クレーマー

不当な要求を回避し、適切な医療を提供するために

医療従事者に対して明らかに不当な要求をしてくる患者あるいは家族が現実には存在します。不当な要求だと感じつつも「患者だから丁寧に説明をすればわかってくれるはず」と曖昧な姿勢で対応しているといつまでも根拠のない要求を受けるだけということになってしまう危険があります。 
適切な医療を提供するためにも不当な要求をする者に対しては,「もはや患者ではない」という覚悟をもって毅然と断る姿勢で臨むべきです。 

Q1「不当な要求には応じない」と頭でわかっていてもクレーマーを目の前にするとなかなか思うように対応できません。クリニックにおけるクレーマー対応の難しさの理由はどこにあるのでしょう。

A1

クリニックにおけるクレーマー対応が後手に回ってしまう理由は,クレーマー対応への明確な指針がないからです。「患者だから」「話を大きくすると世間体が」といった理由から「なんとなく」の対応をしてしまいクレーマーのペースで物事が進んでしまうことになりがちです。これではクリニックの経営に支障がでるのみならず適切な医療を求める患者にとっても不利益になります。

 クレーマー対応において大事なことは,不当な要求に対して毅然な対応を取ることです。そして毅然な対応とは,「断る」ということに尽きます。不当な要求をする者は,「もはや患者ではない」という意識を持つべきです。

Q2クリニックにおけるクレーマーからの不当な要求としてこれまでどのようなケースがありましたか。

A2

 クリニックにおける不当な要求の事例としては,治療行為自体の是非よりも周辺の事情に関するものが多いです。例えば「(待ち時間が長いため)優先して診察をしろ」「自分の言うように診断書を書け」などが挙げられます。
 もっともクレーマーの要求は,要求内容が特定されているとは限りません。治療時間中に執拗に電話あるいは面会を求めつつも具体的な内容について判然としない場合も珍しくありません。このようなケースの場合には,相手の要求内容を確定させることからはじめると話を進めやすくなります。要求内容が曖昧なまま場当たり的な対応をしていると要求内容が増える一方です。

Q3「おかしい」と思っても周囲からの目を意識するばかりにうまく対応できません。どうすればいいでしょう

A3

 院長が言いがかりだとわかっていても毅然とした対応ができない理由のひとつには,世間体を意識しすぎることがあります。「ここで明確に断ったら風評被害にならないか」と不安視するばかりに不当な要求にもしぶしぶ応じてしまう場合などが典型です。こういった対応は,クレーマーに対して「この院長は声を荒げれば対応する」という間違った自信を与えることにもなりかねません。「できない」と明確に伝えることがクレーマーからの執拗な攻撃を避けるうえでは必要になってきます。この覚悟が決まらない限りいくらノウハウを蓄積しても問題の解決にはつながりません。

Q4クレーマーからの要求を安易に拒否したらいわゆる医師法の定める応召義務に違反したと批判されませんか

A4

 医師がクレーマー対応において悩む理由のひとつには,医師法の定める応召義務との関係があります。医師法第19条第1項では「診療に従事する医師は、診察治療の求めがあった場合、正当な事由がなければ拒んではいけない」と定められています。法律の文言だけでは,なにをもって診察を拒否する正当な理由になるのかわかりません。そのため医師も「拒否したら医師法違反になるのではないか
」と萎縮しておかしいと感じつつも診察に応じるということになってしまいがちです。これでは医師の犠牲のうえに診察がなされることになりあきらかに不当です。
 医師の応召義務は,医師に無限の責任を強いるものではありません。不当な要求しだいでは,診察を拒否する正当な事由があると判断して診察を拒否するのもひとつです。これまでの個人的な経験からしても要求を断ったことで応召義務違反と指摘を受けたことはありません。大事なことは「なぜ断ったのか」の理由を明確にしたうえで証拠を確保しておくことでしょう。

Q5担当者に「うまく対応して」と伝えてもなかなかうまくしてくれません。どうしたら自分の手から離すことができるでしょうか

A5

 厳しいことをお伝えしますがクリニックにおけるクレーマー対応は,すべて院長の指示と責任のもとで実施されるべきものです。それにもかかわらず多忙を理由に事務局に対応をすべて任せてしまっている院長が少なからずいます。任されたスタッフとしては,院長からの「うまく対応して」という指示とクレーマーからの要求に板挟みになってしまいます。疲弊したスタッフは,「耐えられない」として辞表をだしてくるかもしれません。クレーマー対応において「うまい対応」というものはありません。そのような方法があれば誰も苦労はしないでしょう。
 クレーマー対応は,誰にとってもストレスのかかることです。だからこそ組織のトップである院長が自ら対応しなければなりません。院長が率先して対応するからこそスタッフも院長への信用を抱くようになります。
 もっとも院長が率先して対応するといってもクレーマーに対して直接対応するという趣旨ではありません。それは可能であれば担当者に任せればいいことです。必要なことは方針を定め担当者に指示をだすことです。

