「それは不当労働行為では」と指摘されないために

投稿者:
島田 直行(弁護士)
2021.08.06 社労士の方へ

僕は,会社側の代理人として団体交渉に立ち会うことが多々あります。代理人として関与すれば団体交渉に真摯に対応しているとみなされ不当労働行為として救済申立が労働委員会になされることはありません。ですがなかには会社が独自で対応して労働委員会に対して不当労働行為の救済申立がなされている場合もあります。この場合,審査手続に会社側の代理人として関与することになります。

おそらく圧倒的に多くの先生方にとっては「労働委員会への救済申立は聞いたことがあるけど詳しくはわからないもの」でしょう。弁護士にしても経験したことがある方は少ないのではないかと考えます。救済申立は,会社が不当労働行為に及んでいるため救済を求めるというものです。このとき労働者側で求める内容はケースによって異なります。典型的なのは真摯に団体交渉に応じるように求めるものでしょう。ですが実務では会社の玄関に不当労働行為に対する謝罪看板の掲載を求められることもあります。労働委員会が示す「救済の方法」というのはかなり柔軟なものであるということです。会社側としては,こういった看板を掲示しなければならないとなれば信用問題にもなるため回避に向けて対応していくことになります。その意味では訴訟の方がある意味ではわかりやすいといえます。

僕の場合には,不当労働行為の救済申立がなされている状況下でも代理人について組合サイドと交渉をします。「これからは代理人として関与して団体交渉に応じるので救済申立を取り下げて欲しい」と伝えます。実際に団体交渉に応じる姿勢を見せると組合も任意に救済申立を取り下げてくれるものです。ここで大事なのはあくまで「団体交渉に応じる」ということであって「団体交渉における具体的な要望内容を鵜呑みにする」というものではないということです。交渉にさえきちんと対応すれば不当労働行為の救済申立を過度に恐れる必要はないです。

ここでひとつイメージ作りのために過去に裁判で争われた事例を紹介しておきます。ある団体交渉において①団体交渉の内容を第三者に開示しないこと②団体交渉で録音などをしないこと③団体交渉において経営者側の代理人が議事進行を担うことが会社側から団体交渉に応じる条件として提示されました。そして会社側は,これら条件を満たしていないとして団体交渉を拒否していたようです。この対応の是非をについて裁判所は,いずれも必要性あるいは正当な理由がないものとして団体交渉に応じなかったことを不当労働行為として判断しました。

また,団体交渉の日時設定時にも不当労働行為として判断されるリスクが存在します。団体交渉においては,組合から指定された日時について変更を求めることはよくあることです。ですがこれにしてもあくまで双方の合意のうえで新たな日時を設定するものであり会社が一方的に決め打ちすることができるわけではないです。「会社の利益を守る」という観点から会社が一方的に団体交渉開催の条件を突きつけることは不当労働行為という評価を受けるリスクがありますので要注意です。
「なにをどこまですると不当労働行為に該当するのか」というのは明確な基準があるわけではありません。諸々の事情を考慮したうえでの判断ということにはなります。ですが何より大事なのは,「団体交渉には応じる」ということを前提にすることです。団体交渉を回避するために条件などを設定するようであれば,それは不当労働行為という判断がなされる可能性があります。

相手の話を聞くというのはあらゆる交渉のスタートです。丁寧に話を聞くことが問題を解決する糸口にもなります。