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その後悔のなかに

島田 直行 弁護士:島田 直行 投稿日:2026.09.11

 人生を振り返れば、後悔していることはいくつもある。「あのとき別の選択をしていたら」「もう少し勇気を出していたら」と考えることは、年齢を重ねるほど増えていくような気もする。若い頃は、後悔というものをできるだけ減らした方がいいと思っていた。正しい選択を重ねて、なるべく失敗せずに生きていくことが、よい人生なのだと思っていたのかもしれない。しかし今は、少し違う。後悔というのは、人生におけるスパイスのようなものではないかと思っている。もちろん、なくて済むならその方がいい。それでも、振り返って何も思うことがない人生というのも、どこか味気ない。誰かを大切に思ったから後悔する。何かを本気で望んだから、別の可能性を考えてしまう。挑戦したかったから、「やっておけばよかった」と思う。そう考えると、後悔とは単なる失敗の記録ではない。自分が何を大事にして生きてきたのか、その跡のようなものなのだと思う。

 小宮あすかさんの『戦略的後悔の表明』を読んで、その感覚がとてもきれいに言語化された気がした。本書では、後悔という感情が心理学の研究を通じて丁寧に解きほぐされている。特に印象に残ったのは、「やってしまった後悔」と「やっておけばよかった後悔」では、残り方が違うという話である。やってしまったことには、あとから謝ったり、修正したり、何か行動を起こしたりできる。しかし、やらなかったことは、いつまでも「もしあのとき」という別の人生を想像させる。たしかにそうだと思った。そして、それこそが後悔の苦しさであり、同時に人間らしさでもあるのだろう。本書を読んでいるうちに、自分の中で長くモヤモヤしていた後悔に対する感情が、少しずつ整理されていった。後悔していること自体を、無理に否定しなくてもいい。後悔には痛みがあるが、その痛みが、自分にとって何が大切だったのかを教えてくれることもある。読後には、カタルシスというのだろうか、不思議なくらいすっきりした気持ちになった。

 結局、後悔とは、人生を受け入れた証なのではないかと思う。少し矛盾しているようだが、僕にはそう感じられる。後悔があるということは、それだけ真剣に選んだということであり、それだけ別の可能性を大切に思っていたということでもある。だから、後悔と希望はコインの表と裏のようなものなのだろう。過去を振り返って「あれでよかったのだろうか」と考えるからこそ、これからどう生きたいのかを考えることができる。もちろん、後悔にとらわれ続ける必要はない。過去は変えられない。しかし、後悔まで否定してしまえば、自分が何を大切にしてきたのかまで切り捨ててしまうような気もする。後悔があるからこそ、我々は生きる意味を問い続けることができるのではないか。人生というものは、正しい選択だけを積み重ねて完成するものではない。迷い、間違い、ときには立ち止まりながら、その都度、自分なりに選んできたものの集積なのだと思う。そう考えると、後悔もまた人生の一部である。『戦略的後悔の表明』は、後悔をなくす方法を教える本ではなく、後悔とともに生きることを少し肯定してくれる本だった。僕にとっては、それが何より印象に残った。

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