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後継者・幹部育成

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労働事件の勝者。そういう考えこそが問題を複雑にする

島田 直行 弁護士:島田 直行 投稿日:2021.02.18

「弁護士だから争うこと好きなんでしょ」と適当に口にする人がいますが、そんなわけないです。なかには争うことに興奮する人もいるかもしれませんが。ですが少なくとも僕は、「できれば争いごとは避けたい」というスタンスです。そもそも争いごとにエネルギーを奪われてしまったら生産性もあったものではないでしょう。しかも「勝つこと」にこだわる人ってたいてい長期的に見たらあまりいいパフォーマンスになっていません。これって労働事件ではとくに妥当することです。その点について個人的な見解をちょっとお伝えしておきましょう。

なぜ自分が正しいと断言できるのか

そもそも労働事件というのは、経営者と労働者が対立する場面です。お互いよく知っている関係だからこそ論理を超えた感情的な対立になることが珍しくないです。弁護士としても「つきあいきれない」と言いたくなるときも多々あります。感情的な対立という構造は、ある意味で相続における争いに似ているかもしれません。「問題を解決する」という本来の目的が見失われて「自分が不利になるのは許せない」「あいつだけ利益を得ている。おかしい」という細かな感情に引っ張られてしまうことがあります。いったん感情の奴隷になると弁護士が横から冷静なアドバイスをしてもなかなか聞いてくれないので困ります。むしろアドバイスを「なぜ弱腰なんだ」とよくわからない批判すら受けるからやりきれないです。そういうクライアントからは手を引くしないです。だって負けますもの。

感情的な対立になるとたいてい自分の正義を語りたがるものです。「これが正義だ。相手の言い分は正義にもとる」ということですね。「あー」と思わず天を仰ぐ瞬間なわけです。たぶんブログをご覧になっている士業の方も「だよな」としみじみ感じるところでしょう。もちろん正義を貫く姿勢は大事です。ただ世の中には絶対的な正義というものはありません。あるのはあくまで「自分の考えている正義」です。それを絶対的な正義と誤解してしまうからこそ世の中に紛争が生じるのかもしれません。駆けだしの弁護士の頃に先輩から「正義を語るときには抑制的であるべき。それはときに人を狂わせる」というアドバイスをいただいたことがあります。まさに金言かと。

人は自分を鼓舞するために正義を掲げるときもあるでしょう。それを否定する意図はありません。ただ「なぜ自分の正義は正義なのか」と一歩立ち止まって考えるようにしましょう。労働事件においても労働者に何かを伝えるときに「なぜ自信をもって自分の意見を伝えることができるのか」をひとり時間をとって考えてみてください。それだけで冷静に事実を眺めることができます。

勝つことに溺れてコストが無限に流れていく

企業にとって利益は事業を存続させていくために不可欠なものです。いかに立派な経営理念があっても利益を確保できなければ継続させていくことはできません。経営者は、「この瞬間」だけではなく将来も含めた責任をすべて背負っています。そのため経営判断も将来を見据えたものでなければ意味がありません。ときには肉を切らせて骨を断つという判断も必要なはずです。それにも関わらず労働事件という「この瞬間」の問題だけにフォーカスしてしまい長期的な視点での冷静な判断ができなくなる場合があります。

つまるところ経営者は、勝負が好きなんです。「先の見えないところを自分の力で変えていく」というところに魅力を感じるのでしょう。経営とは、まさにそういうものでしょうし。でも労働事件をひとつの勝負としてとらえるのは承服できません。もちろん裁判になれば勝訴・敗訴という概念がありますから勝負としての性質を有していることは否定できません。ですが「勝負にでること」を前面にだす必要は本当にあるのでしょうか。

裁判というのは経営者の主張が当然正しいという前提に立ったシステムではありません。あくまで双方の主張を証拠に基づいて確定していくものです。いくら真実がどのようなものであれ結果として証拠によって異なる判断がされることがあります。簡単にいえば真実に関係なく経営者が敗訴することもあるということです。ですから「裁判になれば自分の主張が認められる」というのはあまりにも楽観主義的すぎるということです。

しかも裁判においては不可避的にコストがかかります。弁護士に依頼すれば弁護士費用がかかるのはわかりやすいでしょう。でもそれだけでは終わりません。訴訟の準備のためにスタッフを利用すれば、人件費をはじめとした数字にでてこない費用が無限に流出していきます。費用と時間をかけたうえに敗訴したら本当に何をやってきたのかという虚無感に襲われますよ。「島田さんの言うように裁判なんてしなかったらよかった。うまくいかなかった」と後日相談に来られるケースもよくあります。いっときの感情で流されるのは最悪です。

こちらが身構えれば相手も身構える

あたりまえですがこちらが「勝負だ」と身構えれば、労働者側も身構えるに決まっています。「問題を解決する」という本来の共有課題を忘れてしまい「自分の意見を押し通したい」ということになります。一体何をしたいのかということになりますね。しかも双方が身構えると事後的に脱力して話し合うのが難しくなります。こちらから振り上げた拳を下ろさないと相手も下ろさないでしょう。でもそれができないためいつまでも膠着状態になってしまいます。

ですから頭のいい経営者は最初から拳をかかげるようなことはしないものです。事前に準備をしたうえで相手の話をじっくり聞こうというスタンスです。つまるところ相手もこちらが攻撃してこないとわかれば安心して話をしてくるわけです。この「最初に一手」をうまくだせるかが大事なんです。ここで下手にプライドに絡まれるとせっかく早期に解決するチャンスをみすみす失ってしまうことになります。

まずこちらが脱力する。それがプロ経営者のあるべき姿勢です。脱力できるのは偉大な能力ですよ。

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