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後継者・幹部育成

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なぜ自己啓発本を山積みしている経営者はトラブルに巻き込まれやすいのか

島田 直行 弁護士:島田 直行 投稿日:2020.02.09

この仕事をしているといろんな人に出会います。出会いを通じながら「こういう傾向ってあるよね」というのを感じることもあります。別にデータに基づくものではなくあくまで直感的なものですが。直感はときに事実と異なることもありますがリスク回避という点では役に立つことも多々あります。ですから僕は自分なりの直感というものをそれなりに大事にしています。

そういう観点からすれば「自己啓発本を自室に山積みにしている経営者はトラブルに巻き込まれやすいな」というひとつの感覚をもっています。とくに労働トラブルに巻き込まれやすい。はじめて社長室に呼ばれて本棚にびっしりと自己啓発本が入っていていると「なるほど。経営者にも問題があるかも」と感じるものです。こういった言葉にならない感覚って問題の本質をつかむうえでも大事です。僕は、会社関係の仕事についてもできるだけ依頼者の会社を訪問するようにしています。会社を見たところで労働問題が解決するわけではないし、債権が回収できるわけでもないです。単純に「目の前の問題」をどうにかするだけであればあえて会社に行く必要がないときでも可能な限り訪問するようにしています。それが遠方でも。

やはり「現場」というのはいろんなものを教えてくれます。そこには決算書だけではわからないいろんなものが転がっていて問題解決のヒントを提供してくれます。他の人からすれば「どこにでもある風景」かもしれませんが僕にとってはヒントの宝庫ですね。とくに労働事件においては絶対に会社を眺めておいた方がいいです。「社員の人は挨拶してくれるか」「晴れの日の傘立てはどうなっているか」「事務所は明るいか」「物が多すぎないか」など。なんともない風景こそ実態を推測する材料になります。

ではなぜ自己啓発本を山積みにしている経営者は労働問題で頭を悩ますことが多いのでしょう。自分なりに整理してみたのらこんな感じになりました。

勢いではじめて定着をさせることができない

誰にとっても「新しい」ということは魅力的に映るものです。ですからビジネス書などを読んで新しいモデルを学ぶと「これだ」ということになり意欲的な経営者ほど「自社でも取り入れてみよう」ということになります。

ですが新しいものを導入するというのは、スタッフにとってはかなりの負担となります。ただでさえ忙しいのに新しいことを経営者の勢いだけではじめられるとたまらないというのがスタッフの本音でしょう。これを理解していない経営者が少なくないです。経営者のなかには「社長がするといったことに従うのが社員だろ」ということを平然と口にする方にいまだに出会うことがあります。それはそうかもしれませんが社員として「つきあいきれない」と愛想をつかされることも珍しくありません。これほど人手不足の現在においてひとりの退社が与えるインパクトは大きいものです。

僕は、自己啓発本が悪いとは考えていません。モチベーションを高める道具なるのであれば活用するべきでしょう。ただのめり込んでしまうと周りが見えなくなってしまう可能性も有るということをお伝えしたいわけです。

経営者はたいてい気が短い。新しい方法を知ったらすぐに自社でも取り入れて結果を手に入れたいという欲求にかられます。ですが新しい方法を導入しても結果がでるまでには相当の時間を要するのが一般的です。ある方法を導入したらいきなり結果が抜本的に変わったというのはある意味で怖いです。あるいは「今まで何をしていたの」ということなります。

何事も同じですが導入よりも定着させるプロセスこそ難しいものです。できる経営者ほど同じ経営理念を繰り返すのは概念の定着がいかに難しいかを理解しているからです。だからこそ経営者は新しい方法を導入すると決めたらきちんと導入するプロセスまで確定して伝えなければなりません。

それにもかかわらず経営者は、結果にフォーカスするばかりで「具体的な導入はやっておいて」と部下に丸投げということもままあります。これでは投げらえた側も困ってしまいます。それでも業務命令だからと対応せざるをえない者の立場はつらいものです。

その間に経営者はまた別の本を読んで「これだ」ということで社内に提案することになります。こんなことを続けていたら社員からは「また新しもの好きの社長のこと。適当に流しておけば興味も失うだろう」ということいになります。

経営者はきちんと導入のプロセスまでフォローしておかないとたんなる新しいもの好きな人で終わってしまいます。しかも社員からの信用も失ってしまうことにもなりかねません。

知識を手にすることが目的になってしまう

事業で成功した経営者はたいてい勉強熱心です。ですが厳しいことに勉強熱心だからといって事業に成功するとは限りません。立て板に水のように最新の経営理論まで語ることができるのに社員から労働事件で訴えられた経営者もいます。

知行合一という言葉にあるように知識は行動と一体にならないと意味がありません。どれほど自己啓発本などで知識を得たとしても自分の行動を変えてみないとなにも現実は変わりません。つらいかもしれないけど真理です。

