経営者からの立会同席の依頼。そのとき気をつけるべきことは

投稿者:
島田 直行(弁護士)
2021.06.16 (更新日:2021.06.17) 社労士の方へ

労働者と経営者がトラブルになったときに先生方が話し合いの場に同席を求められるときもあります。先生方としても労使関係の円満な解決のために立ち会うことも実際あるでしょう。立ち会うときに大事なのは,交渉の当事者にはならないということです。社会保険労務士の先生方は,会社の代理人として交渉に同席する権限はありません。これをやってしまうとご存じのように弁護士法違反として指摘を受ける可能性があります。場合によっては,労働者から「社会保険労務士の方はどういう立場で交渉の場所にいるのか」と質問されることがあります。交渉の場になれていない方は,こういった質問をされるだけで冷静さを失ってしまうことがあります。先生方は,あくまで経営者のアドバイザーという立場で参加することになります。経営者から質問を受けた場合に回答をするというのが基本的なスタンスになるのでしょう。
こういった先生方の立場からして経営者を外して労働者とふたりだけで話をするのは避けるべきでしょう。こちらにとってはたんに情報の伝達であっても相手からは「交渉の当事者として対応していた」と指摘される可能性もあるからです。リスクは可能な限り排除するべきです。脱線しますが熱心な先生に限って労働者に安易にプライベートの携帯番号を教える方がいらっしゃいますがやめるべきでしょう。執拗に電話をされて疲弊された先生を目にしたこともあります。僕は,自分の携帯番号を教えることはまずないです。そんなことをしたら公私の区別が一切なくなります。

こういった交渉においては,社員自身ではなく家族や友人がまるで本人であるかのように登場してくることがあります。例えばとある医療・福祉関係の事業所のケースです。ご存じのように,医療・福祉の分野は圧倒的な人手不足です。申し込みがあれば,違和感を覚えつつも,現場からの「人手が足りない」という声に押されてやむを得ず採用することがあります。この事例も同じようなものでした。採用担当者の違和感が,すぐに現実化してしまいました。若い社員でしたが,「挨拶もしない」「勤務中にスマホで遊ぶ」「遅刻もする」など,入社してすぐに問題行為がでてきました。「まだ若いから」ということで周囲も指導したのですが,まったく意に介しません。むしろ周囲に反発するような状況でした。見かねた管理職は,対象となる社員を呼んで勤務態度の改善を求めました。すると翌日から社員が来なくなりました。その代わりに両親が,「パワハラを受けた。出社できなくなった。どう責任を取るのか」と声を荒らげて電話をしてくるようになりました。管理職は繰り返し説明するも,「自分の子に問題があるわけない」の一点張り。1日に何度も電話してくるのみならず,事業所に突然やってくるようにもなりました。さすがに管理職も疲弊して,当事務所に相談ということになりました。

このように,最近の事例では,親がいきなりでてくるということが増えてきました。親にとっては,子どもは常に正義になってしまいます。ですから,いくら問題点を説明しても,すべて会社が悪いと言われて交渉にならないことが珍しくありません。僕が代理人についても,「会社に雇われた弁護士になぜわかる」と詰め寄られたこともあります。その他にも,配偶者や恋人といった立場の人が代理人のようにでてくることがあります。こういうケースで,「とりあえず火消しを」ということでお茶を濁すようなことをしていると,かえって混乱していくものです。

第三者が介入してくるときには,冷静な話ができないときが多いです。当事者ではなく,事実関係について把握していないからです。そもそも第三者は第三者であって当事者ではないです。いくら親といっても,子どもが成人していれば,当然に代理人というわけではありません。そこで僕は,話し合いができないと判断すれば,「わかりました。ではこちらから調停などをします。あとは裁判所でご本人から話を聞きましょう」としています。裁判手続になれば,当事者ではない者が当然に出席できるわけではありません。ですから,冷静な話し合いになることが多いです。

誰がどういう立場で関わるのか。交渉の大前提になるのできちんと整理しておきましょう。