社労士の先生への注意喚起。就業規則は内容もですが手続で争われることも

投稿者:
島田 直行(弁護士)
2021.05.15 (更新日:2021.05.20) 社労士の方へ

あたりまえのことですが労働事件においては就業規則が会社の主張を基礎づける重要な証拠になります。これがボロボロの状況だといかなる反論もできなくなります。先生方も「よりよい就業規則」のために日々精進されているはずです。「こんな内容でどうですか」という相談をいただくこともよくあります。ですが実際の労働事件においては,就業規則の内容だけではなく手続が争われることも増えてきました。これって両にらみで考えておかないと先生方が批判されてしまいます。

経営者から「そんな話は聞いていない」と詰め寄られた方も

労働事件において就業規則が争点となる場合には,社員に対する不利益変更の是非が問題になることが多いです。このとき先生方としては,「いかなる記載であるか」という就業規則の内容が問題になるとイメージされるかもしれません。もちろん記載内容も重要ですが同様に不利益変更を実施した場合における手続など周辺事情も争点に設定されます。詳細については,「社長、辞めた社員から内容証明が届いています」にまとめているのでご覧ください。ある事案では賃金について先生に依頼して就業規則の内容を変更しました。このとき先生として依頼を受けた内容は,あくまで就業規則の作成までであり社員への周知は会社で実施してもらうことになっていました。この会社は,先生のアドバイスに反して周知をしておらず裁判所の判断として就業規則の見直しが認められませんでした。結果として相当の経済的負担を強いられることになったわけです。経営者は,「なぜ専門家に依頼しているのにこんなことになるのか」と担当した先生に矢を向けました。いくら先生が依頼の範囲ではないと説明をしても「そんな話は聞いていない」と反論される始末になってしまいました。先生としても本当に疲弊されるはめに。。ひとは,自分に都合のいいように記憶をすり替えることがあります。ですからいくら「そうではなくて」と否定してもわかってもらえないものです。むしろ「なぜ否定する。責任逃れだ」とより強い批判をすることになりかねません。

こういう先生方が批判の対象になることはたまにあります。問題の原因は,「誰が何をどこまでするか」をはっきりさせていないからです。

〇 依頼の範囲を契約書で明確にしておく
〇 注意事項(会社による説明など)を書面にして内容を確認した旨のサインを経営者からもらっておく

こういった証拠を確保しておくことが将来の責任を回避することもなります。

なお個人的には就業規則の作成依頼を受けたときには,できるだけ社員説明会まで先生方が主導してフォローしたほうがいいです。会社に任せるとたいてい「いつかする」ということになっていつまでも実施されないということになります。社員説明会においては,参加者,説明内容,質疑などについて議事録を残しておくべきでしょう。

意外と見落としてしまうのが労働者代表の選定プロセス

このところ裁判で労働者側からの主張で目にするのことが増えたのが労働者代表の選定プロセスです。たまたまかもしれません。こういう場合の代表者は,とかく社長が懇意にしている社員がサインしており実際に労働者から選任されたかはっきりしない場合があります。そのため労働者側からは,「あの人を代表者にするという話し合いなどなかった」と主張されることがあります。それだけで労働事件の方向性が大きく変わるということは個人的には経験したことないですがやはり争点が増えるというのはいいことではありません。なにより裁判所の心証としてあまりいいものではないでしょう。

もうひとつあるのは周知性。ご存じのように就業規則はいつでも誰でも閲覧できるようにしておかなければなりません。だが中小企業ではとかく社長の引き出しということも。。これでは不利益変更が有効になることはなかなか難しいでしょう。裁判のなかには「この棚に入れていた」と会社側が説明しても社員から「そんなこと知らされていなかった」と反論されることもままあります。先生方が想像するよりも周知性が否定されるケースは多いです。つまりなにが言いたいかといえば,就業規則の周知を会社に任せるのはあまりお勧めしないということです。就業規則を変更した場合には,写しを配布して受領書を各社員からもらうべきでしょう。あるいはメールで添付して履歴を保管しておくことも有効です。いずれにしても「各自に提供した」という証拠は確保しておくべきです。

こういう作業を入れると社員から「これおかしくないですか」と指摘受けることがあります。でもある意味では仕方のないことです。あとで問題になるより早めに問題を顕在化させて対応する方がうまくいくものです。

*本ブログは社労士の先生を対象にしたメールマガジンからリライトしたものです。