告訴・告発・被害届の違いってわかります?

投稿者:
島田 直行(弁護士)
2017.05.20 労働事件

社員が不正に会社のカネに手をつけると「すぐに刑事告訴してくれ」と相談してくる経営者の方がいます。ですが実際に刑事告訴の意味を理解して相談に来られる方は少数派です。告訴と告発の違いもわからないままとにかくどうにかしてやりたいという一心で来所するのがむしろ一般的でしょう。ですが不正確な情報で対処法を間違ってしまうこともあります。ここでは刑事事件における告訴・告発・被害届というものについて考えてみましょう。

捜査の端緒としてはどれも同じ

告訴・告発・被害届は,いずれも捜査の端緒のひとつとされています。捜査の端緒とは,「犯罪がある」と考えるようになったきっかけといってもいいでしょう。捜査の端緒には,他にも職務質問などもあります。

一般的に刑事事件は,捜査と公判というふたつのプロセスから成り立ちます。捜査とは公判のための準備手続としての性格を有しています。みなさんも捜査という言葉は耳にしたことはあるでしょうが「捜査とは」と質問されると回答に窮するのではないでしょうか。捜査とは,簡単にいえば将来の公判のために犯人と証拠を確保することです。あたりまえですが裁判は,対象となる人がいなければはじまりません。また裁判で有罪として認定されるためには,根拠となる証拠が必要です。

近代刑事裁判の特徴は,訴追する側(検察),判断する側(裁判所),弁護する側(弁護人)が明確に区別されているところにあります。そんなことあたりまえと思われるかもしれませんがすごいことなんです。例えば時代劇の遠山の金さんなどの御しらす。あれは「お前がやっただろう」と言う人と判断する人が同じです。考える結構無茶な話なわけです。

いずれにしても社長が社員の不正に対して告訴なりをすれば,捜査の端緒としてはじまります。

告訴・告発と被害届は意思表示の違い

告訴・告発と被害届は,捜査の端緒としては同じですが含まれる意思の内容が違います。

まず告訴・告発は,犯人に対する処罰の意思が含まれています。つまり「こんな犯罪をした人を処罰して欲しい」という意思があるというわけです。そして告訴・告発を受けた捜査機関としては,捜査を開始するひつようがあります。社員に不正を働かれた社長としては,当然ですが「この社員をなんとか処罰したい」という意識になるでしょう。ですからやるとすれば告訴をすることを考えることになります。

被害届は,たんにある被害にあったということの報告です。そこには当然には処罰の意思は含まれていません。捜査機関としては,実際に捜査するかどうかを決める裁量があります。

このように告訴・告発と被害届では,捜査の開始について効果が違ってきます。捜査を確実に求めるのであれば,告訴するということになります。

告訴と告発は,誰が捜査機関にコンタクトとるかによって違います。告訴は基本的に被害者などの当事者になります。告訴することができる人は限定されています。これに対して告発は,事件の当事者ではない第三者がするものとイメージすればいいでしょう。

社員の不正の告訴は結構大変

社員を告訴すれば,あとは捜査機関がすべてうまくやってくれるというわけではありません。捜査機関に対しては,協力をしていかなければなりません。この負担が想像するよりもかなり大変とよく耳にします。

例えば経理担当者が会社の資金を抜き取っていたとしましょう。たんに通帳から使途不明金が引き下ろされているというだけでは不十分です。いつ誰がどうやって引き下ろして自分で利用したということまで証拠をそろえていかなければなりません。社長のなかには,「総額〇円がわからなくなっている。これで証拠として十分だろ」と安易に考えている方が少なくありません。

帳簿を整理するためには,担当する社員を用意しないといけません。警察がすべての帳簿をひとつひとつ確認してくれるとは限りません。むしろ会社で整理することが求められることが多いでしょう。そうしないと捜査機関としても資料の把握のしようがありません。ある会社は,わざわざ税理士の方に費用を支払って対処していました。

このように刑事事件に社員をするというのはそれほど単純ではありません。むしろ会社の負担がさらに大きくなるという結果になることもあります。実際に刑事事件にするべきかは弁護士の意見を聞かれることをお勧めします。

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