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不正行為

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【10社に1社は被害】なぜ信頼していた社員は不正に手を染めてしまうのか

島田 直行 弁護士:島田 直行 投稿日:2023.01.06

信頼していた社員が不正に手を染めていたときの失望は、言葉に尽くせないものがあります。社員による不正は決して少なくありません。個人的な印象では中小企業の10社に1社が多かれ少なかれ被害にあっています。不正が発覚すると 不正の解決にばかり目を向けてしまい「なぜ不正に手を染めたのか」という本質的な議論を失念しがちです。これまで10年以上にわたり不正の問題を目にしてきた弁護士として不正の動機というものを整理してみました。このブログを読んでいただければ、なぜ不正に及んでしまうのかについて知ることができると同時に対策のヒントも手に入れることができます。

中小企業における不正の典型的な事例とは

個別の動機を整理する前に不正の典型的な事例について確認しておきます。中小企業における不正の特徴としては、次の3点が指摘できます。

  • 不正の方法としてはものすごく単純
  • 被害は少額が長期にわたる
  • 長年にわたり信頼している社員による実行

これについて解説をしていきます。

不正の方法はものすごく単純。ゆえにわからない

中小企業における不正の方法は、調べれば誰でもわかるほどにシンプルです。むしろ事後的に見れば、なぜこんな不正を発見できなかったのかといえるものばかりです。不正の方法がシンプルなのは、社員も犯罪のプロではないため複雑なことをするノウハウがないからです。しかも複雑なことをするほどに自分でもコントロールできなくなります。ですから自分でもわかりやすいとてもシンプルな方法しかできないわけです。

ただし方法がシンプルであることと発見がしやすいということは同じではありません。むしろ単純であるほどあたりまえの業務のなかに埋もれてしまって見つけることが容易ではありません。

しかも中小企業では、特定の作業が特定の社員にだけ任されています。例えば10年以上にわたり同じパートの人が経理を担当しているといったケースは珍しくありません。経理というのは、直接的に売上にかかわるものではないため社長としても興味が持ちにくい分野です。ですからある社員に任せたつもりがいつのまにか丸投げということになります。丸投げされた本人としても「誰も見てはいないから」というささやきに引っ張られてしまいます。たぶんこれはみなさん頷くところではないでしょうか。「ひとは信じても行動は信じるな」とはよく言われる格言のひとつです。頭でわかっていてもなかなか「では担当を変える」ということにはなりません。担当を変えて教えなおすことへの負担が気になってしまうからです。簡単に言えばスイッチングコストがかかるということにつきます。

これを前提にしてこれまで対処してきた不正の事例をあげてみましょう。

  • 経理社員が架空の経費を計上して利得
  • 営業担当者が在庫を横流し
  • 事務社員がタイムカードの打刻を偽装
  • 小口現金から現金を抜き取り
  • 顧客のカバンから財布を抜き取り

いずれも「ありうる」とイメージしやすい不正でしょう。こういった不正には業界ごとの特徴もあります。例えば介護関係では、利用者の私物を窃取するというケースもよくあります。利用者の判断能力が低下していることを利用した手口です。たいてい家族からの申入れを受けて調査(カメラ設置など)して発覚するに至ります。

被害は少額で長期にわたるから高額になります

中小企業の不正は、1回の被害額があまり大きくなりません。数千円から数万円といった金額が通常です。もっとも発覚までに長時間を要するために結果的に被害額が膨大になるのみならず全容を解明するのが著しく難しくなります。昔の通帳や会計資料などはすでに廃棄処分しているところも少なくないでしょう。

不正は最初の1回がとくに重要です。僕は、これを倫理の壁といっています。社員は、たいてい最初の1回に手を染めるまでに相当悩みます。最初から「この会社でうまくやろう」というひとはまずいないでしょう。モチベーションをもって入社したものの事情によって悪いと思いつつ手をだしてしまうということになります。

そして1回目を終えるとしだいに規範意識が鈍磨し2回目、3回目と繰り返していきます。こうなるともう転がり落ちるのは早いです。よく「なぜやめなかったのか」と経営者が追及することがあります。これは加害者の内面におそらくなにも伝わりません。加害者は、たいてい「これは悪いことでやってはいけない」と理解しているものです。理解しつつも止められない状況になっているというのが正しい認識です。ですから発覚したときには「むしろ自分を止めることができて安堵した」という気持ちになるようです。

