相続法の変更による「介護と相続の考え方」の変化

投稿者:
島田 直行(弁護士)
2019.07.06 (更新日:2019.10.07) 事業承継対策

令和元年7月1日から相続法が大きく変わっています。そのなかのひとつに介護をした相続人以外の者による請求があります。相続人でない者が請求できるというのは制度の大きな変更です。もっともこれからの実際の運用ではなかなか難しい問題も予想されます。

介護の実績はなかなか評価されない

介護は,家族にとって相当な負担になります。「家族だからなんとかサポートしたい」という気持ちがあったとしても体力も資力も自ずと限界があります。実際には自分の生活を犠牲にして家族のために介護に従事している人も少なくありません。こういった介護の負担は相続におけるトラブルの要因になります。例えば母と長男・次男がいたとしましょう。長男夫婦は地元で10年にわたり母の介護をしてきました。母は施設に入所していたものの定期的な施設との面談や必要に応じて転院もすべて長男夫婦で対応してきました。次男夫婦は盆暮れに挨拶にやってくるだけです。これでも相続時に当然長男が有利になるわけではありません。寄与分といって具体的な介護の負担と相続財産の維持に与えた影響を明らかにしていく必要があります。

こういった介護の負担が根底にあって遺産分割でもめることは珍しくありません。介護はどうしても特定の人に負担が偏ってしまう傾向があります。負担を分散しようとしても各自のライフスタイルも違うために容易に分散できるものでもありません。結果として何年にもわたり感情的な争いが続くということにもなります。

とくにこういったケースでは,長男の妻が献身的に介護しています。これまではいくら献身的に尽くしても「相続人ではないから」ということでまったく相続時に考慮されていませんでした。あくまで夫である長男の相続分を通じて間接的に要求することしかできませんでした。でもこれでは尽くしていた人をあまりにもないがしろにしてしまいます。

相続人以外でも請求できるときがある

そこでこのたび相続法の改正で相続人以外の者で亡くなった人の介護の支援などをした者は,相続財産について分配を求めることができるようになりました。つまり相続人ではない者も相続財産を求めることができるときがあるということです。これは画期的な変更です。はじめて「介護をしたという事実」と「相続時に請求できる」ということが直接的にリンクしたことになります。先の事例でも長男のみならず長男の妻も介護をしたとして請求することができるようになったわけです。

もっともいかなる場合に請求できるかはまだはっきりしていません。介護したら当然に請求することができるというわけにはいかないでしょう。「相続財産を分配してもいい」と評価できるような介護の実態が必要になるはずです。とくに難しいのは介護の実績を経済的にどのように評価するべきかということです。介護のレベルや内容は,人によってまったくちがってきます。しかも金銭的に評価するとなれば,その評価方法によってもちがってきます。例えば1日の介護をいくらで評価するべきでしょうか。市場のヘルパーさんの平均値と言っても場所や時期によってもちがうでしょう。人手不足のなかでは将来においてさらに価格が上がるかもしれません。ですから請求できるとしても具体的にいくら請求できるかはこれからということになります。

具体的にどのような準備をするべきか

介護をしている人は,将来の相続において請求するためにも記録をつけておくことを習慣にするといいでしょう。記録と言っても細かなことまで日々書いていればきりがないです。簡単な日記のような者でも十分だと考えます。とかく遺産分割のなかでは,「あれもこれもした」と言われますが根拠がなければなかなか相手にも認めてもらえません。だからこそ記録するというのは将来の争いを見越したうえでも大事なものになります。

もちろん記録さえ用意すればいいというわけではありません。やはり日記とかになれば自分で自由に作成することができるので根拠としてはいまいち弱いところがあります。そこで立て替えた費用のレシートの保管などもひとつの方法でしょう。いずれにしても介護をしてきたことが事後的にわかるような客観的な資料を用意しておくことが必要になります。