経営者にとっての信託のメリットとリスク

投稿者:
島田 直行(弁護士)
2019.06.28 (更新日:2020.10.21) 事業承継対策

 僕は,ライフワークで障害者の権利擁護に取り組んでいます。先日あるセミナーで親なき後の問題について話をさせていただきました。そのさいに「先生,信託ってうちにも必要でしょうか」と質問されました。「う~ん,信託はいいところもあるしリスクもある」というのが精いっぱいの答えでした。

 このところ相続対策の方法として信託契約について耳にすることが増えてきました。「先生,信託はどうなんでしょう」と相談を受けることもあります。信託は有用な方法ではありますが同時にリスクもあります。信託を利用する場合には,そのようなリスクについても把握しておく必要があります。

そもそも信託とはなにか。

 信託といえば,投資信託という言葉が経営者の方にとってはいちばん身近なものかもしれません。これまでも信託はあったのですが規制が難しいためにどうしても個人が手軽に利用することはできませんでした。それが「もっと信託を活用しよう」ということで信託法が改正され個人でも広く利用できるようになりました。

 信託法は,はっきりいって弁護士からみても難しい法律のひとつです。この法律を完璧にマスターするには相当の知性と努力が必要になってきます。手軽な入門書を読んで全体のイメージを描くのは簡単ですが実務で利用するには耐えられないでしょう。日本の民法は,フランスの法律をベースにしています。これに対して信託は,その発生からして英米法をベースにしています。基本的な価値観の違うものをあわせるので単純ではないのです。

 信託の特徴は,ものすごくおおざっぱにいえば「運用と利益の分離」ということになります。私たちは,通常であれば自分の財産を自分で活用して自分の利益にします。ですがケースによっては自分の財産を誰かに任せた方が都合のいいときもあります。あるいは自分ではない他の人に利益を渡したいというニーズもあるでしょう。そういうケースでは信託は有用なものです。

 例えば高齢の父が自分のアパートの管理を息子に任せたいとしましょう。このとき父を委託者兼受益者,息子を受託者として信託契約を締結します。委託者とは,財産を任せる人。受託者とは,財産を任せられた人。受益者としては,受託者があげた収益をもらう人。こんな感じでイメージしてください。このとき不動産の名義は息子になります。固定資産税も息子に課税されます。

 このような契約をしておけば,父が認知症になったときでも息子がアパートの運用をすることができます。必要があればリフォームなどもしてさらに利益を求めることができます。得られた利益については,父の生活費などにあてることができます。このように任せられた人が裁量をもって運用できるところがなによりも便利なわけです。

信託のメリットは

 信託のメリットは,いろいろいわれていますがざっくりいえば次のふたつに集約されるでしょう。

 まずは高齢者の資産運用について。認知症になって判断能力が低下すれば,自分で財産を管理することができません。そこで成年後見人を選任してもらうことになります。ですが成年後見人は,財産の維持を基本的な目的にしているために財産の運用をすることができません。ですからアパートの転売で利ざやを確保したりあるいは相続税対策をすることなどはできません。これは資産家の家族にすれば大変な負担になります。運用ができないから成年後見人を見送るということもあります。
 ここで信託を設定すれば,運用をすることができます。この成年後見人でできない「運用」まで踏み込めるのが信託の醍醐味のひとつです。

 もうひとつが相続対策について。遺言でかけるのは,自分が死んだときのことです。自宅を長女にまず渡したい。長女がいつか亡くなれば,それを孫のAにわたしたい。こういう希望を遺言で実現することはできません。ですがこういった二次相続についても信託では対応可能です。例えば受益者(=利益を得る人)を当初は長女にしておきます。そして長女が亡くなったときの受益を孫Aにしておくわけです。こうすれば受託者(=財産を任された人)は,信託契約に基づいて利益を渡していくことになります。

 こういった信託は,障害のあるお子さんについての「親亡き後の問題」についても利用可能性が指摘されています。つまり受益者をお子さんにすることで信頼できる人が財産を運用して運用益を責任をもってわたしてもらうということです。

信託についてのリスクもある

 まるで夢のような制度である信託ですが実際にはリスクもあってそれほど簡単ではありません。いくつかのポイントについて述べておきます。

 まず信託をしたからといって税金の負担が軽減されるわけではありません。ときに節税の手法のひとつとして誤解されている人がいますので注意を要します。とくに信託はまだ本格的に開始されて日が浅いために課税関係も複雑です。実際に信託を設定する場合には,税理士の方に課税関係を確認しておく必要があります。

 次に信託は,特定の財産の運用を前提にしています。ですから成年後見人のように身上監護(施設との契約など)ができるわけではありません。包括的に支援するのであれば,信託と後見制度を併用する必要があります。信託だけ設定すれば将来が安心というわけではありません。

 信託を設定しても遺留分の問題は残ります。平成30年9月12日東京地裁判決では,遺留分請求を妨害することを目的とした信託については公序良俗違反で一部無効という判断がされています。これではせっかく相続対策として費用をかけて設定した信託が無駄になってしまいます。なにごともやりすぎは否定されるということでしょう。

 このように信託は便利な方法ではありますが「信託ありき」というのは間違った姿勢です。いずれも制度も完璧なものはありません。いずれもメリット・デメリットがあるなかでどうやってバランスをとるかがポイントになってきます。

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