない自分であれば変えることができます。だったら自分で変えていけばいいと。なんだかグダグダの説明になりましたがわかりますかね。

今回の本でとくにいいのが幸福と成功は違うという指摘です。僕らは,成功とくに経済的成功を幸福であることと同じであるようにとらえてしまいがちです。そのため個人の幸福量を数字的に比較できるようにすら考えています。しかしながら幸福と成功は,本来的に違うものです。別に経済的に裕福でなくても幸福である人はいます。本来切り分けて考えるべきものを同じもののように扱ってしまうがゆえに人は他人と比較して悩んでしまうのかもしれません。

幸福と成功を同一視するとおそらく終わりなきゴールを目指すことになり息苦しくなります。そんな状態はとうてい幸福とは言えないでしょう。僕は,幸福であるためには孤独を受け入れる覚悟が必要だと考えています。ここでいう孤独とは他社と比較しないという意味です。自分の幸福感を得るには,他者との比較は必要ありません。もちろん「いいな。うらやましいな」と感じることはありますが同時に「まぁ仕方ない。別の道を考えよう」としています。そうしないと自分オリジナルな幸福というものがいつまでもわかりません。

僕らは普通に暮らしていてもいろいろ悩んでしまいます。とくに人間関係で悩んでしまうことはしばしばです。そんなときに手にとってみてください。きっと気持ちが少し楽になりますよ。