経営者に何よりも求められる素質は

投稿者:
島田 直行(弁護士)
2021.08.20 社労士の方へ

人生というのは,ある意味で決定の繰り返しです。普通に暮らしていても「洋服は何を着るか」から「いつ寝るか」まで無数の決定を実施しています。その多くは無意識のうちに実施しているために「決定している」という実感がわかないだけです。「決定をする」ということをじっくり考えることはあまりないかもしれません。今回は決定について労働事件を通じて少し考えてみましょう。

セミナーでもよくお伝えするのですが経営者の役割は,変化する外部環境を見据えて決定することです。経営者の舵取りというのは,まさに決定をするということに他なりません。逆をいえば決定できない経営者の依頼は本当につらい。「ベストな対応はなんですか」と質問されることがありますが回答に苦労します。ベストな対応など誰にもわかるはずがないからです。士業ができることはクライアントのニーズをくみ取り選択肢を提供することまでです。最終的な決定は,経営者が実施することになります。そして決定にともなうリスクも経営者が引き受けることになります。「あまりにも無責任な発言ではないか」と批判されることもありますが士業は経営者自身ではありません。自社のことで責任をとる覚悟がないような方が経営者になるべきではないでしょう。

こういった経営における決定については,「誰が実質的な権限を持っているのか」で悩むことが珍しくありません。オーナー企業の場合には,オーナーが代表取締役として自社を代表する立場にあります。労働事件における判断も,経営者の意見を聞きながら進めていくことになります。そのため,経営者を説得できれば,労働事件についても解決の道筋が決まるはずです。それが基本。

でも,実際の現場では,経営者ではない人が会社の決定権を持っていることがあります。あるクリニックの事案では,理事長と協議して「では,こういう方針で」と決まっていました。それが,事後的になって「やはり方針を変える」ということに。理事長の奥様が方針に納得できなかったということでした。「なぜ方針を変えるのですか」と質問しても理事長からは,「よりソフトランディングな解決方法を目指してもらいたい。できないのであればほかの弁護士に依頼する」という回答でした。僕の方針と奥様のお考えには相違があることが判明したので,直ちに契約を解消させてもらいました。その他にも,先代の妻(経営者からすれば母)からの意見で方針を変えざるを得なくなったということもあります。

このように,他の人からの意見で,いったん決まった方針が変わるのは,問題解決に向けたストーリーを修正することになるため,できれば避けたいところです。修正して「より良い方向へ」向かえばいいのですが,経験則からして,たいてい逆の方向に向かってしまいます。しまいには方針を場当たり的に変えてしまうのでどこに向かっているのか迷走してしまうこともあります。いかなる事件でも共通することですが,決定者が定まらないというのは,弁護士としてもなかなかつらいものがあります。

先生方は,経営者とのこれまでのお付き合いから「実質的な決定者は誰か」について認識しておられると思います。そこで,できればこういった情報も事前に提供していただけると,初回の相談がスムーズに展開できます。僕の場合には,初回の相談時には,実質的な決定者の方にも可能な限り同席してもらい,状況を共有してもらうようにしています。この「初回」というのがとても大事です。あらゆる士業は,クライアントとの信頼関係を前提にしています。この信頼関係は,初回の印象によって大きく異なってきます。ですから,僕は「初回の面談」を大事にしています。初回の面談には,できれば先生方にも同席していただきたいと考えています。最近ではZoomによる相談も増えてきました。この場合でも,先生方にも参加していただくようにしています。

オーナー企業の根底は,やはり家族経営です。「家族一丸となって会社を守ろう」という意識があるはずです。士業として仕事に取り組むときも,そういった経営者家族の意識に配慮した姿勢が求められます。