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解雇・退職

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退職トラブルの防止から考える休職制度

松﨑 舞子 弁護士:松﨑 舞子 投稿日:2024.03.15

業務外の病気や怪我で従業員が休職した場合、いつどのように復帰してもらうか、復帰後に休職前と同様には働けないときにどう対応するか、といった点が問題となります。場合によっては休職した従業員の退職を検討しつつも、従業員とのトラブルや人材の流出を考えると判断に悩む事業主の方もいらっしゃるのではないでしょうか。本ブログでは、休職制度の整備、運用について、退職に関するトラブル防止の視点を交えてみていきます。

休職制度の利用場面でも慎重な判断を行いましょう

私傷病を理由とする休職の制度は、従業員に療養をさせて復職の機会を与える目的で設けられたもので、休職中の欠勤に対する解雇を猶予する制度といえます。

休職中の療養によって復職が見込めない場合には、休職制度を適用せずに解雇という流れもありえます。もっとも、「復職が見込めない場合」に該当するのは、意識不明の状態となったような例外的な場合とされています。

回復の見込みが立てづらい精神疾患を理由とする休職は悩ましいケースですが、休職期間を経ない解雇には慎重になるべきです。

休職制度の利用の場面では、事業主としては休職が必要と考えているものの、従業員が医療機関の受診や休職の指示に従わない場合の対応が問題となる例もあります。

法令上、従業員に労働安全衛生法66条所定の健康診断以外について医療機関の受診や休職を命じる規定はありません。

就業規則に受診命令休職命令を規定していれば、これらの命令を行い、なお従わない場合に業務命令違反として処分を行うといった段階を踏む流れとなります。

就業規則に受診命令や休職命令の規定がない場合でも、労働契約上の信義則ないし公正の観点を根拠に受診命令を認めた裁判例があります。

休職制度を利用するか否かの場面のポイントとしては、治療に要する期間や休職理由の傷病特有の注意点の有無の確認、従業員の希望と事業主の見解の調整が挙げられます。

復職可能と判断される場合の広がりに留意しましょう

復職の条件としての休職事由の消滅は、休職理由となっていた傷病が「治癒」したか否かによって判断します。治癒したと認められる状態とは、労働契約の債務の本旨に従った労務の提供ができる状態、つまり通常の業務を遂行できる状態まで回復したことを意味します。

通常の業務を遂行できるか否かの指針として、厚生労働省が発表している「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」に示されている、次の判断基準の例が参考になります。

・労働者が十分な意欲を示している

・通勤時間帯に一人で安全に通勤ができる

・決まった勤務日、時間に就労が継続して可能である

・業務に必要な作業ができる

・作業による疲労が翌日までに十分回復す

・適切な睡眠覚醒リズムが整っている、昼間に眠気がない

・業務遂行に必要な注意力・集中力が回復している

これらの判断基準を参考に、自社の実態に合った基準を策定しておくことをお勧めします。

「通常の業務を遂行できる」か否かの広がりについては、①「通常の業務」の範囲 ②遂行の程度の2つの側面で留意する必要があります。

①「通常の業務」の範囲

「通常の業務」の範囲は、休職していた従業員の業務内容が限定されているか否かが判断に影響します。

業務内容が特定されている場合は、休職前直近に従事していた業務が「通常の業務」となります。

業務内容に限定がない場合は、当該従業員の能力や経験、事業者の規模、従業員の配置の実状等からみて、現実的に配置可能な休職前とは別の業務の遂行可能性についても検討が求められる場合があります。

建設現場の監督がバセドウ病に罹患したため現場に出る作業ができず、自宅療養命令を受けていた事例では、従業員から「事務作業であれば可能である」との診断書を提出のうえ申し出があったにもかかわらず、現場での業務ができないとして休職扱いとしたため、休職扱いとなっていた間の給与の支払いを受けられなかった点が問題となりました。裁判所は、従業員の職種や業務内容に限定がない場合は、現に就業を命じられた業務が十分に行えないとしても、当該従業員の能力、経験、地位、事業者の規模、業種、従業員の配置、異動の実状及び難易からみて、当該労働者が現実的に配置可能な他の業務について労務の提供ができ、従業員が労務の提供を申し出ているのであれば、債務の本旨に従った労務の提供があるとするのが相当と判断しました。

休職後の復職の場面ではありませんが、通常の業務の提供が可能かの判断の指標となる裁判例といえます。

②業務遂行の程度

通常の業務を「遂行できる」状態とは、傷病がない状態と同程度に労務を提供できる状態とされています。

ただし、裁判例には、休職期間満了時において遂行可能な業務の程度について範囲を広げたものがあります。

神経症に罹患し休職していた従業員の復職の可否が争点となった事案について、裁判所は、一般論として、他の軽易な職務であれば従事可能であり、当該軽易な職務への配置転換が現実的に可能であったり、当初は軽易な職務に就かせればほどなく従前の業務を通常どおり行うことができると予測可能な場合には復職を認めるのが相当と判示しました。

業務遂行の回復可能性についても考慮する必要がある点に留意が必要です。

なお、復職時の判断においては、障害者雇用促進法の視点が必要となる場合があります。休職理由となった傷病が障害者雇用促進法上の「障害者」に該当する場合には、合理的配慮の提供が求められます。

