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残業代請求

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固定残業代を導入。でも導入にはリスクもあります

島田 直行 弁護士:島田 直行 投稿日:2023.08.04

労働時間の管理方法のひとつとして固定残業代を導入している企業は少なくありません。でも経営者のなかには固定残業代について誤解をして事後的に多額の未払賃金を請求されるケースもあります。つまり「固定残業代を導入すれば安心」というものではないのです。むしろリスクを増やしてしまう可能性もあります。本ブログでは、これまでの経験から見た経営者の誤解を中心に固定残業代の課題を整理しておきます。一読していただければ自社で見直すべきポイントを把握できるはずです。

そもそも固定残業代は企業にとって有利なものではない

経営者のなかには、「固定残業代≒残業代の抑制」という間違った認識を有している人が散見されます。これは危険な誤解です。そもそも論ですが固定残業代は、残業代を圧縮させる効果などまったくないです。そんなことが許されたら日本中の企業が固定残業代を導入しているはずです。むしろ固定残業代は、人件費の負担を増やすことになっても減らすことにはなりません。

これは固定残業代の制度からして当然のことです。例えば月20時間相当の固定残業代を設定したとしましょう。このとき残業が24時間となれば、固定残業代+4時間の残業代を支払う必要があります。あたりまえですが固定残業代をいれたとしても「固定残業代を支払えば無制限に残業をさせることができる」というものではありません。労働時間を管理して事前に合意した時間外労働時間を超えれば追加で支払う必要があります。逆に1か月の労働時間が15時間しかなかったとしましょう。このときも固定残業代の全額を支払う必要があります。この場合には会社としては、実際の労働時間に対する金額を超えた負担を強いられることになります。

現実的なところで固定残業代を導入する理由は、労働者のモチベーション向上がメインとなってくるでしょう。

労働人口の減少によって中小企業の採用難という状況が続いています。こういった状況は、おそらくこれからも継続していくことが予想されます。労働者が会社を選択する要因としては、やはり収入が大きい割合を占めるでしょう。いくらやりがいとか言われても現実的に生活の糧を確保できなければ暮らしていけないからです。

「安易に基本給をあげるわけにもいかない。さりとて社員には給与も支払いたい」という経営者の悩みを解決するひとつの妥協案として固定残業代があると言えるかもしれません。社員からすれば、なにより大事なのは細かい手当よりも「いくらもらえるのか」という絶対的な数字でしょう。固定残業代を設定してもらえれば、月による残業代の上下を意識せずに安定した収入を予測することができます。「安定」というのは、生活をしていくうえでもとても大事なことです。収入の予測が立つからこそライフプランの設計や支出を検討することができるからです。

もっとも採用時において見かけの数字をよくして求職者をだますようなことがあってはいけません。例えば基本給〇円と記載しておきながら事後的に「これには〇時間の固定残業代を含む」というようなあとだしじゃんけんをしてはいけないということです。これでは労働契約が無効ということになりかねません。しかも社員のモチベーションを一気に低下させることにもなるでしょう。

固定残業代が労働事件になるとき

では固定残業代が争点となる事件について確認しておきましょう。

労働者からは、「固定残業代は無効」という前提で残業代を請求されることがあります。このとき経営者は、「固定残業代は有効。その支払済みを控除するべき」と反論していくことになります。ここで裁判所が固定残業代の有効性を判断していくことになります。固定残業代の有効性が否定されると経営者として相当の負担を強いられます。

いわゆる残業代の計算は、ざっくり言えば次のような計算になります。

残業代=基礎賃金×割増賃金率×時間外労働時間

まず固定残業代が否定されると「(固定残業代で想定されていた時間の)残業代をもらっていない」ということになります。ですから負担すべき時間外労働時間が増えることになります。これだけでも経営者にとってはかなりの負担になってしまいます。

さらに厳しいのが固定残業代相当額も算定の基礎賃金に含まれてしまう可能性があるということです。例えば基本給30万円(固定残業代5万円を含む)というときに基礎賃金として25万円ではなく30万円をベースに残業代が計算されるということです。つまり単価が一気に高くなります。

基礎賃金も時間外労働時間も増えるために経営者は大きな負担を強いられることになるわけです。

できることから見直していこう

ではこういった固定残業代の紛争を避けるためにできることを現実的視点から整理しておきましょう。

まずは労働契約書あるいは就業規則においてきちんと固定残業代の内容(時間や金額など)について明記されているか確認してください。「口頭だけの約束で」というのは事後的に争われたときに問題になります。

就業規則においてよくあるのが就業規則には記載しているものの労働者へ就業規則を周知しておらず効果が否定されるというものです。就業規則は「つくればいい」というものではなく労働者へ周知しなければ意味がありません。

こういった記載で散見されるのが固定残業代として給与明細に記載された名目と就業規則などで記載された名目が違うというものです。例えば給与明細では「残業代」とされ、就業規則では「職務手当」等表記されているというものです。こういった表現の不統一は、会社に不利に判断される要因になります。

次に給与明細でどの部分が固定残業代に相当するものであるか一瞥してわかるようにしてください。まとめて「残業代」と記載してしまうと固定部分と連動部分が区別できずにトラブルの要因になってしまいます。イメージとしては労働者が給与明細を目にしてどの部分が固定残業代なのかすぐにわかるような記載方法にするべきということです。解釈をともなうような記載は避けるべきです。

こういった固定残業代の場合でも労働時間の管理は必須です。固定残業代だからといって労働時間の管理をしなくていいというものではありません。時間の管理は会社の責任のもとで実施するべきものです。「労働時間の管理が不十分」という場合の責任は、会社が基本的に負担することになります。タイムカードなど客観的な方法により労働時間を管理するようにしましょう。

固定残業代の紛争では、固定残業代で想定された残業時間の長さ自体が問題視されることもあります。例えば固定残業代として想定された時間外労働時間が月80時間といったことになれば、公序良俗に反するものとして無効となる可能性があります。これは当事者が合意していたとしても無効になります。そもそも社会全体が長時間労働の抑制に動いているなかで無制限に固定残業代を認めることはできないでしょう。

固定残業代をうまく活用することは、社員のモチベーションの向上につながります。仮に固定残業代を導入するのであれば、「社員のモチベーションにいかに影響するか」という視点で社員と協議のうえで導入するのもひとつではないでしょうか。それが「働きやすい職場」になるためのひとつの道筋かもしれません。

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