最後のラジオで僕が伝えたかったこと「不安,善意そして分断」

投稿者:
島田 直行(弁護士)
2020.04.18 その他

6年半続けてきたKRYラジオさんでの番組も本日をもって終了となりました。気がつけばずいぶん長い期間にわたって出演させていただきました。関係者,リスナーの皆さんには本当にありがとうございました。みなさんのご支援があったからこそ長期間にわたり好き勝手な話をさせていただきました。

はじめてラジオにでたときには緊張しましたね。このマイクの向こうにはいろんな人がいると考えると「間違ったことが言えない」と変な汗をかいたことを覚えています。でも回を重ねるごとに「ラジオには独自の良さがあるな」と感じるようになりました。視覚がないからこそ「自分の声でどう伝えるか」をいっそう考えますね。

さて最後のラジオ出演は,新型コロナのために電話による出演となりました。残念ではありますが仕方のないことです。「最後の出演だからなにか気の利いたことを」といろいろ考えていたのですがなかなか「これは」というものがありませんでした。そこで日頃考えている「分断」について語ってみました。どうしても伝えたかったのです。なかなか内容が複雑なので整理してこちらにかいて書いておきます。

僕らは,新型コロナウィルスでぼんやりとした不安の中にいます。本当に不安なときは,自分が何に対して不安を覚えているのかがはっきりしません。いろんな悩みが浮かんでは消えていくような状況です。こういうときには誰しも「確固たるもの」にすがりたくなります。正確には信じるものが実際に「確固たるもの」である必要はありません。自分として「確固たるもの」として全幅の信頼を置けるものがあればいいわけです。この世界で唯一自分を絶対に裏切らないもの。それは「自分」しかいません。不安なときこそ人は盲目的に自分の考えを信じてしまいがちです。

人は,誰しも自分というものを信じていたいわけです。人は,自分を信じるために世界を自分で理解できるようものとして解釈していきます。現実は複雑で多面的なものです。ですが自分で理解できるように単純化して現実を把握しようとします。結果として現実をありのままにとらえるのではなく自分として理解できるものとしてしか認めないようになります。世界を自分中心でとらえてしまうということです。

これに拍車をかけるのがネットです。私たちは,ネットのなかで自分の趣向にあった情報を集めることができます。SNSでも自分の意見に合致する人とだけつながることになりかねません。周囲を自分の意見に賛同するものばかりで固めてしまうと「自分の意見=真実」と誤解し自分の意見の正当性をさらに深めてしまいがちです。つまり自分の意見あるいは会社が正しく他の意見などは間違っていると考えるようになってしまうリスクがあります。事実というのは多面的なものです。人によって見え方が違うのが当然のことです。それができなくとなると自分の意見を押し付けるようになり他人との間に軋轢がうまれてきます。

自分の意見に固執することは,他人の意見を否定することにつながりです。本来であれば自分と違う意見に対して「そういう意見もありますよね」とあるべきなのに「それは違う」と言ってしまうことになります。こういった他人を無尽蔵に批判する姿勢は,いつか社会の分断をうみだしていきます。世界を自分の賛同者とそれ以外という枠組みでとらえてしまいかねません。これでは意見の相違が人間関係の対立ということになってしまいます。

人は,自分の意見に固執するほどに他人の意見が聞こえなくなります。むしろ「他人は間違っているから正してあげなければ」と間違った正義感にかられることがあります。こういった間違った正義感はフェイクニュースの拡散にも影響してきます。フェイクニュースを広げる人は,悪意がある人とは限りません。むしろ「自分はこういった真実を知ってしまった。みんなにも教えてあげなければ」という啓蒙主義的な発想から広がることもあります。人の善意がフェイクニュースを拡散させることもあるということです。それが分断をさらに加速させることになります。

人は,自分を信じたいがゆえに自分の意見と合致する意見や人を集めます。それは同時に自分の意見と違うものを否定することにつながりかねません。否定はさらなる分断をうみだします。気がつけば誰とも関係性を維持できなくなったということになりかねません。

こういった社会の分断を防止するのは,「自分が間違っているかもしれない。他人の意見にも耳を貸そう」という謙抑的な姿勢が必要となってきます。「自分は世界をありのまま理解することはできない」と考えているからこそ自分の他人の意見も柔軟に対応することができます。いろんな人と話しながら「事実はひとつではない」ということを自覚することが必要です。

不安になると冷静な判断ができません。冷静な判断ができなくなると「自分」を信じるために「自分の意見」にさらに固執して他の意見をさらに批判する事態になることも予想されます。これでば怖く誰も意見を言うことができなくなります。

 世界をありのままに理解することは難しい。だからこそいろんな人の意見を聞いて自分の思考スタンスを持ちましょう・ソーシャルディスタンスのなかで人との物理的距離は広がりつつあります。だからこそ心理的距離を少しでも縮めることができるように「さまざまな意見を聞く」ということにこだわりましょう。