中小企業における「所有と経営の分離」の実際

投稿者:
島田 直行(弁護士)
2019.08.24 (更新日:2019.10.07) 事業承継対策

 株式会社の基本原則として「所有と経営の分離」がある。会社を所有する者が必ずしも経営がうまいとは限らない。むしろ経営は経営を得意とする者にまかせることが効率的。そこで会社を所有する者と会社を経営する者を分離することで事業運営の効率化を図るべきということになる。ここでいう会社の所有者は,簡単に言えば株主のことである。経営する者は,取締役らにあたる。会社の仕組みを定める会社法にしても「所有と経営の分離」を基本にして組み立てられている。株主だからといって当然に代表取締役になって経営の采配をとるわけではない。上場企業の株主総会では,株主が壇上の代表取締役の話をじっと聞いている場面を思い出せばわかりやすいだろう。「所有と経営の分離」が原則であって株主が自ら率先して経営をする「所有と経営の一致」はあくまで例外ということになる。

 しかしながら日本企業の圧倒的多数を占める同族中小企業では,原則と例外が逆転している。中小企業については,「オーナー」という言葉が利用されるが,これは会社の所有者たる株主という意味。会社の大株主が会社の代表取締役つまり社長の椅子に座っている。そこには事業経営の効率化のために所有と経営を分離するという発想はない。あるのは「自分の采配で事業を繁栄させてみせる」という経営者の矜持である。このように中小企業は,大企業と根本的に仕組みが違う。中小企業は,大企業のミニチュアではない。経営を考えるうえでも大企業と同じ視点でとらえると現実と乖離したアイデアしかでてこない。

 逆転現象が生じた原因のひとつには日本における起業プロセスが影響している。株式会社は,市場から少額の資本を集約して事業を展開することを予定している。そこでは「誰が事業をするか」よりも「いかなる事業をするか」が重要になる。これに対して日本では,起業時にいきなり多数の者から出資してもらうということはあまりない。まずどこかの会社に勤務してわずかばかりの資産をつくる。それを元手に個人事業主として独立する。当初は家族の支援でまかなっていたものの,次第に人を採用するようになる。そして銀行から少しずつ融資を受けながら法人へと成長していく。これが一般的な会社がうまれるまでのプロセスであろう。多くの法人は,個人事業主をスタートにしているため所有と経営が一致することになる。同族中小企業では,「いかなる事業をするか」よりも「誰が事業をするか」が重要になる。社長の顔で売っていると言われる所以である。

 

こういった同族中小企業における法人と社長の関係の本質は,①法的には別主体でありながら②経済的には自社株保有を通じて一致しているということにある。

 まず,会社と社長は,法人と自然人であり法的に別の主体である。法人である会社の行為と自然人である社長の行為は法的には別個独立のものである。例えばある人が会社にお金を貸したからといって当然に社長にまで請求できるわけではない。

 次に,社長は自社株を保有することで会社を所有することになる。自分の判断で自由に経営をすることができる。社長は,自社株保有という事実により別人格である会社を自由に動かすことができるということにある。

 独立しつつ一致する。それこそ同族中小企業の本質である。そのため同族中小企業の経営では,会社と個人の双方について考えなければならない。リスクについても会社だけで取られては不十分である。会社と社長の両方に視野を広げてこそ同族中小企業にとってのリスク対策になる。