Q6患者ではない周囲の家族が根拠のない要求をしてきます。この場合にはどうしたらいいでしょう

A6

医療現場におけるクレーマーのひとつとしては,本人ではなく周囲が不当な要求を執拗にしてくることがあります。例えば患者ではなく患者の家族が本人の代理人としてクリニックに対して根拠のない要求をしてくるケースなどです。
 こういったケースでは,必ずしも本人の意向に基づいているかわかりません。本人としても諸々の事情から不本意ながら家族の判断にしたがっているだけということもあります。
 家族だからといって当然に代理人として何かを要求できるわけではありません。ですがとかく院長としては,「家族だから」ということで根拠も曖昧なまま対応して問題が複雑になっているケースがあります。「誰がいかなる根拠で要求しているのか」についてはきちんと押さえてから話を進めるべきです。
 もちろん家族として説明を受けたいなど根拠のある要望に対しては真摯に応じるべきです。ですが「家族だから」というだけで根拠のない要求に応じる必要はないです。安易に対応していると「あれもこれも」と要求が拡大してくるケースが少なくありません。

Q71日になんども容態以外のことで電話をしてこられて困っています。どのように対応するべきでしょう

A7

 クレーマーは,自分の要求を実現させるために診察時間中に執拗に電話を求めてくることがあります。そのたびごとに診察を中断して対応する医師のストレスは相当なものです。仮に対応が遅くなれば,それをもってさらなるクレームに発展することになりかねません。そのため院長は,いつのまにか「相手の機嫌を損ねないこと」ばかり気にするようになってしまいます。これではクレーマーにとっては,思うつぼになってしまいます。
 執拗な電話に対しては,「でない」という判断も必要です。ただしたんに電話にでないだけではさらにヒートアップすることもあります。そこで電話ではなく書面によるやりとりに切り替えていくことがポイントになります。書面でやりとりをすることによって事後的に裁判になったときの証拠として利用することもできます。

Q8「でも患者だから」と感じて躊躇してしまいます。患者とクレーマーの区別をどう考えたらいいでしょう

A8

 クレーマー対応は,担当者個人のスキルに依存するのではなく組織として対応することが肝要です。担当者個人のスキルに依存すると退職と同時に誰も対応することができなくなるということにもなりかねません。
 組織として一体的な対応をしていくためには,マニュアルを策定しておくことが必要です。「この場合には,このように対応する」という指針があるからこそ現場も自信をもって対応することができます。クレーマー対応においては,担当者による判断を可能な限り要しないようにすることです。判断を求められるほどに担当者は「患者だから」ということで毅然とした対応ができなくなります。
 こういったマニュアルを作成するうえで最初に確定させるべき事項は,クレーマーの定義です。クレーマーの定義は,あるようでないのが実際のところです。だからこそ担当者は,『クレーマーとして対応していいのか』と悩むことになります。そこで院長が自らの判断で「こういう人はクレーマーとして対応する」と事前に定義づけしておくべきです。「1日に容態以外に3回以上電話してくる」など可能な限り判断基準としてシンプルなものにしてください。複雑にするほどに判断を要して迅速な対応ができなくなります。
 気をつけるべきことは,クレーマーの定義に正解などないということです。「正解がある」と考えるといつまでも定義を作ることができず「患者だから」ということで曖昧な対応で終わってしまいます。これでは本質的な解決になりません。必要なのは,まず定義を作ることです。

Q9繰り返し丁寧に説明しても理解してもらえず同じことの繰り返しです。どこまで説明すれば納得してもらえるのでしょう

A9

 たいていの人であれば,丁寧に説明をすれば事情について理解をしてくれるはずです。ですが相手がクレーマーの場合には,いくら説明をしても理解をしてくれず「説明責任を尽くしていない」といつまでも批判が続くことがあります。院長としても「いったいどこまで説明すれば解放されるのか」と徒労感に襲われることになります。
「こちらが説明をすること」と「相手が納得すること」は,まったく意味が違います。いくら説明を詳細にしても相手として聞き入れる意思がなければ,納得に至ることはありません。クレーマーの場合には,自分の要求を実現することが目的であるため説明を聞き入れる意思がないです。そのためいくら説明をしても納得してもらえないものです。
 説明責任とは,説明するべきことを説明することであり相手の納得まで求めるものではありません。ですから同じことの繰り返しならないように説明を打ち切るということも必要です。その前提として「なにをどこまで説明をした」という事実を事後的に検証できるようにしておく必要があります。

Q10自力ではもはや対応する気力もありません。クレーマー対応は誰に相談するべきでしょう

A10

 クレーマー対応に関しては,外部の力を活用するのも重要です。すべて自分だけの力を解決しようとしても限界があります。
 弁護士であれば,クレーマーへの対応方法についてアドバイスをしてくれるはずです。まずは自分ひとりで悩むのではなく弁護士と課題を共有することから始めるべきでしょう。
 正式に弁護士に依頼すれば,クレーマーとの対応は代理人として対応してくれます。直接自分で対応する必要がないというだけでも精神的に楽です。「今後の診察には応じられない」という通知を弁護士名で実施することもあります。
 あるいは必要に応じて警察に協力を求めることも効果的な方法です。例えば待合室で声を荒げ診察に支障がでているようであれば,警察を呼んで現場の平常を確保するべきです。院長はとかく「警察を呼ぶと話が大きくなるのでは」と躊躇しがちですが,そういった姿勢こそ問題の解決を困難にしています。警察を一度呼んだだけで解決したケースもあります。