障害者雇用促進法が適用される障害者は、「身体障害、知的障害、精神障害(発達障害含む)その他心身の機能の障害があるため、長期にわたり、職業生活に相当の制限を受け、又は職業生活を営むことが著しく困難な者」と定義されます(同法2条1号)。障害者手帳の交付を受けている場合に限られず、医師の診断書や意見書から認められる場合も含まれます。

合理的配慮については、厚生労働省が指針を発表しています。合理的配慮の内容は、職場における障害のある従業員にとっての支障の把握、当該従業員と事業者における合理的配慮に係る措置の内容に関する話合いのプロセスを経て確定します。指針には障害の内容ごとの具体例も例示されていますが、事業主に一定の措置を義務付けるものではありません。障害のある従業員が希望する合理的配慮に係る措置が過重な負担であったとき、事業主は、当該従業員と話し合い、意向を十分に尊重した上で、過重な負担にならない範囲で合理的配慮に係る措置を講じ、当該措置を講ずることとした理由又は当該措置を実施できない理由を説明するとされています。

復職の可否を判断する基準とその傾向からすると、復職する従業員と十分に向き合うプロセスが求められているといえます。

復職前の状況を把握して適切な判断につなげましょう

復職に関する判断を適切に行うにあたっては、休職中あるいは復職前の状況確認、必要に応じた復職支援も有効です。

復職前の回復状況の確認については、従業員に直近の診断書の提出を求めるほか、公表されている復職準備に関する評価指標の活用、従業員の主治医からの意見聴取により判断材料を集めます。判断材料をもとに、産業医にも助言を求めることで、専門的知見に基づいた適切な復職の可否の判断が期待できます。

復職支援が必要な場合には、リハビリ出社を行うほか、地域障害者職業センターの支援を活用する方法も考えられます。

復職後のフォローと解雇とするか否かの判断についても対応を準備しましょう

裁判例の傾向として、復職可能と判断される範囲の広がりがある点を考慮すると、復職後のフォローについても、計画を策定し、管理監督者を配置して実施する必要があります。

考慮すべき点としては、「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」において示されている次の点が参考になります。

①疾患の再燃・再発、新しい問題の発生等の有無の確認

②勤務状況及び業務遂行能力の評価

③職場復帰支援プランの実施状況の確認

④治療状況の確認

⑤職場復帰支援プランの評価と見直し

⑥職場環境等の改善等

⑦管理監督者、同僚等への配慮等

⑥の職場環境等の改善については、復職した従業員だけでなく、他の従業員にとっても働きやすい職場の実現につながるメリットもあります。

⑦管理監督者、同僚等への配慮等については、過度の負担がかからないようにすることと併せて、心の健康問題やケアの方法に関する情報提供、研修等を行うことが挙げられています。

復職後のフォローを行なってもなお従業員が回復したとは認められない場合は、退職勧奨や解雇を検討する流れとなります。

例えば、各休職期間は就業規則上の範囲内に収まっていても、通算した期間が所定の期間を超える場合には、解雇を検討する余地があります。

原因や部位は異なるものの怪我を繰り返し、5年の間に、4か月、5か月、1年、6か月と断続的に合計2年4か月にわたり欠勤等した事例では、事業主による指導があったにもかかわらず勤務実績等が変わらなかった点も考慮されて解雇が有効と判断されました。

同様あるいは類似する原因による休職の場合も、断続的に繰り返す場合は、全体として見れば通常の業務を遂行できる程度に回復していないという判断もありえます。

ただ、うつ病で休職していた従業員について回復可能性があったにもかかわらず、事業主が主治医への面談を行っていなかった点を理由に解雇が無効とされた裁判例もあるため、慎重に手続を踏んで判断する必要があります。

休職に関する規定、体制の整備から取り組んでみましょう

本ブログでご紹介した休職制度の利用、復職、復職後の対応の各段階でのトラブルを軽減するには、就業規則の整備が第一歩となります。

休職制度の利用段階においては、受診命令及び休職命令を規定しておくと、休職の判断に事業主としても関与がしやすくなります。

復職段階では、「治癒」の定義を明確化しておくことで、復職の可否の判断が行いやすくなります。例えば、「治癒」の状態を「通常の業務を遂行できるまで回復した状態」と定義してしまうのも一手です。

復職後の対応の関係では、解雇となる場合も見据えた規定の整備を検討します。一案としては、同一又は類似の原因に基づく休職期間を通算できるようにする規定を設けると、繰り返しの休職による上限既定の形骸化を防止できます。

また、休職期間満了後の取り扱いについて、普通解雇事由とすると解雇権濫用法理の判断を受けます。解雇権濫用の判断において検討する客観的合理的理由、社会通念上の相当性は厳格です。当然退職事由としておくと普通解雇の場合の厳格な判断を回避し得ます。

また、各段階の判断を適切に行うための体制として、産業医との協力関係の構築も有用です。

休職に関する規定、体制の整備は、トラブルの回避だけでなく、貴重な人材を適切につなぎとめる手段や、従業員全体にとって働きやすい職場環境の整備にもつながります。このようなプラスの側面も考慮しつつ、体制整備を勧められてみてはいかがでしょうか。

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