クレーマー対応に失敗した経営者の懺悔と後悔

投稿者:
島田 直行(弁護士)
2021.01.14 (更新日:2021.01.22) クレーマー対策

「クレーマーにはしかるべき対応を」とは誰しも口にするものだがいったいどれほどの経営者が行動レベルに落とし込んでいるだろうか。口では立派なことを言えても商売だから行動で示すのはなかなか難しいものだ。たいていは社員に「なんとか。うまく」というほとんど無理を強いるようになる。そもそも本気になることができないのは,クレーマーで本当に苦労したことがないからだ。いちどでも経験したら「こんなことが続いたら会社がもたない」という決意が生みだされる。しかも前提としてクレーマー対応に失敗した経営者はたいてい懺悔と後悔をするものだ。というわけで今回は経営者がいったいクレーマー対応の何に後悔するのか人生の末路を見てみよう。

優秀な社員から「この会社はもう無理」と辞表をだされる

ある飲食店では,クレーマー対応が上手な女性のスタッフがいた。話を聞く限りでは「たしかに上手」という感じだった。だがさすがの彼女をしても「これは自分のレベルを超えている」という人物にあたったそうだ。このとき経営者が「それなら弁護士に」と言えばよかったものを「がんばれ」という無責任な言葉を突きつけてしまった。脱線するが僕は,「がんばれ」という言葉が苦手で使わない。「がんばれ」なんて具体性に欠けていて意味がない。たいていは精神論としての「耐えろ」と同じだろう。それって強要罪じゃないのと常々感じているから口にはしない。経営者も安易に言わない方がいいですよ。「そんな社長こそがんばれ」と言われるかもしれないわけで。

その彼女はがんばった。それでもうまくいかなかった。社長に相談しても曖昧な指示ばかりでなにもない。なんとかクレーマー対応に成功したらいきなり彼女から辞表がでてきたそうだ。青天の霹靂とはまさに。あわてた社長はご機嫌を取ろうとしたもののまったく相手にもされない。個人的な経験からして女性がいったん決意したらてこでも普通は動かない。それほど耐えるだけ耐えて爆発したということだ。優秀な女性だったのに。社長はなんて馬鹿なことをしたのかとあきれてしまった。そんなめんどくさいことを丸投げしたら誰も怒るに決まっている。

結局のところ優秀な社員ほど「この社長はだめだわ」とわかる。そして自分の進退をはっきりさせる。だめな経営者ほど「話せばわかる」というが「話せばわかるときもある」というのが悲しいかな現実だ。クレーマー対応という面倒くさいことを丸投げしようという姿勢は確実に社員の信頼を失わせる。それはもうあっという間だ。だからこそ経営者が率先して対応しなければならないといつも口を酸っぱくして言っている。クレーマー問題から労働問題になるケースなどざらだ。

なんでもできる器用な人はつぶれてしまう

そもそもクレーマー担当の人って経営者の信任が厚くよくできる人が任せられる。売り上げが5億円を超えていくには,No.2の有無が決定的な意味を持っている。どんだけ個人が必死になっても5億円を単独で超えていくのは簡単ではない。10億円の壁を越えて行くにはなおさらだ。小さい会社でもNo.2の人がしっかりいると「ここ化けるかも」と思わずうなってしまう。それが強烈なワンマンだけで邁進している人は「どこかで頭打ちなるよ」と伝えている。そもそもできる人は自分で何でもやってしまうために組織としての売り上げにならない。

さてこういったNo.2は,たいていクレーマー対応をさせられる。というかあらゆる仕事を任せられる。トップにバイタリティーがあるほどにあれもこれもとやらないといけないことが増える。それを実行していくのがNo.2の仕事と言える。つまり何でもできてしまうし何でもやらざるを得ない立場というわけだ。これ,言葉としては立派だけど実際には相当のストレスがかかる。本人も気がつかないうちに業務過多で倒れてしまうものだ。実際のところクレーマー対応であまりにも時間を取られてしまってメンタルヘルスに支障を来す人もいた。クレーマー対応が直接の原因と言うよりも他の業務の負荷も重なって倒れてしまうと言うわけだ。

こういった人材はなかなか恵まれない。せっかく出会ったのに退職となったらもはや企業の成長もあったものではない。

職場が静かに分断してしまう

クレーマー担当者は,誰が見てもストレスがかかる。周囲の人からすれば「大変そうだ。自分は関わりたくない」ということになる。つまり口では担当者に「おつかれさま」とは言いつつも自分が率先して関わろうとはしない。担当者はいつも孤独になってしまいがちだ。人間は誰しも自分が誰よりもかわいい。傷つきたくない。だからクレーマーとはできるだけ距離を置きたいと考えている。それも無意識に。こういった無意識がいつのまにか職場を担当者と非担当者というように分断してしまう。担当者にすれば「自分だって好きでやっているわけではない。マーケティングとか華やかな仕事がしたい」と願っているはずだ。それはそうだろ。電話越しにキーキー言われるのなんて仕事とはいえ相当に辛い。

こういった職場の分断はいったん生じたら人間不信になって事後的に回復するのがほぼ不可能。もちろんカリスマのような人材がやってきて見事なリーダーシップで修復できれば見事だが,たいていは夢見がちな話だ。そんなすぐれたリーダーシップを発揮できるような人を待っているのは,奇跡を信じるようなものでしかない。そんな職場にしたのはまぎれもなく担当者のフォローをしなかった経営者の責任である。

このようにクレーマー対応に失敗すると組織自体が痛んで経営自体が「大丈夫か」ということになる。だからこそクレーマー対応は経営者が本気で考えないとまずい。