なぜあえて社会保険労務士の方との関係性について自著で熱く語っているのか

投稿者:
島田 直行(弁護士)
2021.06.02 社労士の方へ

4月に「社長、その事業承継のプランでは、会社がつぶれます」(プレジデント社)を出版しました。そして6月1日には「院長、クレーマー&問題職員で悩んでいませんか?」(日本法令)が出版されました。両者はまったく関係がないようですがひとつ共通する部分があります。それは「社会保険労務士の先生をアドバイザーとして確保しておきましょう」ということです。「弁護士なのになぜ」と疑問に思われるかもしれないので自分なりの考えをもう少し詳しくこちらに書いておきます。

これからの時代には,柔軟性のある組織こそが生き残る

2年前の時点で世界がこれほど新型コロナによって変わるなどおそらく誰も想像だにしていなかったでしょう。仮に新型コロナという事象がなかったとしても資本主義の発達は強烈な時代の変化をいやがうえにも求めてきます。スマホが世の中に登場したのはわずが10数年前ですが,もはやスマホなしの暮らしというのも想像できなくなってしまいました。僕らは,「スピードを上げる」ということに慣れすぎてしまってもはや減速するということができなくなっています。こういった物事がスピードをもって変化し先行き不透明な時代をビジネス界隈では,VUCAの時代ともいいます。「Volatility:変動性」「Uncertainty:不確実性」「Complexity:複雑性」「Ambiguity:曖昧性」の頭文字からなっています。こういった時代の特殊性は自分の肌感覚にも合致するものです。

こういった流動性の高い時代においてまず基礎にするべき事項は,「将来については誰も予見できない」というあたりまえのことです。将来が予見できないことなど当然のことだと思われるかもしれません。ですが実際には「これまで○○だったから」ということから「これからも○○だろう」と推測してしまいがちです。過去の事象は将来の事象を論理的に紐付ける者ではないにも関わらず自己の体験に過度の信頼を置いてしまうということです。こういった心理的バイアスは,認知心理学からも裏付けされます。詳しくは,「ファスト&スロー」をご覧ください。

将来においてなにがあるかわからない。こういう状況においては,「こういう組織こそベスト」という普遍的なものはおそらくないです。あるべき組織というのは,おそらく変化する環境に合わせることができる柔軟性のある組織です。僕は,これを「しなやかな組織」と表現することがあります。柔軟性のある組織には,①トップを中心にした指示系統があること②個人のスキルが共有されていること③若手の採用が計画的に実施されていることが少なくとも必要です。中小企業の場合には,スピードこそ強さの源泉です。ですからトップの経営判断が直ちに実行されなければなりません。次に組織全体のパフォーマンスをあげていくためには教育により個人が多能工になる必要があります。そこで個人のスキルを他者に教えるということが評価されるべきです。さらに組織においてはやはり「若さ」というのは大きなモチベーションになります。組織の平均年齢が高くなるとどうしても「既存」を継続していき挑戦に対して消極的になってしまいがちです。

経営者は組織を変えたい。でも方向性と手順がわからない

こういった柔軟性のある組織をセミナーで説明すれば,「自社もぜひ」と前のめりになる経営者が少なくありません。とくに若手の経営者にはこういった傾向が強いです。誰しも自社の社員には満足しつつも組織について改善点を感じているようです。問題は経営者として改善の必要性を感じつつも改善の方法がわからず苦労しているということです。

何事も同じですが変化を実現していくためには,①現状を把握する②ゴールを設定する③ゴールまでの道順を決めるというステップが必要です。これが組織をつくるという場面においてはなかなか経営者自身では整理できないのです。抱える問題点はなんとなくわかるものの理想の組織というものをいかに描きだすべきかで悩みます。さらにゴールまでの手順となるとよりいっそう迷ってしまうものです。このようにイメージできないのは,経営者自身も組織の一部だからです。ひとは,自分で自分を直視することができません。同じように経営者も組織を直視することができないためにイメージすることに苦労します。

そこで経営者の支援をしていただきたいのは,先生方です。組織づくりというのは,理想論だけで実現できるようものではなく労働法制の枠内のなかでしか実現することができません。労務管理という限定された視点ではなく「組織をつくりあげる」という大きなテーマのなかで労務管理も位置付けていただきたいのです。いわば組織の建築家のようなものです。経営者の課題を言語化して具体的な制度設計を提示していくということになります。こういったアドバイスをすると「それは自分でもやってみたい。でもコンサルタントではないからノウハウがなくて」という話を耳にすることがあります。これは発想が180度間違っています。優秀な組織コンサルタントのひとはたくさんいらっしゃるでしょう。でも誰しも最初から完璧なものができたとは考えられません。むしろ自分の経験をもとに小さく初める。そして失敗をフォローしながら拡大していくというのが一般的でしょう。「コンサルタントだからできる」ということはないはずです。むしろ先生方は,国家資格という圧倒的な優位性を持っています。士業のいいところは,資格を通じて一定の能力が担保されているところです。

先生方は,就業規則や賃金計算をつうじて多様な企業の実装を目にされています。これは他の資格にはない強みに他なりません。比較検討するからこそ「いい組織」になるためのコツのようなものを見いだすことができるはずです。ですから先生方にこそ組織の設計にもっとアプローチしていただきたいです。

大事なのは「今あるもの」を体系化して磨いていくこと

「組織の設計に関与していただきたい」と伝えると「やってみたい。でも何から学べば」と質問されることがあります。おそらく組織づくりというとなにか新しいノウハウを仕入れて提供することのように想像されているのでしょう。ですが誰かから教わった情報を提供するだけではおそらくうまくサービスに展開することができません。そこには経験というものがないからです。とくに失敗が足りない。価値のあるサービスというのは,先生方の内面からしか提供することはできません。いろんな失敗や腹の立つことって普通に仕事をしていてもあります。そういったことこそ経営者にとって価値のある一滴になりますし組織を変えていく力にもなります。

ですから「何か新しいもの」ではなく手元にあるものを体系化して磨いていくことが何より必要です。具体的には①就業規則②人事評価③賃金規程ということになります。「これだけ」と疑問に思われるかもしれません。ですが「これだけ」すら整備未了の企業が圧倒的に多数になっているのです。はっきりいって地味です。だから経営者は,もっと夢見がちでドラマティックなサービスに「自社の組織を変えるもの」と幻想を抱いてしまいます。こういった派手なものは最初は面白いのですがすぐに飽きてしまい何も変わらないままということが珍しくありません。そしてまた新しいサービスを見いだすと飛びつくわけです。これではいつまでたっても制度が定着しません。こういったサービスは,いずれも経営者の視点だけなんです。社員からすれば「経営者がまた新しいことを。それよりも賃金を」という気持ちになります。評価や賃金こそ社員にとってはやりがいを感じるための第1歩です。だからこそ就業規則など地味だけど基本になるものの見直しこそ効果的です。地味なものほど長期的に役立つわけです。

経営者との詳しい関係性は冒頭の本のなかで触れています。ぜひ新しいサービスへとレベルをあげるためにご覧ください。