信頼している社員による実行

こういった不正は、「まさか」というような信頼している社員の手によってなされることが少なくありません。例えば口数の少ない人がひっそりやっていたということもあります。彼らにすれば、「自分は信頼されているから目をつけられない」という自負があるのかもしれません。そういった自信はだれが見てもおかしなものですがおかしいとわからなくなってしまうのが怖いところです。

私たちは、「信頼」という言葉に圧倒的な価値を持っています。同時に「なにをもって信頼を計測するか」と問われれば個人的に抱く印象の他にありません。それほど信頼というのは実態があるようでないものです。「信頼していたのに」と口にする経営者には、「何を信頼していたのか」と尋ねることがあります。たいてい明確な回答はないです。とかく丸投げしたことをもって信頼していたとごまかしているだけです。

不正に手を染めてしまう者の動機

では不正に手を染めてしまう者の動機についていくつか事例を挙げておきます。

まずもって多いのが生活苦からです。日本では、教育費を見るだけでも過去10年間で相当負担が増えています。もはや夫婦共働きがスタンダードとも言えます。そのなかで物価も確実に高くなっています。それにもかかわらず自分の年収は、さして増えてもいません。膨れあがる生活費、増えない年収。これが社員の置かれた現実です。「それなら年収があがるように努力すればいい」というのはあまりにも暴力的な発言です。どうすれば年収があがるかわからないからこそひとは悩んでいるわけです。方法論もなく結論だけを伝えても理想論でしかないです。ある社員は、「社長は夢のあることを語るが年収が増えないと意味がない」と言っていました。これが現実ですし正直な気持ちでしょう。ひとは、ときに家族のためであれば自分を見失ってしまうということです。

次にあるのが浪費。よくあるのがギャンブルにはまって消費者金融から借り入れをする。その返済ができないために会社の資金をあてにするという構造です。ギャンブルといってもさまざまなものがあります。最近ではオンラインでのカジノにはまってしまい破産する事案も増えています。どこでもできるというのはどこでも浪費できるということと同じです。浪費の別形態としては、出会い系アプリで知り合った異性に多額の資金を投入するというものです。相手から求められると拒否できずに購入する。その代金の不足を会社の金で補填するというものです。加害者に「これだけの買い物ができないのは明らか。相手も不正を知っていたのでは」と問い詰めてもたいてい「知らないと思う」という回答しかないです。おそらく相手は知っていたはずです。それでも相手を巻き込みたくないという思いがどこかにあるのかもしれません。

最後にあるのは経営者に対する腹いせ。これだけが直接の原因というのはないのですが副次的な要因としてどのケースにでもあります。「自分はこんなに安い月給で使われているのに社長は外車に海外旅行。なぜだ」という怨嗟から生まれてくる動機です。それに対して「それは努力が足りないからだ。自分は経営者として重責を担っている」というのはもっともな反論ですが社員に届くことはないです。格差の進行が進む社会においては、努力すらできない状況に置かれているひともいるわけです。そういうひとにたいして「努力が足りない」と安易に回答することは、無理なことを強いることになり対立を生みだします。ひとはとかく近くにいるひとに強い怨嗟をもってしまいます。「なぜ社長だけいい暮らしをするのか」という思いは、自己の不正を正当化するものになります。

思いとどまらせることこそ社長の責任

不正を知ると社長は、自分は被害者であるということを当然として語ります。もちろん被害者であることに間違いはありません。同時に考えていただきたいのは、なぜ社員の不正を思いとどまらせることができなかったかということです。

さきほども書きましたが最初の不正に至るまでには本人にも相当の葛藤があります。できれば、社員を犯罪者にさせないために同時点で思いとどまらせるべきでしょう。たいていなにがしかの異変があるものです。それに気が付けなかったところに襟を正すべきところがあるといえます。「なぜ社員の不正まで自分が責任を感じる必要があるのか」というのであれば、おそらく経営者の姿勢として間違っています。厳しいことを言いますが経営者は、会社という組織のすべてについて責任を負うべき立場です。社員の不正は経営者の不正と同じことです。

異変に気がつくには、やはり日頃からの1対1の対話こそ最大の抑止力です。「社長は自分を見てくれている」という意識こそ最後に踏みとどまらせるものになります。無関心こそ最大の悲劇です。

もっとも対話をしましょうと抽象的に言っても忙しい社長はたいていすぐに忘れます。はやりの1on1にしても最初の数か月はできてもすぐに飽きて辞めてしまうケースも珍しくありません。

僕は、そういった形にこだわることなくもっと気軽な対話で十分だと考えています。毎朝会って挨拶をする。誕生日にはおめでとうという。ほんのわずかなことを繰り返すというのが大事です。対話の回数こそ意識してもらいたいところです。

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