社労士の先生が肩を落とす。まったく話を聞いてくれない関与先には

投稿者:
島田 直行(弁護士)
2021.05.14 社労士の方へ

社労士の先生からの相談は,多種多様なものがあって「なるほど。そこで悩みがでますか」とうなってしまうことがあります。同時に一見するとバラバラに見える相談内容も整理すると根本が類似しているということもあるものです。相談内容として多いのは,「関与先がまったく話を聞いてくれない」というものです。誰にとっても耳にいたい話はいいにくいものです。でもそこをあえて言わないと問題は解決しないわけで。

事件の筋読みができるがゆえになかなか言い出しにくいわけで

労働法規は,基本的に労働者を守ることを目的にしています。ですから労働事件においては前提として雇用主が弱い立場にあります。社労士の方であれば,当然わかるわけです。「このままいくとまずい」ということは。でも経営者は,たいてい自分なりの価値観や哲学というものを明確にもっています。ですからなんとなく「危ない」とアドバイスしても「そんなことあるわけがない」ということで反論される可能性極めて高いです。典型的なのが問題社員の解雇でしょう。「解雇は不当になりますから避けるべきです」と伝えても「会社の社風に合わないのになぜ雇用しないといけないのか。合わないなら辞めてもらうしかない」と法律論関係なく感情のままに語られることがよくあります。この発言の是非は別としてある意味では経営者としてのありのままの感情といえるでしょう。

こういうときには「それは間違っています。やめてください」とはっきり言うべきです。というのが教科書的な回答なんですがなかなかどうして言いにくいわけですよね。だって報酬もらっているから。。おそらく関わりのない相手であれば誰でもクリアに「それ違法。無理です」と言えるわけです。でもなまじ関係性を持っているがゆえに批判的なことは言いにくくなりさらに問題がぐちゃぐちゃになることがあります。

事件の筋読みができるがゆえに先生方としても「言うべきか。どうか」と悩んでしまうわけです。現実的な問題として労働事件のアドバイスというのは教科書で言うほど簡単ではないということです。

中途半端なアドバイスではかえって経営者に間違った認識を与えてしまう

「言いにくい。でも士業として言わないといけない」となるとなんとも歯切れの悪いアドバイスしかできないことになります。まるで腫れ物に触れるような感じです。でもこういう中途半端な情報の場合には,かえって間違った認識を経営者に与えて自信を深めるケースが散見されます。どうしても自分の考えに合致する情報だけに目を向けて自分にとって不利な情報については無視をしてしまうことがあります。これは当事者であればある意味で自然な傾向と言えるでしょうから経営者を批判することはできません。そういった「人間というもの」を前提にして士業としてもアドバイスをするべきというのが個人的なスタンスです。ですから中途半端なアドバイスはしない方がいいです。

そもそも労働事件になるような場合には,社労士の先生方としても先の見えない部分もあるため自信をもって「〇〇です」とは言いにくいものでしょう。安易に説明をして事件の展開が違っていたらかえって経営者からの不信を買うことにすらなります。労働事件を多数担当してきて感じるのは,相手のあることなので「これがこうなる」というのを確実に推測することは実際のところ不可能ということです。もちろん自分の経験からして「おそらくこうなるであろう」というあたりをつけることはあります。ですがあくまで「あたり」であって予言ではないです。単純な案件だと思っていたらまったく予想しなかった方向に事件が展開することなどいつものことです。確実に言えることは「労働事件で確実なものはない」ということです。ですから社労士の先生方にしてもなかなか具体的なアドバイスを経営者にするというのは難しいと考えます。

そこで経営者の方には,「弁護士にいちどそうだんしてみたらどうですか」とアドバイスすることをお勧めします。僕が言うとまるで「弁護士に事件を紹介するべき」とまるで営業目的のように聞こえるかも知れません。それは本意ではありません。つまるところ社労士の先生がアドバイスしにくいのは,経営者と近すぎるからです。弁護士が言わば「第三者的な視点」から指摘をすると経営者としても「そういうものか。それなら」ということになりがちです。僕としても社労士の先生からの紹介を受けて「これはまけます。早期に金銭を支払って解決するべき」とばっさりアドバイすることが多々あります。ここまでバッサリ言われると経営者としても「仕方ない。わかった」ということになるものです。第三者の視点というのは経営者に納得してもらうためにとても重要なことなのです。実際のところアドバイスだけで終わった労働事件もいくつもあります。弁護士的には報酬にはなりませんが早期解決こそすべてのひとにとっていいことでしょう。あえて話を弁護士にふることでうまくコミュニケーションがとれるときもあるということを頭の片隅におかれてください。

*本ブログは事務所の社労士の先生方向けのメールマガジンをリライトしたものです。