はっきりいって自己啓発本は面白いです。なぜなら他人の成功体験を疑似体験して高揚することができるからです。「なんか自分でもできる気がしてきた」というのは何事にも代えがたい感情でしょう。でもいざ自分でやってみると想像していたようにはならない。「おかしい」という気持ちになってさらに別の本を手に取って再び高揚感を手に入れることになります。こういった高揚感はある意味で依存性があります。同じような自己啓発本をわかっていても毎回購入してしまうのは、こういった高揚感を味わい続けたいからでしょう。しかも「より強い刺激」を求めるようになって周囲が見えなくなります。

周囲が見えないというのは、社員の顔すら見えなくなることです。ときに経営者のなかには、社員全般のことを悪く言う人がいます。「うちの会社は人財に恵まれていない」など。僕は、こういうスタンスの経営者の仕事は受けません。人ですからなかには会社の方針に合わない社員もいるでしょう。ですが社員全体があわないということは通常考えられません。こういう場合には経営者自身に問題があるものです。自分の問題を冷静に見ることができずに社員に責任を押し付けるのはどうなんだと。

なにかを学ぶというのは行動を変えるヒントを手にするためです。知識を集めることが目的になってしまうと「行動すること」がしだいに億劫になってきます。これは机の引き出しのようなものです。あまりにもたくさんの物を引き出しに詰め込むとなにかに引っかかって引き出せなくなるときがあります。知識も入れすぎると引き出して活用できなるわけです。

よくあるのが古いビジネス書までがいつまでも経営者の本棚に飾ってる場合です。「とても感銘を受けてなんども読み返している」というのであれば本棚にある意味もあります。ですがたいてい置いてあることに意味はありません。「買って読んだからなんとなく置いている」という場合が圧倒的に多いです。具体的な理由はないけどなんとなく捨てられないというわけです。結果として捨てられない本が山積みになってしまいます。

あらゆる情報には鮮度があります。時代を超えて鮮度を維持するものもありますが絶対的に少ないです。だからこそ情報の選択が必要になります。情報が多すぎるとかえって情報に踊らされてしまって行動できなくなります。「情報は手放すもの」という前提に立つことではじめて情報の価値について真剣に考えます。

情報を集めることで満足することはやめましょう。たいていは知識を周囲に自慢するだけで終わってしまって社員からも「う~ん」と言われてしまいます。

地味な仕事が嫌になってくる

自己啓発本を読むとおのずと意識が高揚してくるものです。そこにでてくる熱い言葉などを目にすると「これではいかん。一旗揚げてみせるぞ」というのは立派なことです。そういうやる気というのは周囲にも伝わるものです。

自己啓発本の内容は、たいてい誰かの個人的な成功体験をベースにしています。そこには「自分の力で成功を手にした」という熱いメッセージが添えられていることもあります。ですが個人の成功というのは、本人の認識とは異なって多分に周囲の支援や偶然性によるところがあります。そのため記載してある通りに何かをしたとしても同じような結果になるとは限りません。

「自分の結果がうまくいかないのはなぜか」と冷静にフィードバックできればいいのですが高揚しているなかでは「自分の責任」というものを認めるのが難しくなります。うまくいかない原因を外部の要因に求めることになってしまいます。

誰かの意識を高める言葉ってたいてい抽象的でかつ曖昧な表現のものが多いです。「ノートをコピーする」といったような具体的な言葉で誰かが高揚することは普通ない。人は曖昧でふわっとした表現のものこそ「真実を告げられている」と考えてしまいがちです。誤解を恐れずもっと言えば曖昧な表現こそ自分なりの解釈ができるので自分で自分を鼓舞しやすいのです。

こういう場合には社員への指示内容も曖昧な言葉でなされるようになります。曖昧な言葉で鼓舞されているので指示も曖昧な表現を利用して社員の共感を求めようとするわけです。言われた社員としては「社長はいったい何をいいたいのか」とチンプンカンプンになります。社長が何となく語気強く語っているので「わかりました」とは言うもののいまいちよくわかりません。わからないなりに対応していると社長から「それじゃない」とつっこまれ嫌になってきます。

熱い言葉というのはいいものです。ですがそれは社員への指示にはなりません。言葉を咀嚼して社員の行動に落とし込むのが経営者の役割です。とかく熱い言葉ばかり語る経営者は地味な作業に対して価値を見いだすことができずに興味を失います。「それは社員がするべきことであって自分が考えるべきことではない」という気持ちになってくるのかもしれません。

実際には収益の大半は、こういった地道な作業の積み重ねでうまれています。地道な作業なくして日々の利益はありません。いきなり本屋で手に取った本で利益がでたということは通常ないでしょう。地道な作業への興味を失い社員に丸投げしはじめるとしだいに経営にしわよせがでてきます。せっかく築き上げたものが壊れることがあります。

ある会社ではベテランの社員の方が社長の定まらない方針にうんざりして退職したこともあります。社員は、経営者よりも経営者を見ているものです。

日々の地道な作業こそ大事なものだと意識しましょう。それを担う社員をきちんと賞賛することが組織の安定化につながります。

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