「人に好かれる」のは偉大な能力だ

投稿者:
島田 直行(弁護士)
2021.08.12 (更新日:2021.08.16) 事業承継対策

社長、その事業承継のプランでは、会社がつぶれますのなかでも触れていますが後継者にはさまざまな能力が求められます。オーナー企業において経営者は経営における全てを担うもの。「長所を伸ばせばいい」と言われることもありますが好きなことだけして経営が成り立つのであれば誰も苦労はしないでしょう。経営者は,苦手なことでも能力を高めていくしかないわけです。漫然と経営をしていたら漫然と衰退していくということです。厳しいですが現実です。

とくに重要になってくるのが「人に好かれる」という能力。そうこれって能力なんです。そもそもオーナー企業の場合には,売り上げの源泉は経営者の人格になっています。「この経営者とは仲がいい。だからここで買おう」というのは当然の感情です。これってまさに行動経済学的発想なわけです。従来の経済学では常に合理的な行動をとる人間をホモ・エコノミクスと表記して想定していました。合理的というのはようは利益の最大化を図るということになります。例えば信用というものは判断要素に含まれず「1円でも安い」というのが正しい選択ということになります。でも人間はそれほど合理的な行動ばかりしているわけではありません。なぜなら人は人が好きだから。社会として機能するためにはあえて非合理な行動をとることも必要なわけです。「ちょっと高いけど顔を立ててあげないといけない」という意識などはまさにでしょう。オーナー企業の経営では,こういった人間の心情に配慮した行動観察がとくに必要になります。

「人に好かれる」能力は,高学歴だからといって獲得できるものではありません。むしろ高学歴だからこそ自分の価値観にこだわりすぎて他者と軋轢が生まれてしまうこともあります。なかには先代の実績を否定するようなケースすらでてきます。そういうタイプの後継者は自分の問題点がわからずに他者をひたすら否定することになります。顧客や社員をたんに記号として捉えるようになりいつのまにか周りに誰もいなくなるということにもなりかねません。いかにMBAの資格を持っていても社員からの信用があってこそ伝えることや浸透させることができるわけです。社員から「後継者には付き合いきれない」と感じられたら何をやっても無駄です。

問題は,どうすれば人に好かれるかということです。これについては僕自身もいまだわからずに困っています。ひとついえることは世界には自ずと好かれるような後継者もいるということです。そういった後継者に共通する姿勢は次のようなものです。

① 本心はつらくとも周囲に対しては前向きな姿勢を維持する
② 特定の深いつながりよりも緩く広いつながりを構築する
③ 他者を支えるということが自分の役割と自覚している

②について補充しておきます。リスクを回避するうえで効果的なのは緩いつながりをできるだけ広く持っておくことです。普段から特に懇意にしている人が問題を解決できる能力を持っているとは限りません。むしろ「なんとなく知っている」というひとこそたまたま能力を持っているということがあります。「いざというときに頼るだけか」と思われるかもしれませんが経営者にとって必要なことです。むしろ大事なのは頼ることができるように普段から少しずつ関係性を維持しておくということです。とかくありがちなのは名刺交換はしたもののまったく関係性が切れてしまったというものです。年に1回でも「元気?」と連絡するだけでも関係性は維持できるものです。ようは相手にとって忘却されなければいいというわけです。

こういった人間関係において参考になるのは,GIVE & TAKE「与える人」こそ成功する時代です。これは僕にとって人生の支えとなった一冊。ものすごく簡単に言えば「誰かに尽くせばまわりまわって自分の利益になる」ということです。こういった価値観は日本人であれば受け入れやすいでしょう。でも現実的には尽くしても搾取されるだけという人もいるわけです。尽くしてきちんと自分の結果につなげる人と搾取されるだけの人。同じような二人を分かつところは何かについて科学的に整理した名著です。後継者の方であればぜひ一読するべきでしょう。